会話のタネ!雑学トリビア

裏モノJAPAN監修・会話のネタに雑学や豆知識や無駄な知識を集めました

アミューズメント型介護無料パチンコの罠

アミューズメント型介護をご存知だろうか。いま、老人介護を行うデイサービス業界で注目されている業態の一つだ。これ、ボケ防止や脳の活性化、手指のリハビリといった効果を狙い、老人に介護施設内の無料パチンコ台で遊ばせるものだ。オレの働く介護施設では計20台設置していて、日々それを楽しみにした老人がたくさんやってくる。そもそもオレは普通にパチンコ屋のバイト店員をしていた。昨年、店長からこんな誘いが来るまでは。「介護施設やることになったからそこで働かないか?」
親会社がパチンコを使った介護施設を始めるそうだ。それもオレが働くこの店から近いところにオープンするらしい。にしても介護って、オレそんなんできないよ? ていうか資格とかいらないわけ?
 なんでも介護資格を持ったヘルパーは別で採用するらしく、オレの仕事はパチ&スロ補助バイトとなるそうだ。仕事内容は玉を運んだり、目押しをしてあげたり、普通のパチ屋店員とそう変わらない。時給もあがるということなので快諾した。いざ開業したらすぐにたくさんの客(老人)が集まるようになった。施設内はさながらカジノのような作りだ。パチンコ台が並び、ポーカーのテーブルや革張りのソファが鎮座するフロア。その一角には軽い体操や読書ができるスペースがある。この部分以外は、高齢者がリハビリの一貫としてギャンブル体験をするためだけの施設だ。朝、やってきた老人たちはまずヘルパーとともに体操や読書をする。ここで1時間過ごすことで、仮想通貨である紙切れをもらうことができる。この紙切れを我々バイトたちに渡すことで、パチンコやポーカーに興じることができるわけだ。ちなみにココに置いてあるパチ台は、ゲームセンターなんかにあるのと同じで、非常に当たりやすい設定になっている。それはもう、かなり当たるのでゲームとして非常に楽しんでもらえてるようだ。次第に開店前にちょこちょこ行列ができるようになった。これほどの数の老人を楽しませてるだなんて、まるで自分がイイことをしてるような気分だ。オープンして1カ月ほどが経ったころ、上司から妙な指令が下った。
「毎日来れない人たちいるだろ?さりげなく近所の店を紹介してやってくれないか?」
説明が必要だろう。この介護施設はあくまでデイサービスの一環ゆえ、介護保険料の範疇で遊びにきている。詳細は省くが、ひと月にデイサービス(ウチの施設)を利用する回数は決められているのだ。この施設で初めてパチンコに触れ、その刺激的な画面表示や音にハマり「毎日ここで遊びたいよ」と言ってくる老人は多い。だけどそういうわけにもいかない。ならば、系列のリアルパチンコ屋を紹介してやれ、ということだ。当然、グループ会社としての利益が目的なのだが。まずはとにかくハマってる様子のおっちゃんに声をかける。いつも帰り際、「まだやりてーんだよぉ」とダダをこねる人だ。
「本当は毎日でも来てほしいんですけどね。決まりなんでダメなんですよ」
「いいじゃない、こっそりやらせてよ。アハハハ」
「アハハ、それはムリですって。ウチの系列店はすぐ近くにあるんですけどね〜。そこは普通に現金かかっちゃうんですけど」
「そうなの? そこは毎日行っても大丈夫ってこと?」
こんなにあっさり話に乗ってくるとは。オレが言うのもなんだけど、やっぱりパチンコって脳にうったえかけるギャンブルなんだなぁ。翌週、再びそのジイさんがデイサービスでやってきたとき、彼は興奮しながら声をあげた。
「いやー、イイとこ紹介してもらったよー。ほとんど毎日行っててね」
なんでも年金をちょこちょこパチンコにつぎ込んでいるそうだ。そのうち、わざと“現金店”に誘導するようにもなった。設定が甘いとはいえなかなかアタリが出ない台があれば、それを打ってる人の隣に立つ。
「この状態だともうちょっと打てばアタリなんですよ。でも今日はもう時間だからオシマイなんですよね」
「えー。もうちょいやらせて」
「ダメなんですよ。たしかに、普通のパチンコ店だったら気が済むまでお金を入れて遊ぶことはできるんですけど」
「そうなの?」
「ええ、まあ勝てばお金ももらえるし楽しいですよ」
こうしたやりとりにより、現金店に興味を持つわけだ。さらに店長はもっとエグイことをやっている。懇意になった老人を「休日に食事しよう」などと誘い出して、そのまま現金店に連れて行くのだ。
「ココ、うちの系列なんですよ。まあタダでは遊べないんですけどね。覗くだけ覗いてみます?」こうして、当たり確率の低い現金パチンコの泥沼にはまり込む老人が大量発生中だ。彼らの貯金や年金はパチンコ屋に流れているのである。最近では介護パチンコ規制の動きもあるようだが、しばらくはこのままの状況が続くことだろう。