会話のタネ!雑学トリビア

裏モノJAPAN監修・会話のネタに雑学や豆知識や無駄な知識を集めました

弟の妻が自殺した部屋に泊まった

『私の弟の話なのですが、数年前に●●(地名)にマンションを購入したんです。新築の4LDKで100㎡近くあります』地名は伏せるが、あそこでこの広さ、しかも新築だなんて、4千万を越えるんじゃないか?うらやましい話だ。だがその手紙はただの自慢話ではなく、続きがあった。『そのマンションで弟の嫁が自殺しました。良かったら格安で住んでみませんか?』
自殺? そこにオレが住めだって??
現在その物件は売りに出されているにも関わらず、なかなか買い手が現れない状況だそうだ。内見に来た人も自殺があった部屋と聞いて二の足を踏むんだとか。手紙の差出主に電話をしてみたら、住む住まないは別にして、1泊くらいしてみたらどうかと提案された。ちょうどいいや。家に帰らなくていい口実になるし、どんな部屋なのかも興味がある。神奈川の某駅で手紙をくれたAさんと待ち合わせた。
「はじめまして。さっ、乗ってください」
彼のクルマに乗りこみマンションに向かう。道中、あらためて事件について伺うことにした。「弟さんの奥さんが自殺したとのことですが…」
「そうなんです。2年ほど前、弟が留守の間に、子供の目の前で窓から飛び降りましてね。本当、突然だったんでこっちもビックリしたんですよ」
その日以来、弟さんと子供たちは実家に戻ったそうだ。弟さんはいまでもローンを払い続けているらしい。
「あの子たちも『お母さんに会いたい』とか言わないからエライですよ」
「本当ですね。でもなんでまた自殺なんて」
「それがさっぱりなんですよね。弟に聞いてもわからないみたいだし。まったく…」
そうこうするうちに目的地に到着した。外観はいかにも高そうなマンションで、近くには商業施設もある。
オートロックをくぐり4階の目的の部屋へ。Aさんの案内で各ルームを周る。
「この部屋です。その窓から飛び降りたんですよ。タテベさん、本当に大丈夫ですか?」「え?」
「いや、こっちから言っておいてなんですけど、1人で泊まるのはあまり良くないような気がしてきたんです。何かあっても責任とれないし」
この期に及んでオレを招待したことを後悔している。オレまで自殺するかもと心配しているのか。
「大丈夫ですよ。気にしないでください」
「そうですか。なにかあったらすぐ連絡してくださいね」
夕方7時、オレは部屋で1人になった。テレビもラジオもないので何をすればいいのかわからないし、酒でも買いに行くかな。
近くのスーパーで買出しをすませて部屋に戻った。広いリビングでゆったりと飲みたいところだが、ここはやっぱりあの部屋にいるべきだろう。床にツマミと酒を並べ、自殺のあった部屋で1人飲み始める。
1本を空けたところで、なにげなくカーテンを開け、窓から下を覗いてみた。4階ってのはそんなに高くないように思えて、こうやって見下ろせばけっこう怖いものだ。弟さんの奥さん、どうして飛び降りちゃったんだろう。床に座り、2本目の缶を開けて飲みはじめ、携帯ゲームで遊んでいたとき、視界の隅っこに動きを感じた。カーテンだった。窓から風が入ってきたかのように、ふわっと膨らんではしぼみ、またふわりと膨らむ。(窓、閉め忘れたっけ?)
立ち上がってゆっくりカーテンを開ける。窓、閉まってるし。カギまでかかってるし。(………)気のせいのはずがない。明らかにカーテンは動いた。十数秒もの間。そしてその直後。ドンドンドン。天井から、子供の走り回る音が聞こえてきた。一瞬ビクッとしたが、これで合点がいった。上の階のガキどもの振動がつたわって、カーテンが揺れただけか。残った酒を飲み干したオレは、朝までフローリングの床で眠りこけた。翌朝迎えに来てくれたAさんに、カーテンの報告をした。
「しかもその後に足音が聞こえてきて。なんか1人でビビっちゃいましたよ」
「足音って?」「上ですよ。子供が走ってたみたいで」
「それ本当ですか?」「ええ」
「おかしいな。あそこ4階の端っこの部屋なんで、5階はないんですけどね」
こんな部屋、さすがに住むわけにはいかない。まだオレたち家族を引っかき回すだけの春日部コートのほうが、数倍マシだ。