会話のタネ!雑学トリビア

裏モノJAPAN監修・会話のネタに雑学や豆知識や無駄な知識を集めました

フィリピンで国際免許を作って日本で運転する

世間で言うところの業界人だが、フリーラ
ンスという身分に加え、この不景
気のせいで食っていくのがやっと。
安いギャラでいいように使われて
いるのが実状だ。
しかもこの仕事、車に関するト
ラブルが絶えない。俺は普段、撮
影機材やテープ、フィルムなどを
自分の車に積んで移動しているの
だが、その際必ず駐車場の問題が
ついて回る。
取引先の多くは、客用の駐車場
なんぞ持っていないし、そのくせ、
取り締まりの厳しい都心に事務所
をかまえているから困りもの。こち
らの駐車場代まで負担してくれる
お人好しな会社なんて皆無だ。結
果、違法とは知りつつも路上駐車
してしまう。
そこで運が悪いと、駐車違反のワッカをかけられるし、レッカー
で持って行かれることもある。こ
れまで罰金やレッカー代、免停の
費用などで払った額の
合計は20万円以上。今後1回でも
違反切符を切られると、長期免停
になる可能性が高い。免許を失く
せば、俺の食いプチは確実に絶た
れてし辛きっのだ。

そんなとき、地元の友人から国
際免許証の存在を知らされた。昨
年、春のことである。
この友人、生意気にポルシェを
乗り同しながら、度重なるスピー
ド違反と飲酒運転で違反点数がた
まりにたまり、免許を取り消され
た挙げ句欠柊期間という再取得
すらできない期間が2年間も付け
られてしまったそうだ。なんでも親父のコネで議員に頼み込み、2
回も点数の操み消しをしてもらう
も、呆れられて見放されたというから大バカである。
しかし、転んでもダダじゃ起き
ないのがヤツの性分で、その後、
彼はアメリカはロス在住の知人に
相談し、カリフォルニア州発行の
運転免許を取得。併せて国際免許
の発行も受け、日本の道路を堂々
と運転しているらしい。
そんなバカな。普通、国際免許
といえば、日本人が海外へ行くと
きに免許センターで取得するモノ
というイメージが強いだけに、ア
メリカ発行の国際免許で日本の公
道を運転できるなんて話は聞いた
ことがない。
が、考えてみればできないワヶ
はないのだ。国際免許という制度
自体、ジュネーブ条約加盟の卯力
国あまりの国々で、相互に運転で
きるのを目的に作られており、加
盟国からの旅行者は自国の政府が
発行した国際免許を持ってさえい
れば、日本の道路とてリッパに運
転することができる。
帰国子女なども然り。たいてい
は帰国した時点で日本の免許への
切り替え手続きを行うが、入国し
て1年以内なら国際免許のままで
乗っていても何ら問題ないらしい。
ちなみに、海外で取得した国際
免許を書き換える場合、免許取得後その国に合計3ヵ
月以上滞在していることが条件。

ただ、取得した国によっては書き換えができない場
合もあるから例外なくOKという
わけにはいかないようだ。

「でもね、ホントは書き換えなん
かしなくてもいいの。ボク、国際
免許を持つようになってから、一
度もつかまったことがないんだ」

ポルシェ野郎は自慢気にそう言
う。恐ろしく運転マナーの悪いヤ
シのことだ。切符を切られないの
は、単に運が良かっただけなんじ
ゃないか。
一応、警察には止められるけど、なぜか毎回切符を切
られずに済んでしまうんだよ。こ
ないだなんかベロベロに酔っ払っ
てるときに酒酔い運転の検問で止
められたんだ。そんときは、さす
がにやばいと思って日系人のプリ
してテキトーな英語でゴマかした
けど、普段はそんな演技をしなく
ても国際免許を見せるだけで大丈
夫なんだよ」
治外法権の外交官ならともかく、
一般人のオマエが国際免許を使っ
てるだけで、切符を切られるのを
免れてしまうなんて、そんなのア
リか。ならば、国際免許を持った
海外からの旅行者は、違反し放題
になってしまう。
疑問に思った俺は、さっそく運
転免許センターに電話をかけ、こ
の点を確認してみた。すると、案
の定「そんなことはない」との答。
国際免許であっても違反は違反、
切符は切るし、点数が累積すれば
免停などの処分対象になるとい恥
友人の話がデタラメである可能
性もある。しかし、仮に彼の話が
事実なら、崖っぶちの俺にとって
はこれほどありがたいシロモノは
ない。

例の友人によれば、渡航費用だって、大韓航空などの
安い航空会社のディスカウントチ
ケットを使えば、往復で5万円ほ
どである。2回の往復渡航費用や
ホテル代などを考えても、15万円
程度で取得できそうだ。
なんだ、これなら何とかなりそ
うじゃないの。と考えたのも束の
間、思わぬ落とし穴があった。実
技試験を受けるには、自分の車を
持ち込まなければならないのだ。
持っていない場合は誰かから借り
るなりして、用意する必要がある
とのこと。


現地に住む友人でもいれば話は
別だが、俺にそんなコネはないし、
ポルシェ野郎に借りを作るのもゴ
メンだ。代行業者は、黙って半分
を手数料として抜くのだからアコ
ギな商売だと思っていたが、こう
した部分の手配も行ってくれるの
ならまだ納得がいく。


カリフォルニアでダメなら、他
の州はどうか。アメリカは州によ
って法律が異なると聞いているか
ら、中には試験用の車両が用意し
てある州があるかも知れない。さ
っそくインターネットで検索して
みると、現地在住の日本人が免許
収得の流れを記したホームページ
がみつかった。
片っ端からアクセスした結果、
オハイオ、アイオワ、マサチュー
セッツ、メリーランドなど多くの
州の状況が判明したが、どの州も
実地試験用の車両は自分で用意し
なければならない。それどころか、
州によっては居住していることを
証明するために、公共料金の請求
書も必要となるなど、さらに条件
が厳しくなるケースすらある。
ならば、アメリカ以外の凶はど
うだ。日本にある各国の大使館に
直接電話をかけてこの点を聞くと、
どういうワケか電話に出た大使館
貝は、揃って逆転免許の取得につ
いての知識を持っていない。しま
いには、現地で車を運転したいな
ら、日本で免許を取ってから行け
と言い出す始末だ。
インターネット上での検索で見
つかったのは、カナダ、ブラジル
など数カ国。カナダはアメリカと
ほぼ同じような状況だし、ブラジ
ルは試験車両は用意されているも
のの、学科試験はポルトガル語の
みと、なかなか良い条件の国が見
つからない。やはり、大金を積ま
なければ、道は開けないのか。


「フィリピン、メンキョ
トルノカンタン」
そんな折、昨年6川に俺は仕事
の打ち合わせで立ち寄ったファミ
レスの駐車場で、知人のフィリピ
ン女性にバッタリ出くわした。以
前、偽装結婚や他人名義のパスポ
ートの取材でいろいろ協力してく
れた彼女。貴璽な情報源の1人で
もあったのだが、携帯の番号が変
わり連絡が取れなくなっていた。
ただ、周囲のフィリピーナから
は何となく彼女の噂を聞いており、
不法滞在で捕まっているわけでも
ないらしいので安心はしていたが、
こんなところで会うとは。
それにしても、以前にも増して
ずいぶん身なりが派手になってい
る。きっと、金持ちオヤジでも見つけたのだろうと突っ
込んでみると案の定、格好のパパ
をつかまえたらしい。

「ワタシ、クルマモカッタヨー.」
彼女は、駐龍場に止めてある車
を自慢気に指さす。新車で買って
もらったというそのソアラは、遠
目で見てもわかるくらいあちこち
こすった形跡があった。ぼんやり
と車を眺めながら、彼女の一方的
な自慢話を聞き流していたとき、
俺の脳裏にふとある疑問がよぎる。

姉のパスポートで来日して以来8年、一度も帰国し
ていないオーバーステイの彼女は
日本の教習所に行くことなんかで
きないはず。フィリピンも日本同
様、18才以上でないと免許を取得
できないので、これはどう老えて
もオカシイ。なにか裏工作でもし
てんじゃないの?
「ソンナノカンタン。フィリピン
メンキョ、コクサイメンキヨ、ト
ルノカンタン。ヤスイヤスイ」
聞けば彼女、知人の在日フィリ
ピン人男性に自分の写真を渡して
手続きを依頼、わずか5万円でフ
ィリピンの国際免許を作ってもら
ったというのだ。
「それ、偽造でしよ」と俺。
「チガウーウタシノメンキョ。オ
リジナル。デモ、アンダーザテー
ブル、ネ。チャント、フィリピン
ノケーサッ、レコードアル。ノー
プロブレム」
しきりに本物を主張する彼女の
話をまとめるとこうなる。
彼女の持っている運転免許は、
フィリピン政府発行の本物。試験
の部分だけを裏金の力で省いてい
るだけで、免許証自体は正式な手
続きを経て発行されているらしい。
だから、現地の警察で照会しても
記録があるので問題ないとか。
ま、警察官のバッヂから腎臓ま
で販売されている国だ。たとえ免
許証が金で買えるとしても不思議
ではない。

加えて、俺の圧倒的な興味をひ
いたのがこの話。
「ワタシノメンキヨ、ナンデモダ
イジョウブ。ホステス、ダメナッ
タラ、トラックノウンテンシュサ
ン、ヤルネ」
冗談かと思ったが、彼女の国際
免許をよく見せてもらうと、運転
できる資格を表す5箇所の柵すべ
てにスタンプが押してある。つま
り、大型貨物や牽引など、ほとん
どの車両が運転できるのだ。
彼女によれば、別に特別注文し
たワケではなく、ただ「免許が欲
しい」と言ったら、コレができて
きたという。新車で買った車を縦
列駐車が苦手だからとポコボコに
してしまう彼女なのに、免許だけ
はプロ顔負けの資格…。おかしな
話だ。
日本に住むフィリピン人、特に
工事現場などで働くことが多い男
性は、こうして不正な手続きで作
られた国際免許を使っているケー
スが多いと聞く。きっと、そうし
たニーズに応えるため、最初から
すべての資格を満たした免許が作
られているのだ
試験ナシで、ほとんどの資格が
OKのオールマイティパス。これ
はおいしい。おいし過ぎる。日本
人の俺でも、ひょっとしたら…。
「タブンダイジョウブ。ニホンジ
ンノオキャクサン、イッパイ、フ
ィリピンノコクサイメンキョ、モ
ッテル」
ホステスとして働く彼女の日本
人客には、すでにフィリピンの国
際免許を持っている人間も結榊い
るとのこと。ならば、なおさら欲
しい。その旨を彼女に伝えると、
ブローカーを紹介してくれるとい
う。もう願ったり叶ったりだ。
後日、彼女の紹介で現れたのは、
マニーなるフィリピン人男
性。普段は建築現場でコンクリー
トを圧送する仕事をしているとい
う彼は、とても裏のブローカーと
は思えない、ごく平凡な容姿だ。
話がすでに伝わっていることも
あり、交渉はスムーズに進んだ。
マニーの話では、日本人でも国際
免許は作れるとのこと。ただ、万
一事故や大きな違反を犯したとき
に警察に怪しまれる可能性が高い
ので、辻シマを合わせる意味で1
日だけでも現地へ飛び、その場で
発行を受けた方がいいらしい。
費用は全部で10万円、波航費用
や滞在費は別。また、国際免許の
有効期限は1年間なので、更新を
したい場合は、再度1万円かかる
が、そちらは日本に居たまま郵送でOKということだ。
知人のフィリピーナが5万円で
取得したというのを考えると吹っ
掛けられている気もするが、ちょ
うど仕事でフィリピンのミンダナ
オ島へ取材に行く予定があった俺
は、二つ返事で彼に頼むことにし
た。
事前に用意するによう指示され
たのは、写真とパスポートのコピ
ー、そして現在の住民票と戸籍謄
本、およびそれを英訳したもの。
厚首云やパスポートのコピーはわ
かるが、それ以外はなぜ必要なの
か。悪用されちゃかなわんと思い
尋ねると、「本物の免許だから」
との答しか返ってこない。
数日後、少々疑いながらも辞書を見ながら適当に訳した書類一式
と現金をマニーに手渡す。
彼は「マニラについたらここへ連
絡するように」と、電話番号が書
かれたメモを俺にくれた。
フィリピンへ飛んだのは、その
2週間後のこと。正直、かなり不
安だった。こんなんで本当に大丈
夫なのか。
本来の目的であるミンダナオ島
での取材を終え、マニラに立ち寄
った俺は、指示された電話番号へ
連絡を入れてみた。
電話に出たのはやはりフィリピ
ン人の男。ところがこの男、日本
語がまったく話せず中学生レベル
しか話せない俺とは、ほと
んど会話にならない。それでも、
何とか滞在しているホテル名を告
げ、迎えに来てもらう約束にこぎ
着けた。

翌日、男は恐ろしくオンボロな
ジープに乗って登場した。電話と
違い、身振り手振りを交えての会
話なので、若干ではあるが話は理
解できる。大統領が代わって不正
取得がしやすくなったとかナンと
か言っているようだ。そんな会話にならない会話に没
頭しているうちに目的地に到着。
連れて行かれたのは、LTOと呼
ばれるフィリピンの免許センター
だった。
ワケもわからず窓口に行くと、
なんとすでにでき上がっている
フィリピン国内用運転免許が差し
出されるじゃないか。中の写真は、
まぎれもなく俺の顔○正真正銘の
ホンモノだ。
男はスグに国際免許の申請をす
るようにと促してくる。俺は彼に
言われるがまま、申請用紙の数カ
所にサインをした。
その数時間後、実にあっけなく
俺の国際免許は発行された。が、
中身をよく確認すると、資格を表
す柵のスタンプが2箇所しか押さ
れていない。マニーにあれほど、
全部の柵にスタンプを押してくれ
と頼んでいたのに…。目の前にい
る男に尋ねようにも、俺の英語力
では不可能だ。
まあいい。つい欲張ってしまっ
たが、普通免許さえ取れれば何の
問題もないのだ。
その後、日本に帰ってマニーに
その件を尋ねてみると、どうやら
免許センターのチェックが以前に
比べ厳しくなり、外国人の免許に
いきなり全部スタンプを押すのは
難しくなったとのこと。「次に取
りに行くときは、大丈夫だよ」な
んて言うけど、いい加減な話であ
る。だいたい遜諭くときって一体
いつのことだよ。
結局、何でも運転OKのオール
マイティ免許を取得することはで
きなかったが、スタンプが押して
あるAとB2ヶ所の部分(妬Pの
写真参恩の資格をよくよく調べ
てみると、意外な利苫〈があること
に気づいた。
Aの部分は自動二輪の資格のこ
とだが、日本語に訳せば「二輪の
自動車(側車付きを含む)、身体
隙生署用車両及び空車状態におけ
る重量が400キログラム(90
0ポンド)を超えない3輪車の自
動車」という意味。
ん?車両の重堂による規制はあ
るが、排気量については全く規制
がないぞ。ってことは、750C
Gや1100ccなんかの大型自
動2輪も乗ることができるってこ
とか。ヤッター、これで夢のハー
レーにだって乗れるゾー.

それから半年がたった今。俺は、
未だに免停になることなく日本の
免許とフィリピンの国際免許の両
方で運転している。
駐車違反やシートベルトの未着
用で2回ほど停められだが、フィ
リピンの免許を提示したら、友人
の話どおり切符は切られずになん
とか逃げ切れた。
ただ、困ったのは、どうして俺
がフィリピンの免許を持っている
かとしつこく聞かれること。「フ
ィリピンで商売をやっている」と
答えるも、国のイメージがどうも
よくないせいか、必ずいぶかし気
な表情を見せる。
考えるに、それでも切符を切ら
ない理由は、現場の警察官にとっ
て、日本の免許とはフォーマット
の違う国際免許の違反切符を作成
するのが面倒であるという一点に
過ぎないのだろう。加えて、国際
免許所持者イコール日本語が通じ
ない相手というイメージも強いよ
うだ。
が、これでアグラをかいている
のは大間違い。免停中や欠格期間
中は、たとえ国際免許を持ってい
ても無免許運転になるという事実
が判明したのだ。
新聞報道によれば、免許取消処分中の女性が
タイの国際免許で運転していたと
ころ、無免許運転で逮捕されたという話

確かに、道路交通法の「国際運転免許証及び外国運転免許証
並びに国外運転免許一匹について
書かれた第6章・第7節には、日
本の免許が停止や取消処分中は外
国の国際免許を持っていても免許
許になる旨が明記されている。
逮捕された女性は、酒気帯び運
転やスピード違反で免許収消処分
を受けていたが、インターネット
上で掲示されていた「免許収消中
でも国際免許があれば、国内でも
運転できる」というツアーの広告
を見て参加。この広告を出してい
た貿易会社社長も批菟許運転補助
の疑いで逮捕されていた。

「違反なんか恐くない」のは、ま
んざらウソでもなさそうだが、モ
ノにも限度がある。逮揃された女
性はソレを知らなかった(日系人
のマネで切り抜けていたというポ
ルシェ野郎の友人は、相当運が良
かったのかもしれないが)。
もちろん、俺はそこんとこ、し
っかりわきまえているつもりであ
る。切符を切られにくいというだ
けでも、自分にとってはこの上な
いメリットなのだ。