会話のタネ!雑学トリビア

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ビギナーズラックは横取りできるか?

ギャンブルの世界にビギナーズラックという言葉がある。初めて賭け事をやった人間は、なぜか勝つというアレだ。
『わー、わたし初めてなのに当たっちゃったー!』
『適当に塗っただけなのに5万円になったよ!』
かつて、こんなシーンを何度見せつけられたことか。頭のいい人は言う。初めてのギャンブル体験でラッキーがあれば本人にも周りにも印象に残るから、ビギナーズラック神話が一人歩きするだけ。厳密に統計を取れば、勝ってる確率は初心者もベテランも同じはず。それ、真実なのかなぁ。ギャンブルマニアのオレにはとてもそうは思えないのだけど。あえてメルヘンチックなことを言う。思うにコレ、ギャンブルの神様が、無欲な人間にたった1度だけあげるプレゼントなのではないだろうか。あるいは無垢な人間をギャンブル地獄にハマらせるために差し出す禁断のエサか。 なーにがギャンブルの神様だと、ちゃかされるのは承知のうえだ。そんなだからいつも負けるんだよと小馬鹿にもされるだろう(うるさい!)。でもオレは信じる。ビギナーズラックは存在することを。そこで考えた。これ、利用できないか?
オレの知り合いに吉田という28才の女性ライターがいる。彼女の趣味は音楽だけ。賭け事の話題にはついてきたことがないギャンブル門外漢である。薄汚れてしまったオレと違い、彼女の未来にはまだ、ビギナーズラックの余地が残されている。神様が微笑んでくれるチャンスが待ち構えている。そいつを、こっそり横取りすれば…。
オレは吉田をデートに誘った。以前からオレに気があるような素振りを見せていた彼女のこと、断るはずがない。水道橋前で落ち合ってすぐ、オレは提案した。
「あのさ、すぐそこに場外馬券場があるんだよね。ちょっと付き合ってよ」
一緒に競馬をやろうと持ちかけると、駅から場外馬券場に向かうまでの間に、彼女の中に「勝ちたい」という邪心が生まれる可能性がある。これはダメだ。ギャンブルの神様は、そんな金の亡者にビギナーズラックを与えてはくれない。ここはあくまで軽い付き合いの感覚にとどめさせておかないと。2人して後楽園の場外馬券場へ。平日の昼だというのに、あたりは一面、小汚い格好のオッサンだらけだ。彼女の顔が輝く。
「へー、馬券売り場って、こんな感じなんですね」
いいねー、そのピュアな反応。きっと神様も見てくれてるよ!では、次の第2レースの馬券を買ってみるか。競馬新聞を広げて、彼女に見せる。
「次のレース、この15頭が走るんだけど、どう思う?」
「え〜、わかんないよ」
「そしたら、どれか好きな数字を指さしてみてよ」
「え〜」
彼女が新聞を見始めた。さあ、どれがいい?
「あの、これ、どうやってみるんですか?」
「ん?」
「ほら、マルとか三角とかあるじゃないですか」
マズイ。こういうのが一番マズイ。変なシロート推理をはじめると〝無垢〞じゃなくなる。いいの!キミはそういうのはアテにしなくていいの!
「んー、じゃこれかな」
彼女が新聞を指をした。2番のコアレスコマンダー号。なぜこの馬を?
「2レースだから2番がいいかなって」 
そうそう、まさにビギナー予想!んじゃ、この馬の単勝で決まり!ちなみにオレ自身のヨミは1番なのだが、今回は買わない。保険をかけるような考え方は極力捨てねば。
彼女に塗りつぶさせたマークシートをぶんどり、5千円と一緒に券売機へ突っ込む。オッズは5倍見当だから、来れば2万5千円だ。頼む!2番コアレスコマンダーは最後の直線走路を先頭で入ってきた。取ったか!と色めきたったが、残り100メートルで失速し、結果は2着に終わった。吉田は興奮しながらレースを眺めていた。ギャンブルの神様はこういう凝った手で、人を泥沼に引きずり込んだりもするらしい。オレの予想1番は5着だった。