公園ならいい。そのへんの路地でもいい。
でも中にはいるのだ、わざわざお洒落エリアの人混みで、犬を散歩させる飼い主が。
人々の注目が犬に向かう。「可愛い!」だの「フワフワだ〜」だのと。
そのときの飼い主の表情といったらない。あくまで犬がほめられているだけなのに、まるで自分がチヤホヤされてるようなドヤ顔なのだ。
連中は誤解しているのではないか。自分の人気だと勘違いしているのではないか。そして、そのためにあえて人混みに連れてきているのではないか。
当人たちに確認してみよう。
週末、都内の某巨大公園周辺に出向いた。近くにカフェや雑貨店などが並ぶオシャレスポットで、若者が大勢歩いている。
オープンカフェのテラスに、これ見よがしに小型犬を側につなぎ、しらけた顔でコーヒーカップを傾けるオッサンがいた。
40代ぐらいか。ジャージ姿で何を気どってんだか。
しばし観察を続けていたら女子中高生の集団が通りかかった。案の定イヌを見つけると小走りで近づいていき、黄色い声をあげている。オッサンったら、ニンマリしちゃって、もう。
●…探偵 ○…飼い主
●(イヌを見ながら)いや〜、可愛いですね〜。
○フフフ。
●飼い主さんとしては鼻高々ですね。
○フフ。そうだねぇ。
●なんていう種類なんですか?
○コーギーですよ。
●へえ。
○そう、うん。
●こういう人通りの多い場所に連れてきたらチヤホヤされるでしょうね。
○そうだねぇ。
●でもなぁ…。
○……。
●それってチヤホヤされてるのはあくまでワンちゃんっていうか。
○うん。
●飼い主さんがチヤホヤされてるわけじゃないっていうか。
○はい?
●言いにくいんですけど、まるでご自身がチヤホヤされてると勘違いしてませんかね?
○え?
●みんなが誉めてるのはイヌであって、飼い主のほうではなくて。
○ええ〜。別にそんなこと思ってないよ。
●じゃあどうしてこんな人混みにわざわざ来るんですか? イヌを見せつけるみたいにして。
○うーん、別に理由はないけど。キミ、失礼じゃない?
●確認したいだけなんです。もしかしてイヌじゃなくてご自身が人気者だと誤解されてますか?
○そんなことないよ。もうアッチ行って。
声をかけたときと最後では、おっさんの表情がまったく変わってしまった。図星だったからなのかも。