会話のタネ!雑学トリビア

裏モノJAPAN監修・会話のネタに雑学や豆知識や無駄な知識を集めました

おいちょかぶの遊び方とルール

翌朝、環状線の音で目を覚まし、
三角公園に出向くと、公園の隅に
張られたテントの下に人だかりが
あるのを見つけた。近付くと、そ
こでは見慣れぬ図柄の黒い札が配
られている。オイチョカブだ。


オイチョカブ。ルールは丁半よ
りも少し複雑だが、基本的には親
対子の勝負。

2枚、あるいは3枚
の札の合計数の下4ケタが親よりも内輪で9に近ければ勝ち、

賭金は倍づけとなる。負ければ当然全額回収だ。
まず4枚のカードが場にオープ
ンされ、子はその中から好きなカ
ードを選んで、金を置く。
子が賭け終わったら、親は左か
ら順に2枚目の札を裏向けに置く。
子はそれを開き、3枚目の札をも
らうかどうかを決定。そのままで
OKなら「シモ」。3枚目が必要
なら「もう1丁」と圭屋とかける。
1枚目の札を選べる分、子が有
利のようにも思えるが、親の札が「1.4(シッピン)」
「1.9(クッピン)」
ならば無条件で親の勝ちなので、
やはり親に有利にできていること
に変わりない。


さっそく参加しようと割り込ん
だ僕だが、ここで大きな問題が。
オイチョカブ専用の札のため、絵
柄が数字の何を意味するのかが瞬
時にわからないのだ。隅っこのほ
うには小さな漢数字が振られてい
るとはいえ、テント下の暗闇では
よく見えない。今、並んでいるの
は5と1と、それから向こうの2
枚は、ん-と、何だ?
とりあえず手前の5に2千円を
置く。
無言で親のおばちゃんが2枚目
の札をよこす。えっと、これがま
たよくわからない。
「もう一丁」
後ろからギャラリーの声が飛ぶ。
なんだよ、あんたには関係ないだ
ろ。これは、ん-、7か。てこと
は皿だから、もう一丁か。
「あ、もう一丁」
3枚目は、ええと、1だ。ダメ
だこりや。親は8.2千円はあっ
けなく消えた。

その後も計算ができずオロオロしていると、

脇から「もう一丁」の声が飛ぶ。決して
その助言は間違っていないのだろ
うが、自分で判断ができないため
リズムが掴めず、負け始めるとそ
のままズルズルと行くのみ。ギャ
ラリーの操り人形のようにただ
黙々と金を放出している。


「歳とってから賭事したら人間が
小つちゃなるんや、ホンマやで、
にいちゃん」
負け続ける僕を見かねたのか、
親(胴元)のおばちゃんが言う。
もうやめておけという意味なのだろうか。

打ちひしがれた気分で一杯飲み
屋に入ると、急激に酔いが回って
きた。横では小柄なおばちゃんが
「マンチョ、マンチョ」を連発し
てカラオケを唄っている。どうか
してるよ、この町は。

ギャンブルで負けた金はギャン
ブルで取り戻すしかない。翌朝、
すでに常食と化した朝食、天カス
とネギ大盛りのきつねうどんを食
した僕は、あの壷振りの待つ場所、三角公園へと急いだ。
ここにきてようやく僕は、どの
種目が自分に向いているのかがわ
かってきていた。要するに、複雑
なものはダメなのだ。勝つか負け
るか2つに1つ。やはり勝負の舞
台は丁半博打に限定するしかない(
「お、にいちゃん、待つとったで」
目が合った補助のおっさんから
声が飛ぶ。待つとつたってか。よ
う一一言ったな、おっさん。
2万円を千円札に崩し、ひとま
ず僕はケン(見)にまわる。
「(4.5)の半」
「(1.2)の平と
「(2.6)の丁」
賜回ほど見たが、特に流れらし
きものはない。丁半共に3度以上
連続することはなく、1,2回で
出目がクルクル変わっている。客
にしてみれば最もヨミにくい展開
である。案の定、どのオヤジも賭
け金は500円前後、多くて千円
にとどまっている。みんな大きな
流れを待っているようだ。
ふと流れらしきものが見えてき
たのは、半が3度続いた後、4度
目の半が出たときだ。この流れに
うまく全乗れたオヤジはおよそ1万
円を手に入れている。
さて次はどう来るか。こういう
場合、考え方は3つ。これだけ続
けば次も半だと読むか、そろそろ
丁だと読むか。そしてもう1つ、
親の総取りと読むか。
しかし、僕は最後の1つはない
と見ていた。前回の経験上、この
壷振りはツラ目(片方の目だけが
連続すること)の流れを変えるた
めの(1.1)(1.6)は出し
てこないことがわかっていたから
だ。おそらくそれは露骨すぎて読
まれやすいとの腹があるのだろう。
「ヨッカイチ(4.1)の半やで」
これで5度目の半。周囲もザワ
ついてきた。依枯地になって丁に
張り続けてきたおっさんは、早く
も次の3千円をまたまた丁に賭け
ようとしている。
僕は左手に握った千円札の束か
ら5枚を引き抜いた。次も半。根
拠は示せないが、そこには確信め
いたものがあった。ここで丁はあ
りえない。100パーセントあり
えない。次も半だ。
いやーな予感がしたのは、半に
5千円を置いた直後だった。例の
依佑地なおっさんが、いったんは
丁に置いた3千円を半に置き直し
たのだ。
「もうないか-、もうないか」
僕はとっさに5千円を動かして
いた。丁に、ではない。(1.6)
にだ。なぜかと問われてもうまく
答えられない。格好をつけるわけ
ではないが、手が勝手に動いたと
いうのが一番適切な言い方だろう。
数秒後のどよめきは小便をちび
りそうな一瞬だった。(1.6)
を読みきった僕は2万5千円を手にし、その後、一進一退を繰り返
してまたしても千円札の束を持ち
帰ったのだ。