会話のタネ!雑学トリビア

会話のネタに雑学や豆知識や無駄な知識を集めました

心中部屋の下の階からの騒音クレームが酷い

会社に向かおうとマンションのドアを開けた瞬間、なにかがハラリと落ちた。ん?
紙きれ?
〝いつも足音がひびいて困ります。少し、少し気付かって歩いて下さい〞
はぁ?なんだこりゃ。まるでウチがドタバタ歩いてるから迷惑してるってな調子で書いてあるじゃん。これを入れたのは同じマンションの人間なんだろうけど、部屋番号が書いていない。いったいどこのどいつだ?嫁の真由美が言う。
「下の階の人じゃない?ちょっと前に引越してきた」
そうか、たしか先週、引越し業者が荷物を運んでたな。タイミングからしてそいつに違いない。まったく挨拶もなかったくせにいきなり苦情かよ。
「昨日は特別うるさくしてないよな?」
「うん、いつもどおりだよ」
オレだって深夜0時ごろに帰ってきてすぐに寝ただけだ。こんな紙キレを挟まれる筋合いはない。文句でも言ってやろう。階段をおりたオレは、問題の部屋のチャイムを鳴らした。すぐに「は〜い」とおばちゃんの声が聞こえてドアが開く。
「508号室です。こんなモノが挟まってたんだけど、お宅ですか?」
「ああ、そう、そうなんですよ」
「別にうるさくしたおぼえはないんですけどね」
「うーん。でもときどきお子さんが走り回ってるでしょ?」
「は?」
「だから夜中とか、お子さんが走ってるでしょ?それが迷惑なんですよ」
…なに言ってんの?ウチの子供はまだ4ヶ月だから走り回ったりできないんですけど。
そう説明すると、おばちゃんは大げさに驚いてみせた。
「ええ〜?だって小走りみたいにドンドンドンって…」
「いつですか?昨日の夜中ですか?」
「ええ、昨日もそうよ。お昼にも聞こえるし」
まったく、どんだけ神経過敏なおばちゃんなんだ。ウチは普通に歩いてるだけだっての
。とりあえず注意しますと伝えて退散したが、どうにも納得がいかない。もしかして犬のレオか?でもあんなに小さな犬が走ったところで下まで響くわけがないよな。
数日後、家族全員で「くら寿司」を食いに出かけて戻ってくると、またもやドアに紙が挟まれていた。この前、突き返した紙キレじゃないか。アイツ、やっぱキチガイか?
下へ降り、おばちゃんの部屋のチャイムを押す。
「あの」
「はいはい。本当にやめてくださいよ。親戚のお子さんでも来てるんですか?」
「来てませんよ。うるさかったのはいつのことですか?」
「さっきですよ、ちょっと前。お願いだから少し注意してくださいよ」
さっきだって?そんなハズないだろ。たった今まで、みんなでくら寿司を食ってたんだから。
「あのですね、ウチらいま帰ってきたとこなの。いい加減なことばっかり言わないでくれますか」
ついつい語気を荒げてしまったことでババアは黙ってしまった。やべ、言い過ぎたか。
「じゃあ誰がドンドン走りまわってるのよ!真上なんだからアナタたちしかいないでしょ!」
ええ〜、逆ギレ?もう頭にきた。
「じゃあ中に入れてくださいよ。どこから音が聞こえるのか知りたいんで」
「ええ、どうぞ」
ババアは部屋の奥に向かい、和室の天井を指差した。この上は、昌子の寝起きしてる部屋だ。
「このへんよ」
「今は静かですよね」
オレはケータイを取り出して、真由美に電話した。
「いま下の部屋にいるんだけど、少し音を立てて歩いてみてよ」
「どのへん?」
「いちばん奥だな。お義母さんの部屋」
「え?わかった」
音など聞こえてこない。
「真由美、ちょっと走ってみて」
直後、天井からほんのかすかにトントンと音がした。耳を澄ませないと聞こえないほどだ。
「こんな音ですか?」「違うわよ、もっとドンドンって」
「真由美、ジャンプしてくれ、何回も」
 それでもまだトントンとしか鳴らない。わかったか、ババア、あんたの耳がおかしいんだよ!
しかしババアは聞く耳をもたない。
「いい加減にしないと不動産屋さんに言って注意してもらいますから」
腑におちないまま508号室に戻ったそのとき、初めてオレは思い出した。 
そうだ、あの天井の真上は心中部屋だった。ここ最近、家族のしょーもない不幸ばかりだったのに、あのババアが越してきたせいで、また摩訶不思議なオカルトがぶりかえしてしまった。ここで死んだ家族たちは、階下に何をアピールしているんだ…。