会話のタネ!雑学トリビア

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中小の工場勤務の仕事の内容実態

景気の悪さに毒づいて、人はよくこんな台詞を口にする。
「会社つぶれたら、工場ででも働くか」
最終的なよりどころとしてどこかの工場に潜り込めば、最低限、食ってはいけるとでも思っているのだろう。はたしてその考えは正しいのか。工場ぐらいなら誰でも働けるなんて、世の中そんなに甘いものなのだろうか。
中小の工場を渡り歩く青年に実情を語ってもらった。

高校3年生の2月。オレは受けた大学すべてに落ちた。両親は予備校を勧めてきたが、
オレはもはや大学生になることに魅力を感じてなかった。自分が華やかな学生生活を送る姿がイメージできなかったのだ。だからフリーターになった。最初に勤めたコンビニは1年ほどで辞め、以降はずっと日雇い派遣のバイトだ。でもさすがに25を過ぎると、
両親も定職に就けとうるさくなってくる。自分自身も少し肩身が狭かった。
 そんな折に見つけたのが、新聞の求人チラシにあったこの仕事だった。
〝簡単な食品製造ライン工場〞「簡単」ならば出来そうだ。出来ないわけがない。面接のため現場へ向かった。目的の工場は、車の部品工場や物流倉庫などがずらっと並ぶ工業団地の中にあった。そこら中からトラックが出ては入り、入っては出ていく。面接は工場の説明を受けただけで終了した。どうやらここではシュウマイを製造しているらしい。シュウマイごときに工場があるなんて。ま、でも、そりゃあるか。
 初出勤の日、面接官が白衣姿でスタンバイしていた。
「じゃあこれ着て」
 渡された白衣を着て工場内に入る。体育館ほどのスペースに大きな機械が並び、ベルトコンベアが動いている。一定の間隔で立ち作業している人たちは全部で30人くらいか。流れはだいたいわかった。巨大なプレス機に3人がかりでひたすらミンチ肉を投入し、同時に別の人間が刻み玉ねぎや調味料を放り込む。
 薄く伸ばされた肉はラインを流れ、人の手でシュウマイ大に丸められて、隣のラインの皮の上へ。そいつを機械がくるむ。機械から5個1列に並んだシュウマイが出てきたら、人の手でグリーンピースを一個ずつ載せて完成だ。最後の包装は機械が行う。オレの持ち場はグリーンピースゾーンだった。シュウマイの中央に、ただただグリーンピースを載せるだけの、広告に偽りない「簡単な」作業だ。
 3人の先輩のやり方を真似て、いざ仕事を開始した。大量のグリーンピースが入っている箱から5粒だけ手にとって、流れてきたシュウマイにトントントン。目の前にきたらトントントン。半分はスピードに追いつかず逃してしまうが、ラインを挟んで4人がジグザグに並んでいるので、後ろの人たちがサクサク処理してくれる。はい、流れてきたらトントントン。1時間もしないうちに、根本的な疑問がわきあがってきた。これ、人間がやる必要あんのか?まさに機械向きの仕事だと思うんだけど。
 8時間のグリーンピース作業はラクで良かった。煩わしい人間関係もなく、頭も使わない。しかし数日で体調がおかしくなった。作業中に吐き気がするのだ。毎日のように、途中でグリーンピースを投げ出し、工場のトイレで吐いた。そして先輩たちもときどき持ち場を離れてトイレへ駆け込んでいく。肉の匂いのせいか。いや、そういう酔いじゃなく、もっと体の芯からクラクラするような気持ち悪さなのだが。
「ライン酔いだよ。それ、職業病だから」
 先輩は得意げに解説してくれた。ラインの早い流れを見つめつづけるせいで、脳が情報を処理できなくなり、公園の遊具でぐるぐる回ったような状態になるのだそうだ。原因がわかったところで、吐き気は止まらなかった。ベテランの先輩ですらゲーゲーやってるんだから、慣れないオレなど日に5回も6回もトイレ行きだ。
 そしてまた、あまりの退屈さにもイヤ気がさしてきた。来る日も来る日もグリーンピースを載せるだけ。明日も明後日もグリーンピースで、休みが明ければまたグリーンピースが待っている。嘔吐とグリーンピース載せを繰り返しながら、他の人たちはなにを考えているのだろう。シュウマイを食べて喜ぶ人の笑顔か? まさか。2カ月頑張ったところで、オレは辞意を伝えた。