会話のタネ!雑学トリビア

裏モノJAPAN監修・会話のネタに雑学や豆知識や無駄な知識を集めました

とばしの携帯作りの闇バイトで逮捕されかけた話

治験ボランティアに応募するか。ピンクチラシでもバラ撤くか。

間もなく30才の大台を迎えようとしていたオレは、金になるバイト探しに狂走していた。競馬でこさえた借金が300万を突破、毎月の利息が7万を超えていた。本業のレストランウェイターは手取り25万だから、早く副業を見つけねーとマジでやばい。

怪しげなサイトに辿り着いた。『闇の職業安定所』黒い画面の上に、真っ赤な文字で食求人〉ゃ〈日払い〉〈パチ&ス口打ち子〉など、怪しいことばがズラリ。試しに裏求人をクリックすると、さらに過激なメッセージが現れた。

〈都内まで出て来られる20才以上の男女募集。日払いで3万ぐらいから。当社は違法行為は行っておりません

日給3万ってマジかよ。わざわざ違法じゃないと断るところが、いかにも怪し過ぎ。次だ次。

〈役者のお仕事即金あります都内男性20才以上〉

今度は何だ。まさか舞台やテレビドラマの俳優じゃあるまいし。にわかに興味を抱き、メールで質間を送ると、2時間たって返事が届いた。なんでも役者とは、「他人に成り済まして、携帯や口座を契約する人」の隠語らしい。

いわゆるトバシ携帯や架空口座を作る仕事のようだ。って、こんなに大っぴらに募集していいのかよ。でも、報酬がフルってんだよな。トバシ携帯がー本5千円。しかも、業者に用意された偽造保険証で量販店に出向くだけで、逮捕のリスクも皆無に近いという。だったら…。

〈本当に安全なんですか〉

〈他にどんな仕事がありますか〉

興味半分、メールを2通送ったところで、返事がプツリと途切れた。後で知ったことだが、質間ばかり続ける行為をダラ質といい、サイト上では嫌われているらしい。要は相手も本気ってことだが、そんな事情、ォレに知る由もない。

師走。年越しシーズンを迎え、サラ金の督促が一層厳しくなってきた。

利息の振込が1日遅れただけで、矢のような催促である。もはや迷ってる場合じゃない。

〈ー週間ほど前に問い合わせた者ですが、ケータイ役者の仕事を紹介してもらえないでしようか〉

業者に携帯番号入りのメールを送信して30分、見知らぬ番号が着信した。受話器ロの男は上村(仮名〉と名乗った。声や話し方から察するに、20代半ばか。あらためて、役者の仕事がしたい、休みなら3日後に取れる旨伝えると、それは都合がいいと上村。

その間に、オレの年齢に近い保険証を用意するらしい。

当日。スーツに着替え、待ち合わせの目黒駅バス停に足を運んだ。上村は5分遅れで現れた。想像どおり、コテコテのチンピラ風、ではなく、ジーンズにジヤケツト姿の好青年タイプである。

「さ、コッチへどうぞ」

挨拶もそこそこにカラオケボックスへ入ると、いきなりブツを手渡された。三木(仮名)なる名義の保険証と電気料金の請求書

素人目には区別のつかない、精巧なシロモノだ。

「だってそれ、本物なんですから」「え」

「闇のサイトで見ませんでした『保険証を貸すだけで3万円】という書き込み。そこで入手したもんですよ、たぶん」

拍子抜けするほどポロポロと内情をこぼす上村。もしかしたら、コイツも単なるバイトかも。オレが保険証の名前、住所、電話番号を記憶すると、『好きなだけ作って下さい」と上村。そんなアバウトでいいのかよ。

個人で契約できる携帯台数はたしか2、3台。ー冊の保険証で6本が限界じゃないのか。センター街の入口をくぐり、某量販店の店頭へ。手始めにー円のスマホを2台手に取り、店員に保険証を渡すと、途端に顔つきが険しくなった。な、なんだよ。

「クレジットカードじゃないと、2台以上契約できないんです。ご家族の方なら別ですが」

「彼女のも一緒に作りたかったんだけど、しょうがないなあ。じゃあ、とりあえず1台お願い」

「かしこまりました」
続けてドコモ2台、auの計5台を契約、喫茶店でー時間潰した後、最初の店へ引取りに近づくと、コメカミのあたりがキュインと鳴った。

「こちら、番号は080の・・」
「は、はい」目の前で通話試験をクリア。一通り簡単な説明を受けると、赤い紙袋を渡された。よっしゃーコインロッカーにブツをしまった後、

今度はドコモに足を運び、これまた難なく成功。すべて完壁かと思われた矢先のauで突然、空が濁った。

「申し訳ありませんが、書類不備につきお断りさせてもらいます。つきましては・・」相手がことばを言い終わらぬうち、人ごみに紛れて逃げ出た。おそらく保険証の本物の持ち主が、すでにauと契約していたのだろう。山手線の内回りに乗り目黒へ。ー万5千円を受け取り、帰路についた。ちなみに、トバシ携帯はその後1台5万円で販売されるとのことだった。

犯罪に手を染めて、たったー万5千円。割に合わない愚行に一度は見切りをつけたオレだったが、実働2時間で万単位の仕事など、他にないのも現実。

だったら、もっと条件のいい仕事はないものか。再び掲示板を漁り、否が応でも気がつかされた。書き込みしている半数近くが、秋葉原に本拠地を置く業者だったのだ。

質間電話をかけると、またキミか

なんて言われる始末。うーん。ここしかないか。

面接のため、ファーストフードに呼び出された。相手はまたもや20代の若者。

が、今度の業者は想像以上にシステム化されていた。

「コチラに3人分の偽造保険証と社員証があります。まずは頭に叩き込んでください。それと作業中、何かあったら見張り役に連絡させますので、このプリケーは肌身離さずお持ちください」「はあ」
携帯の申し込み手続きは、遅くとも午後6時半

それを過ぎると、ショップからキャリアへの申請が翌日に持ち越され、当日入手ができない。また、引取り前には必ず、新たに契約した番号に電話をかけさせられた。

開通作業に要する時間は、ドコモとauが60分、ボーダフォンが30分。無事に着信すれば問題ないが、もし不通ならその時点でバックレだ。

ケータイ役者が逮捕されるのは、警察が待ち構える店に、ノコノコ端末を引き取りに出かけたとき。不通=何らかのリスクがあると考えるべきらしい。ちなみに、都内では特に秋葉原のチェックが厳しく、今のところ新宿がザルという。

「他に何かご質問はありますか」「いえ」

これだけ用意周到な条件で、失敗したらバカだ。

その日、オレは午後3時から西口やアルタ前の量販店をうろつき、計8台のトバシをゲットした。親しくなった見張り役によれば、彼も元々ケータイ役者だったそうな。

システムを説明した若者も何者かに雇われたバイトらしい。

その何者かが暴力団関係者であることは間違いないだろう。

が、オレは役者道にのめりこみ、空き時間や有給を利用、せっせと役者を演じ続けた。

50本以上のトバシ携帯を作ったところで、新たな仕事を紹介された。

架空口座を1冊作って5千円の口座役者である。銀行に出向く分、リスクは増すが、成功率5割のケータイ役者より、はるかに効率がいいらしい。

こと口座に関して言えば、業者は現場の事情にほとんど精通してなかった。用意されたのは偽造保険証だけで、印鑑すら忘れる有り様。仕方なく自腹で三文判を購入、東京三菱銀行に出向いたところ、イキナリ危機一髪の状況に遭遇した。

午前中の銀行がガラガラだったため、いきなり窓口へ連れて行かれ、記入用紙を差し出されたのだ。

当初、保険証のプロフィールを、記入台でゆっくり写そうと考えていたので大誤算。逃げれば、警備員に取り押さえられてしまうだろう。どーする?

「え、マジっすか・今すぐ社に戻ります」

携帯を取り出したオレは、さも急用が入った様子を演じ、強引にその場を後にした。次に向かったのが、みずほ銀行。ここでも同じような状況になった。

「お客様、申し訳ありませんが、コチラの住所ですと阿佐ケ谷支店が最寄になりますので、そちらでお作りしていただけませんか」

ウソだろ1?保険証の地元住所でしか口座を作れないって、そんなのおかしいじゃんーしかし、三井住友、uFJでは難なく取得。

ー万円の報酬を得たが、これも、長続きしなかった。なぜかuFJの口座が1週間ほどで凍結され、業者の買取リストの対象外になったのだ。オレオレ詐欺に架空口座が利用され、警察の摘発が巌しくなったのか。防犯カメラのリスクを考えれば、とても続けられるものじゃない。
金を盗みに来てるとは思うまい
裏の人間が絵を描いて、金に困った一般人が実行に移す。

損得は一目瞭然だが、オレに文句はなかった。なにせ、3カ月間で100万を稼ぎ、借金も50万ほど減らしてきたのだ。業者の信頼も得、闇の職業安定所の仕事なら何でも紹介してもらえるようになった。

たとえば、オロシ役者。盗んだ通帳で金を下ろす超デンジャラスな役だが、金額が数百万単位になるため、報酬もビッグだ。外国の窃盗団が関わってると聞かされていなかったら、飛びついていただろう。

他にも、フェラーリやポルシェなどる小ーツカ十ばかり狙う役者に、事務所荒しの泥棒役者など。山のような裏仕事の中で、オレが最終的に辿り着いたのが金融役者である。内容は北関東や上信越を始めとした地方の中都市で、サラ金から100万単位の融資金を編し取るといもの。取り分はー割。ー回の遠征で、10-15万はカタイ。

もっとも、そのぶん強いられる緊張感もハンパじゃなく、保険証の名前や生年月日はもちろん、星座、両親の住所に地元の地理まで。徹底的に叩き込んだ上、公共料金の領収書に名刺、給与明細書まで持ち歩かなければならない。

初めて金融役者を紹介されたのが今年4月だ。上野駅で見張り役と待ち合わせ、新潟の某都市へ出向いた。

午後1時。日本海の潮風を唄ぎながら、雑居ビルへ。自動ドアをくぐると、数名の従業員の視線が集まった。軽く手足が震えている。

「コチラへどうぞ」

「すいません。急な出張で来て、どうしても入用がありまして・・」

「なるほど。では、審査カードにご記入してください。本日、身分証明書は何をお持ちでしよつか」

「えっと、保険証と社員証でよろしいですか」

「ええ」

まずは順調な滑り出し。名前や使用目的などを丁寧に書き込むと、担当者が会社に在宅確認を始めた。

「もしもし、中村さんはおいででしょうか」

名刺に記された035の番号は、業者の携帯へ転送されることになっている。ここが最大の正念場だ。

「…はい、あ、そうですか。どうもありがとうございました」

受話器を置くと、担当者は小さな笑顔を浮かべた。と、その直後、オレの携帯が鳴る。「あ、もしもし、え・今、知らない人から電話があった?じゃあ、後でまたかけなおします」

打ち合わせどおり。こうすれば、目の前の担当者も安心するという小細工だが、思いのほか効果は大きい。

「迷惑をかけてすいません」「いや、いいんですよ」

平身低頭の従業員さん。まさか金を盗みにきてるとは思わないだろうなあ。ああ、心に残るわずかな良心がチクチク・・

2日問の遠征で総額180万を借り入れた。初回で得た報酬は18万である。

金融役者で10万、20万の報酬を
手にし始めると、当然ながら他事がバカバカしくなった。むろん、審査の厳しいサラ金什れに応じて危険度も高い。

独自の防犯マニュアもあるらしく、絶対に近づくな・押しされた。それに比べて、脇の甘いのがここを足がかりにステップアップいくのが定番だが、やはり不測トラブルは起きる。

都内・0×支店に出向いたときのことだ。申込用記入を終え、いざ会社の在籍確段になって、担当の窓口がデスク話をオレに渡した。

「すいませんが、この電話で会社にかけてもらえますか。私は子機で聞いておりますので」「えー」

客に対する配慮なのだろう。けど、これは困ったことになった。上司に成りすましている業者に、この状況を理解できるはずがない。オレの声に気づき、本名でも口走ったら、それこそお陀仏だ。死ぬ思いで番号をプッシュ。相手が話し始める前に、声を張り上げた。

「すんませーん、今日の会議何時でしたっけ」
「は」

「あ、森田です。今出先なんですけど、社には何時に戻ったらいいのかと思いまして」「な、なに、なに、どうしたの」

「僕は何時に戻ればいいんですか」

「何時って、刈谷君、今、三和じゃないの」

おいつ!業者の無情なセリフを聞き、腰が砕けた。もう終わりだ。オレはパクられてしまうんだ。やっぱり犯罪なんかに手を貸すんじゃなかった…。が、神は見捨てちゃいなかった。

奇遇にも最後のセリフを聞く直前、サラ金の担当者は受話器を置いていたのだった。★審査のときに職歴まで詳しく聞いてくるので、少々厄介な相手。その日も肝心なところでドモってしまったオレは、即金の融資を断られ、翌日、再び現地を訪れることになっていた。が、何かイヤな予感がした。で、電話をかけたら、相手の様子がおかしい。「社会保険庁に聞いたんですけど、こんな番号は存在しないって話なんですよ。おたく、どういう人なんで」

担当者は、オレの保険証をだという。が、それはおかしい。役者ならまだしも、金融役ニセモノは使わないと、散々業者を信じていたが。背筋がゾーッとした。

ャツらの鵜呑みに信じたオレがバカだった。単に都合よく使われていたレゃないか…。すぐに連絡用のプリケーを相に投げ捨てた。これまで逮捕なかったのは、単なる偶然だったやしれない。