以前、日雇いの建築現場で知り合ったトンでもないオッサンの話だ。そのオッサン、歳は50過ぎのどこかとぼけたキャラクターで、俺の何を気に入ったのか、休憩中も仕事の合間にもぴったりと横にくっついてアレコレ話しかけてくる。昼メシの時間もそうだった。
「おい、コンビニの弁当でも食うか?おごってやるぞ」
「え、マジすか。ありがとうございます」
ちょっと馴れ馴れしくて苦手だったけど、いいところもあるじゃん。現場近くのコンビニは、昼時ということもあり、大勢の客がひしめき合っていた。さっそくキン弁当を手に取ったオッサンがアゴをしゃくる。
「オマエも好きなの選べ。遠慮しなくていいぞ」
お言葉に甘え、ハンバーグ弁当をチョイスし、2人でレジに並ぶと、オッサンは俺から弁当を取り上げ、小声で言った。
「いいか。オマエは黙ってみてろ」
なに言ってんだ?首をかしげている間に会計の順番が回ってきた。頭をポリポリやりながら、オッサンが店員に話しかける。
「あの、ついさっきこの弁当を買ったんだけど、いらなくなっちゃったんで返品してもらえないですかね?温めもやってないから大丈夫でしょ?」
それに答えて店員。
「はあ。レシートがあれば返品は可能ですけど」
「あ、レシートね。ごめん、それ家に置いてきちゃった」
「でしたら返品はできかねますが…」
「あ、そう。それじゃもういいです。おい、行こうぜ」
そう言ってオッサンは堂々と店を出て行く。後ろをついていく俺は気が気じゃなかった。あんた、これ万引きじゃんか!コンビニから離れたところで問い詰めると、オッサンは悪びれもなく口を開いた。
「全然バレなかったろ?返品してくれっつって断られたから、その商品を持ち帰る。これじゃ誰も疑いようがないもんな」
「いや、だけどさ…」
オッサンが話をさえぎる。「ただし、コレをやるときは、必ず昼時の混雑時を狙えよ。店員に陳列棚から弁当を取り上げるとこ見られたら一巻の終わりだからよ」
やれやれ、いつもこの手口で弁当をタダ食いしてんのか。まったく、なんて悪知恵の働くオッサンだ