会話のタネ!雑学トリビア

裏モノJAPAN監修・会話のネタに雑学や豆知識や無駄な知識を集めました

お客を見て値段を変えるボッタクリ屋台

横浜の西口にちょっとした屋台通りがある。川沿いに12〜13軒ほどが並んでいるのだ
が、特徴は、どこもおでん屋で、なぜか料金メニューがないことだ。怪しすぎである。屋台だからとナメてかかったら、がつんとボッタくられるパターンじゃないのか。博多の中洲なんかでもよく聞く話だし。というわけで金曜の夜、友人クンを連れて横浜へ。 ボッタ屋台は、客によって値段を変えてくるに違いない。そこで田舎者役(オレ)と地元のハマっ子役(友人)がバラバラに入店して、まったく同じ具を頼み、お勘定の矛盾を突いてやる作戦だ。
居並ぶ店の中に、白髪を紫色に染めた怪しそうなバアさん店主の屋台があった。おっちゃんグループがテーブルを占領してる。よし、まずはオレから行こう。
「座れますか?」
「いらっしゃい!お兄ちゃん、何にする?」
「ウーロンハイちょうだい。それからおでんは…」
大根、昆布、きんちゃく、ウィンナーの4品を注文し、それぞれを食す。味はそこそこだ。食った品目を友達クンにメールした直後、本人がふらっと入ってきた。
「すみません、ウーロンハイと、きんちゃくと大根と昆布と…」
さてここからは田舎モノを演じる段だ。
「おかあさん、ここもうだいぶ長いんですか?」
オレは何気にバアさんにしゃべりかけた。
「あんたが生まれる前くらいからやってるわよ」
「ふーん、ぼく、横浜に来るのは初めてでドキドキしてるんです」
「あら、そうなの」
「地元は高知なんですけど、やっぱり都会はまぶしいですね。あそこのビルなんかニューヨークみたいですもんね。土佐には3階以上の建物ありませんよ」「あら、そんなとこからわざわざ」
友達クンのほうは、いかにもこのへんを熟知してるような話題を投げかけて、セッティングは完了。あとはお会計だ。まずは友達クンから。
「いくらになりますか?」
「はい、1600円です」
ウーロンハイとおでん4品で1600円。ま、こんなもんだろう。では、田舎モンの勘定はどうかしら。
「おかあさん、こっちもお勘定お願い」
「1600円よ」
客が大勢いるようなちゃんとした店は健全経営してるってことなんだろう。ならば今度はあそこだ。客が入ってないガラガラのあの店、キツネ目のオバサン店主が獲物でも狙うような目で通行人を眺めてる。
「じゃあ、先行くよ」
今度は友達が先に店へ入り、会計を終えてから、オレが向かうことにした。待つことしばし、友達の報告は、
「ウーロンハイとおでん4品で2千円。タマゴ、大根、タコ、きんちゃくの4つね」
ふむ、少し吹っかけられてそうだが、許せる範囲内だ。じゃあ次は田舎モンのオレの
番だ。
「いらっしゃい」
「こんばんわ、座らせてもらいます」 同じ4品とウーロンハイを注文し、オバサンにしゃべりかける。
「ぼく、横浜には仕事で来たんです」
「そうなの?」
「田舎は土佐なんで、今日は人が多くてびっくりですよ。お祭りか何かですか?」
「このへんはいつもこうよ」
「へえ、やっぱり横浜は大都会ですね。横浜銀蠅も来たりするんですか?」
「さあ…」オバサンは面倒そうにあいずちをうっている。こういう手合いがボッてくるんだよな経験的に。ではお勘定だ。
「いくらになりますか?」「えーーっと、ちょうど5千円です」
な、なに?5千円だと!あいつの倍以上じゃん!テメー、高知の男をナメんなよ!オバサンはさもあたり前のような表情をしている。実にシャーシャーとした雰囲気だ。
「5千円ですか?」
「はい」
「このウーロンハイは、いくらですか?」
「1000円です」
即答だった。少しは言いよどむと思ったのに。いい根性してやがる。
「きんちゃくはいくら?」
「500円です」「へー、じゃあタコは?」
「……800円です」
ん?今ちょっと間が空いたぞ。
「タマゴは?」
「…500円です」
言い終えてからオバサンの表情が曇った。そりゃそうだ。その計算だと大根は2200円ってことになる。バカモンが。どんだけ味が染みてりゃそんな値段になるってんだ。
わざとそこで無言になって真綿で首を絞めてやったオレは、一気にたたみかけた。
「さっき、横浜在住の若い客が来たでしょ?あれは僕の友達なんですよ」「……」
「あいつは僕と全く同じ物を頼んだのに、2千円だったんです。でも僕は5千円って、
土佐の男をバカにしてるんすか!」
「…すみませんねえ。間違えたんです」
「間違えたってどっちを?」
「お兄さんのお勘定、ウーロンハイ2杯だと…」
「2杯でもオカシイだろ!」
「ごめんなさいねぇ」
オバサンはぺこぺこと頭を下げているが、表情はどこかふてぶてしい。
「だいたい、タマゴが500円ってのも高すぎんだろ!こんなもん茹でてカラむいた
だけじゃねーか!」「ごめんなさい」
ちょっと言いがかりのような気もしたが、怒りは止まらない。
「で、いくらなの?もっかい計算してみ、ほら!」
うつむくオバサンは弱々しく言った。
「お代は結構です…」