会話のタネ!雑学トリビア

裏モノJAPAN監修・会話のネタに雑学や豆知識や無駄な知識を集めました

剥製屋で出された肉鍋の正体は

オオカミは現存するか否かが議題になり、どうせならフィールドワークをしようという結論になった。
とはいえ山に入るのは恐いので、まずは野性動物について詳しいはずの剥製屋に取材
すべく、平日の夕方、学生3人で埼玉県の山間部にあるお店を訪ねることに。

「ああ、わざわざどうも、いらっしゃい」
鹿や烏の剥製が並ぶ土間を抜けて居間に通された僕たちに60過ぎと思しき主人は「二
ホンオオカミなんているわけないじゃろ」と一蹴。後は、
剥製の作り方や苦労話などを一方的に間かされる展開となった。
「ほう、メスで皮を切るんですか」

「そうじゃ、肉と内臓はすぐ取ってしまわんと腐りよるからな」
入り口の方で「すみません」と、お客さんらしきおばちゃんの声が聞こえてきたのは、お邪魔して1時間ほど経ったころだ。
「お、もう来たか」
目を輝かせながら立ち上がった主人は、仕事に取り掛かるからと、作業場へ姿を消してしまった。

代わって現れた奥さんが言う。
「多いんですよ。ああやって死んだペットを持ってくる人」
さっきのおばちゃんは、愛しい飼い猫と別れるのが忍びなく、もうすぐ寿命なので死
んだらすぐ剥製にしてくれと以前からお願いしていたらしい。
その気持ち、わからないでもない。話しかけて反応が返ってくるわけじゃなくても、
生前と同じ姿がそこにあるだけでペット愛好家は癒されるものなのだろう。さっさと成
仏したい猫にとっては迷惑な話かも知れないが。
「この前も大きな犬を持ってきた人がいましたよ」
「へえ、そんな仕事もあるんですね」
「ええ。ところでもう遅いから一緒に食事でもしていったらどうです?」
「いいんですか?ありがとうございます」
結局、芳しい話は何一つ聞けなかったが、こうして親切にされるのも学生ならではの
特権。お言葉に甘えさせてもらおう。
まもなく味噌のいい香りが漂ってきた。どうやら鍋のようだ。季節外れだが、腹も減ったし賛沢は言えん。ガッガッ行くか。
3人とも意気込んでいたはずだった。たらふく食って飲み明かす覚悟すらあったぐら
いだ。主人がおかしなことを言うまでは。

「学生さんもいいタイミングで来たもんだな。わしや、この新鮮な肉を食うのが楽しみ
でな」
新鮮な肉?新鮮な肉?もしかして……。
運ばれてきた鍋に手をつけることなく、僕たちは店を後にした。