会話のタネ!雑学トリビア

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占いはインチキか?特殊メイクで別人になり同じ手相を見てもらった

 
 
 
よく当たると評判の手相占い師のウソを暴く

手相占いのバアさんがいる。50年以上の鑑定暦を誇り、よく当たると評判の人物だ。
頻繁にテレビにも出演しているため、芸能人を占っている姿をたまに見かけるが、その物言いは実にあいまいな印象だ。
「離婚の相がある。色関係には気をつけなさい」
「中指が薬指に寄っている。アナタはお母さんのほうが好きでしょ?」
「小指の付け根と感情線の間に横線がいっぱいあるから出会いが多いね。スケベだよ」
 
手相なんてもんはタダの手のシワであって未来など絶対にわかるわけないと考える。
表情や会話のはしばしから何に悩んでいるか推測し、いかにも当てはまりそうなことを言ってるだけだろう。
 
そこで今回は、彼女に次のような検証を行ってみたい。
①まず、協力者のカワイイ女性が占いへ向かう。
②翌週、同じ彼女が特殊メイクでブサイクな顔になり、再び足を運ぶ。
③1回目と2回目の予言を比較する。手のシワに変化はないはずだから、占い内容は完全に一緒になるべきだが、もし違えば…。

人を見かけや会話で判断し、あーだこーだ占う手法であるならば、一回目と二回目では別のことを言ってくる可能性は大だ。
日曜の午後、今回の協力者女性のユカ(23才)と合流した。
「じゃあ今日は普通に今のままの素顔で行ってきて」
彼女に鑑定料を渡し、いざ事務所へと送り出した。
2時間後、ユカが戻ってきた。最初20分くらいは手相を見ず、生年月日による運勢鑑定というカタチで
・あなたはガンコもん
・黙ってきいてるようだけど、内心まったく無視してる
・すぐに人に頼る
・衝動買いの気がある
といったダメ出しをしてきたようだ。
ま、誰にでもあてはまるような内容だが、手相よりもさらに眉ツバな生年月日占いなので、これは無視しよう。
「手相を観られたときは、18才から22才までに出会った人がいたでしょ?って聞かれたんです」
「何て答えたの?」
「付き合ってはいないけど、出会った人はいたんで、ハイって答えました。そしたら、今も連絡を取ってるかと聞かれて…」
探りを入れてきたようだ。
「たまに連絡取ってますって答えたら、その人が運命の人だから結婚しなさいって言われました」
その男、ただ本当に職場で出会っただけで、恋愛感情は微塵もなく、現在の連絡もあくまで友達としてのものだ。
「今後の出会いは全部ダメだって。合コンや飲み会の出会いは、オシマイとも言われましたよ」
 
また下品なことを言うバアさんだ。
この予言、「たまに連絡を取ってる」という答が出てきたので、運命の人に仕立て上げただけだろう。
 
【一回目の占い】
★18〜22才に出会った男性が運命の人。
★その他の出会いは、すべてダメ。
★合コンや飲み会での出会いは、オシマイ。
1週間後の日曜、ユカと共にメイクスタジオへ向かった。テレビ番組のコンテストでも優勝経験がある達人に、別人メイクを施してもらうためだ。
「どんな感じにしましょうか?」
「すっごいブスにしてください」
かわいいユカの顔が、どんどん醜くなっていく。
目をはれぼったくし、髪をパサつかせ、歯も汚し、安っぽいメガネをかけてオタク臭も出す。1時間後、いかにも幸薄そうなブスが出来上がった。まず前回と同一人物だと勘づかれることはないだろう。 では、2回目の占いへ突撃だ。今回は付き添い役&ツッコミ役としてオレも一緒に行くとしよう。事務所の待合室には、芸能人と一緒に写ったG座の母の写真が大量に貼られていた。一般的にウサン臭い人間ほど権威に頼りがちだが、まさにそんな感じですな。奥の部屋からバアさんらしき女の声がボソボソと聞こえてきた。先客の鑑定が行われているようだ。
「あなたは、意外とガンコ。自分でもわかってるでしょ?」
ユカのほうを見る。
「そうです。私が言われたのコレです」
全員に同じようなことを言ってるのだろうか。ガンコなんて誰にも当てはまるだろうし。
にしても、こうして待合室まで声が漏れているってことは、オレたちの鑑定でもそうなるわけか。インチキを暴いたら、後ろの客は全員帰っちゃうかもな。
まもなく「次の方どうぞ」と呼ばれ、順番が回ってきた。
張り切って参ろう。奥の部屋に入ると、座っていた。
「どっちが占いたいの?」
「…この子です。ぼくは兄なんですが、付きそいで来まして」
バアさんはユカを見つめている。バレてはいないようだが…。
「この子、ウツじゃない?」
「…ウツではないと思います。ま、大人しいほうではありますが」
オレが適当に応じたところ、バアさんが声を荒げた。
「かばうんじゃないよ!私は霊感強いんですよ。ウツの人を見たら、バーンと頭に入ってくるんですよ」
初っぱなから眼力を見せつけようと、ボロボロ顔に着目してカマしてきたのか。でもこれ、特殊メイクだからね。
バアさんは、ユカに年齢や生年月日、職業を聞いてから、〝星〞についてどうのこうの書いている本を開いた。
「あなたの星は、小栗旬や森星(モデル)と一緒のタイプ」
難しい表情でページをめくっていく。
「仕事は技術系だから、料理は向いてるわ」
「…そうなんですか」
「でもアナタ、意外とガンコ。素直に聞いてるフリして、何も聞いてない。自分でわかってるでしょ?」
これが例のダメ出しか。
「衝動買いをよくする。自己破産、注意。カードは何枚持ってる?」
「…1枚です」
「持ちすぎないように。言っとくわよ」
「はい」
「依頼心も強いわ」
このあたり、前回とまったく同じ流れだが、本を見ながらの生年月日占いだから、同じになって当然である。
「…そうでもないとは思うんですが」
「いや、そうなのよ。だからこうやってオニーさんに頼んで付いてきてもらったんでしょ?あなたは勝手気ままに生きてる」
有無を言わせずって感じだ。ブスだからおかまいなしってか。
「でも、今日は僕が望んで付いてきただけなんで」
バアさんがギロリと睨んできた。
「私が話してるんだから、余計なこと言わないように。どいてもらうよ」
「…いや、ただ僕は…」
「オニーさんはガンコだからな。ぱっと見てわかる。兄姉そろってガンコ」
…まぁ今はのさばらせておこう。あとでギャフンと言わせてやるからな。ダメ出しが15分ほど続いたところで、ようやく手相鑑定が始まった。
「悪い線は入ってないね。シワシワがない」
虫眼鏡でジーっと眺めてから、ユカに尋ねる。
「いま、好きな人はいるの?」
「いえ」
「23のころに線があるんだけど」
ん?そんな話は前回出てないハズだぞ…。
ユカが尋ねる。
「私、いま23なんですけど。ってことは今年中に出会いがあるってことですか?」
「もしくは、過去に好きになった人はいない?」
「…うーん」
 
質問を質問で返されたユカはどう答えていいかわからないという表情を浮かべ、ぼそりと呟いた。
「…ぱっと思い浮かぶ人は特には…」
「ふーん。18才から22才にちょこっと片思いの目が出てるんだけど、この線は、鼻くそね」
「… 18才からのやつがダメってことですか?」
「そう」
きた!
前回と話が違いますよ!
「鼻くそだから23の線だと思ったけど、それも(運勢が)下がってるし、あまりよくない」
「…じゃあ、将来的にはどうでしょうか?」
「ないね。あなたは特別いい結婚線がない。25もダメ、28から30はもっと下がっている。アナタは、恋愛ではいい人が出て来ない。合コン、飲み会に行くしかないよ」
ほぉ、合コン飲み会ですか!前回はされるって言ってたクセに!
「でもね、おばちゃんのほうが下がってるからわかるんだよ。あなたはこうやって優しいお兄さんも付いてるし、大丈夫チャンスはある」
何だかキレイにまとめようとしているが、ちょっと待て。ここからが本番なんだぜ、バアさんよ。
 
【2回目の予言】
★18〜22才の出会いは、鼻くそ。
★他の出会いはダメ。
★合コンや飲み会での出会いに期待せよ。
バアさんが満足そうにしゃべり終えたところで、オレはユカの素顔写真を取り出した。
「すみません。ひとつ伺いたいことがあるんですけど、このコを覚えてませんか?」
「誰なの?」 
覚えてないようだ。
「先週、こちらで手相を見てもらった子なんですが、この彼女と、同一人物なんですよね」
「……」
素顔の写真とユカを交互に見つめているバアさん。ふふっ、ビビってるぞ。
「で、先週の占いと、今日とでは結果が違うんですよ。どういうことなんですか?」
「…はぁ」
何を言われているのかわかってないようだ。ちゃんと説明してやろう。
「前回は、18才から22才の間に出会った人が運命の人だと言われたんですよ」
「……だからさっき、過去に好きになった人はいなかったか聞いたじゃないの?」
バアさんがユカを見る。
「本当はいたの?いたのにいないって言ったの?」
「その時期に知り合った人はいます」
「…連絡は取ってるの?」
「はい」
言っとくけどそれ、好きになった人じゃないからな。知り合った人だからな。
「じゃあ、その人でいいじゃないの。アンタらもヘンなこと言うわね!」
何だその切り返しは。反論になってないって。
「ヘンなのはそっちですよ。さっきまで鼻くそと言ってたのに、いま話が出た途端、その人でいいって。結局、手相なんか関係なく、テキトーなことを言ってるんですよね?」
「適当じゃないわよ。だから私は最初から23って言ってるじゃないの」
「23?どういうことですか?」
「18才から22才の時期に知り合った人と連絡を取り合ってるんでしょ今。23じゃないの。ほら、合ってるじゃないの」
なんて屁理屈だよ!
「でも、前回は23の話は一切出てませんよ」
「それは、愛情線と結婚線と違うからよ。ほら、ちょっと見せて」
バアさんがユカの手を掴んで、ボールペンでぐりぐりなぞりだした。
「ほら、ここ、23才の結婚線がちょっと下がってる。だから決定的なことは言えないと思ったのよ。でも、連絡を取り合ってるなら、上手く進んでるんでしょ?それで合ってるじゃないの」
バアさん、「連絡を取り合ってる」という意味を拡大解釈して、恋愛に発展させたいようだが、その「連絡」ってのは、ただの友達としてのそれだから。
ま、それにしてもさすがベテラン占い師だけあって煙に巻くのは上手いな。
では、合コンの件はどうゴマかすのかな?
「もう一つ疑問がありまして。今回は合コンや飲み会に行ったほうがいいって言いましたよね?」
「23才の線がダメならね。でも出会いがあるんでしょ?だったら行く必要ないよ」
「でも、もしダメになったらいけばいいですね?」
「そうよ」言ったな。言い切ったな!
「でも前回、アナタみたいなタイプは、合コンに行くとされるって言ったんですよ」
「言ってねーから」
シラを切るのか!
「それが言ったんですって」
「絶対ねーから、ねーから、ねーから」 
ダダっ子のように首を振るバアさん。そのとき、背中から声がとんできた。
「おにーさん、もう帰ってよ!」
振り向くと、オッサンのスタッフがすごい剣幕で睨み付けている。
「うちの先生が、言うわけないじゃないか」
ヒートアップしてきたな。こちらも引く気はないぞ。
「言ったんですよ。それに占い自体も適当ですよね」
「適当じゃない!うちの先生はね、有名な方もたくさん見られてるんだ」
「有名人を見てるかどうかの話は関係ないでしょ」
「あなた、失礼だろ!」
いまやつかみかかろうとせんばかりの雰囲気のオッサン。一方、バアさんは、ユカに向かって何やらゴチャゴチャ言い出した。
「あなたね、連絡してる相手を大切にしなさい。24までに進展がなければ、合コン飲み会。でもそれじゃなくても出会いのチャンスはいろいろあるからね。大丈夫よ」
おいおい、今までの予言をすべて否定するような、すげー普通過ぎるアドバイスになってんじゃん。さすがはキャリア50年の占い師。うまく丸めこもうってか。
「やっぱりアンタ、適当に言ってるじゃないですか!」 
バアさんが頭を抱える。
「あー、うるさいうるさい。もう頭痛くなってきた。お金返すんで、帰ってちょうだいよ」
読者のみなさん、以上を読んでどうお思いになられたろうか。これでもまだ手相占いなんてものを信じられるだろうか。ちなみに例の言った言ってない問題については、こちらには確たる自信がある。
初回の録音音源があるのだから。