会話のタネ!雑学トリビア

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盗難カードで引き出された金は 銀行が全額補償してくれる・・・ならばこの自作自演はどうだ?

※この記事はフィクションであり知的好奇心を満たすためにお読みください。実行されると罰せられるものもあります。

預金者保護法という法律がある。盗難キャッシュカードや偽造カードで銀行口座の金が盗まれた際、銀行側が被害額を全額補償してくれる救済策のことだ(ただし、被害者にも過失がある場合は、補償が一部になったり、ゼロになることもある)。これ、ちょっと悪知恵のはたらく者なら、すぐに気づくだろう。自分のキャッシュカードを盗まれたことにして被害者になりすませば、ひと儲けできるんじゃないかと。問題は、銀行と警察をどうダマすかだ。単に空き巣に入られました、口座から金がなくなっていましたじゃ、まず自作自演の可能性を疑われる。もちろん、それでも上手くいくのかもしれないが、あれこれと詮索されるような事態はできるだけ避けたい。
 理想はやはり、誰が見ても自分がかわいそうな被害者だと信じこませてしまうシチュエーションを作り上げることだ。そこで必死に知恵を絞ったところ、ふと名案が浮かんだ。まず俺が取りかかったのは、時間をかけて口座の残高を少しずつ増やしていくことだ。盗まれた(という設定の)金を全額補償してもらうワケだから、被害額は多いに越したことはないが、カードの盗難直前に多額の金を入金するのは、愚の骨頂。いかにも詐欺師の犯行でございと宣言するようなものだ。じっくり1年以上も時間をかけ、残高を700万まで増やした俺は、ついに作戦を実行した。現場となるのは、以前から週に1、2回のペースで通っているなじみの飲み屋だ。カウンターとテーブル席が少しあるだけの小さな店で、俺はいつものようにカウンターの隅っこに陣取った。キャッシュカードの入ったセカンドバッグは、カウンター下の棚に置いておく。
「大将、最近、釣りは行ってるの? 今度いっしょに連れてってよ」
店の主人と世間話をしているうち、協力者Aがふらりとやって来た。もちろん俺とはアカの他人という設定だ。こいつの仕事は、俺の隣席に座ってしばらく酒を飲み、帰り際に例のセカンドバッグを置き引きすることだ。置き引きしたAが店を出てから1時間ほど、飲み屋の電話が鳴り、大将が受話器を取った。電話をかけたのは警察になりすましたAだ。ヤツはいま、大将にこんな説明をしている。先ほど町内をパトロール中に不審者がいたので職務質問をしたところ、荷物から△△さん(俺)のセカンドバッグが出てきた。どうやらそちらの店で盗んだらしく、キャッシュカードで現金を下ろすつも
りだったと言っている。△△さんはまだ店にいるか?
 受話器を持ったまま、ふいに大将が俺を見た
「△△さん、荷物ある? あんたのバッグを盗んだ男がいま警察に捕まってるとか言ってるよ」
「え、何それ? あ、ホントだ! バッグがない! マジかよ!」
店内の人間にうろたえた姿をたっぷり見せつけてから、受話器を受け取り、俺はさも警察(A)から事情を聞かされているかのようなひとり芝居を打った。
「あ、はい、ええ。あとで銀行の方からも電話があるんですね。わかりました。ご面倒をおかけします」
5分後、銀行の担当者に扮して飲み屋に電話をかけてくるのは、2人目の協力者Bの役割だ。ふたたび大将から受話器を受け取って、ひとり芝居をスタートする。
「はい、なるほど。じゃ、いったん僕のキャッシュカードを停止するんですね?」
ここで俺は、意外そうに小首をかしげる
「え、本人確認をするのに暗証番号を言わなきゃいけないんですか? …わかりました。えっと、4170です」
さて、店内にいる人間は、このやりとりを聞いてどう思うだろう。案の定、電話を切った直後に、客の中から声が上がった。
「なんか妙じゃない?銀行の人間が電話で暗証番号を聞いてくるなんて絶対あり得な
いと思うんだけど」
よし、いいぞいいぞ。と、心の中でガッツポーズを決めながら、俺は大将の顔をのぞき込んだ。いかにもハッとした態度で。
「やっぱ変だよね。俺、警察に問い合わせてみるわ」
かくして、飲み屋に居合わせた全員が、一連の流れを知ることになる。店に電話をかけてきた警察も銀行の担当者も、すべては置き引き犯の一味であり、まんまと俺はヤツらにしてやられたのだと。この状況で、俺が事件の首謀者だと勘づく人間がはたしているだろうか。
その間、ABは覆面をかぶって口座から現金を下ろし、被害総額は700万に。警察では夜から明け方まで長々と調書を取られたが、彼らは終始、俺に同情するだけで、一切、疑いの目を向けることはなかった。