会話のタネ!雑学トリビア

裏モノJAPAN監修・会話のネタに雑学や豆知識や無駄な知識を集めました

妖気を出してる謎のメニューを出す飲食店

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餃子の王将よりバーミヤン派なので近所のバーミヤンにたまに行くんですが、メニュー表の最後のページの隅っこにある「さっぱりレモンのオーギョーチ(199円)」なるデザートがいつも気になっていました。中華なので杏仁豆腐とかゴマ団子があるのはわか
るんですが、オーギョーチという名前にはあまり馴染みがありません。もう語感からしてうまそうじゃないし、ナタデココとかミルフィーユなら名前が既にかわいらしくてうまそうな気がしますが、オーギョーチというネーミングは着飾る気ゼロです。化粧っ気がまったくありません。おそらく人気もないのか、バーミヤンのメニュー表でも隅っこにひっそりと表示されている始末です。調べてみるとオーギョーチという植物の実から作られるゼリーのことらしいのですが、そんなわけのわからないデザートをなんとメインメニューとして営んでいるオーギョーチ屋が台東区の某所に存在するというので足を運んでみました。この周辺は下町の観光スポットでもあり、店の前も休日なんかは観光客で賑わっているのですが、この老朽化したオーギョーチ屋から放たれる独特の妖気を感じてか、見事に誰も入店していきません。入店しないどころか、足早に通り過ぎて行きます。
店の前のディスプレイには「台湾産オーギョーチイ」と「オーギョーチイの原料」が飾られています。どちらも茶色い塊で、どっちがデザートでどっちが原料なのかもよくわからない状態です。磨りガラスからは黄色い光が漏れており、暖簾も出ているので営業しているのは間違いありません。会員制のスナック並に入りづらい空気をビリビリと感じたのですが、意を決して「えい、ままよ」と叫び勢いよく店のドアを開けると目の前のテーブルで中年女性が一人、テレビでバンキシャを観賞していました。中年女性はこちらの存在を確認すると、無言で奥の厨房へ入っていき、水の入ったコップを持ってこちらに突き進んできます。その時初めてこの中年女性がどうやら店主であることに気付
きました。
4人掛けのテーブルは5つありますが、客はゼロ。それぞれのテーブルにはメニュー表の他になぜか写真立てが置いてあり、写真には店主のおばさんと誰なのかわからない謎の爺さんが肩を寄せ合って写っていました。メニューにはオーギョーチの他に「氷オーギョーチ」「チークリーム」「チーアンミツ」「チーワイン」「チーウイスキー」「チーブランデー」と記されており、とにかく全メニューがオーギョーチ絡みです。とりあえずオーソドックスに「オーギョーチひとつお願いします」と告げると店主は再び無言で厨房へと消えていきました。ひょっとして台湾人で日本語が通じないのかもと思いつつ、デジカメで店内をパシパシ撮っていると、店主が厨房から顔だけを出し「写真だめね! 撮っていいのはオーギョーチだけ!」と怒鳴られました。約1分後に店主がオーギョーチらしきゼリーが入った皿を運んできて再び「オーギョーチだけ撮っていいから!」と言われました。店主は再び席に着きバンキシャを見始めたので、しょうがないからオーギョーチを様々な角度から撮影して、いよいよ念願の初食です。見た目は薄黄色のゼリーなのでさっぱりしてるのかと思いきや、口に入れてみるとかなり甘く、思ったより食感は固いです。甘い物が好きな自分でもその甘さに驚いてしまってコップの水で流し込むほどでした。このノーマルなメニューでこれだけ甘かったら「チーアンミツ」とか「チークリーム」ではどうなるのだろうと想像したら武者震いがしました。しかもゼリー一つ一つがやたらと大きく、ボリュームがあります。これは完食できないと考え、オーギョーチの前で腕組みをしてどうしようかと考えていると店主がやたらとこっちをチラチラ見てくるようになりました。
これは気まずいと思い、「この写真のお爺さん、どなたですか」と訊ねてみると店主はかなり前のめりになりながら「藤山一郎だよ!」と言ってきました。藤山一郎って誰だっけとアイフォンで調べてみると、なんと「青い山脈」や「東京ラプソディ」などで有名な、国民栄誉賞も受賞したことのある昭和の超一流演歌歌手でした。そんな
人がなぜこの店に来ることになったのか、この店でオーギョーチを食することになったのか、きっと複雑な事情があったのでしょう。店主に「今日は店、空いてますね」と話しかけてみるとバンキシャに夢中なのか、一切返事はなし。
しょうがないから「あけましておめでとうございます」と敢えてこのタイミングで言ってみても返事はなし。オーギョーチもほとんど残してるし、会話も皆無で、これ以上長居したら鬱病になってしまうと判断したので帰ろうと決意し、席を立ち上がった瞬間に「400円になります」とこちらを一切見ずに店主が発しました。バンキシャではおせち通販問題を取り上げており、店主が険しい顔で首を捻りながら見入っているので、400円をテーブルに置いて一礼してから静かに店を出ました。