電光掲示板の路線図は血の海の如く真っ赤に染まり、ビッシリ並んだテールランフの列は微動だにしないー、ケッ、高速道路が聞いて呆れるぜ。こんな渋滞なら一般道の方がマシってもんだこのボッタクリめ、力ネ返せー
車を運転する者ならば、そんな怒りがこみあげた経験は一度や二度じゃ済まないはず。だか、大半の人はここで考えるだろう。高速道路は混むものだし、通行料金も払うのが常識そんなイチャモンつけても力ネが返ってくるワケがない
不平不満をグッと飲み込んで、トライバーたちは今日も料金所で提示されるまま金を支払うこれでいいのだろうか
高速道路にクレームをつけ続け、タダ乗りを可能にしてしまったという驚くべき男の話である
深夜その男が運転するスターレットの助手席に私はいた。男は高島平入口から首都高速五号池袋線に入り、志村料金所へと車を走らせた。
「はい、700円ね」「え?金払うの?」
手を差し出す係員へ運転席からとぼけた声か返ってくる。
「アンタ、ナニーいってんだ?」
「ホレ見ろよ。あんなに混んで」
男は前方で数珠繋ぎになっている車の列をアゴで指す
「そんなこと関係ないでしょいいから700円払いな」
「わかった、わかった。んじゃ、これでいいね」
ー枚の紙切れを渡す男と、鼻息の荒い係員がみるみるトーンタウンしていく
「ああ、はいよ」
男はニヤニヤしながらアクセルを踏み込んだ。バックミラーには苦虫を噛み潰したような顔で脱む係員か映っている
「これで終わり簡単だろ。タダだよタダは本当に気分がいいよなあハハハ」
そう言って豪快に笑う男の名は和合氏(59才)13年間、首都高速道路公団や日本道路公団などにクレームをつけ続けて
「東京かり大阪に行ったってタタだよ。オレも仕事でよく関越道を使うけど、金なんて払わない。全部コレ1枚」
和合氏が料金所で出した紙と同じものをピラピラさせる。
旧料金500円通行宣言書・首都高速道路公団全国の有料道路さま
この紙キレが、なぜにあれほどの効力を持っているのだろうか。和合氏は父親から埼玉県にある金属加工会社を受け継いだ。自らもお得意さん回りや資金繰りで奔走する日々か続いた。
氏はいつものように仕事に向かうために首都高速に上った。錦糸町まで渋滞8キ口という渋滞情報をウンザリしながら見ているうち料金所に到着。係員が事務的な態度で言った。
「今日から値上げです600円いだきます」
なにっそれまで500円だった首都高速の通行料金か、この日を境に100円アッブしていたのだ。
寝耳に水だね。あんなに渋滞して値下けならともかく、2割も上かるってのはどういうことだと切れたよ。それで、名刺を提示して、納得のいく説明がなければ、そんな値上げは認められない、と文句をつけて500円だけ払って通行したんだ
昭和39年(1964年)、東京オリンビックの直前に開通した首都高速道路その建設費は通行料金かり回収、無料開放されるという公約のもとで進められた国家事業だった。だが、フタを開けてみれば、繰り返される値上けでそんな兆すら見えない。そのくせ、慢性化した渋滞は年々凄まじさを増すばかりだ。
「アタマにくるのも当然だろ。だからその旨を文面を作って500円通行を始めたんだ」
池袋線の渋滞が激しくなると和合氏は鼻歌交じりにハントルを切って、板橋本町出口から国道17線へ下りた
「こんなに混んでるのにバカ高い通行料金を取るなんて国は世界でも珍しいそもそも無料通行にならないのはプールが原因なんだ」
料金プール制とは、新規路線の債務を既存路線に組み込み一緒に返済するという考えで、昭和48年に導入された早い話か、どこかで道路を造り続ける限り、高速は無料にしなくてもOKという理屈である。
「そんなカラクリで公約をうやむやにするのも、お上と建設業界の癒着があるから。道路公団は赤字経営でも、天下り先の関連企業は黒字ってわけだ」
日本の道路行政の問題点を指摘しつつ、氏は再び首都高速の北池袋料金所に上かる。「ナンバーは控えるよ」
無愛想な職員は見るなりそう告けて通行を認めた。
「今はこんな風に大人しい職員ばっかりだけど前はすこかったよ」
氏によれば、料金所で十数人かマスク・ヘルメット姿で待ち構え、、100円払えコールの中、車のミラーやタイヤを破壊するという実力行使に出られたこともあったという「他にも、車の前で大の字になって届りたかったら、オレを殺してから行けーなんて叫ぶオジサンもいたな。さすがに同僚たちかり止められてたけど」
にしても、たかか氏1人になぜこれほどまで躍起になるのか。高速道路の料金は道路整備特別措置法に定められたもので刑法ではないよって、警察が氏を逮捕することはできず、道路公団が自力で徴収しなけれはならない恐らく、悪しき前例を認めたくないという意地のあらわれだろう。
しかし、こうした公団側の妨害に遭いながらも氏の高速道路に対するクレームは中断されなかった。向こうが意地なら彼もまた意地になっていたのだ。
「ここ数年、いつもと変わらぬ光景と言いたいところだが、1つだけ違う点があった。実はその日以降、宣言書の文面に次の数行か加えられていたのだ。
貴公団の回答がありません。21世紀より無料通行と致します。早期回答をお願いします。
初クレームからすでに道路公団職員で氏のことを知らぬ者はいない
「今日から無料だってね。500円だけもらうより、こっちの方かわかりやすくていいよ」
中には、そんな風に冗談交じりで対応する職員までいた。こうして完全なタタ乗りが始まった。もちろん道路公団からは請求書が月末に自宅へ送られてくる。が、払うわけかない。結果として容認されたようなものだ、と氏は笑うところで、この少し前から氏の元には乗りもしない全国の有料道路かり毎日のように請求書が届くようになっていたというのも、氏は《フリーウェイクラブ》という団体を主宰しており、その会員たちが、全国各地でタダ乗りを実践していたのだ。その数は350人にも上るという。
「アンタにもあげるからタタ乗りすればいい責任はフリーウェイクラブが全部持つよ。
皆さんにも配ってくれ。そんな感じでー日1000人も首都高速に乗ったら道路公団は半年で潰れるだろうなハハハ」
物騒なことをサラッと言ってのける和合氏。断っておくが彼は特定の思想や団体に属してるわけではない。あくまでも一個人の立場でこのような過激な言動を繰り返しているのだ
「みんな難しく考えすぎだって。NHKの受信料と同じなんだから。高速の通行料金ってのは認可制のもので税金じゃない。道路建設費用はガソリン税や重量税でまかなってる。これを税金のような顔して取り立てたら二重徴収で違法行為だつまりオレには払う義務がないんだよ」
取材中、首都高速をタダ乗りすること4回通常なら2800円はかかるところである。
「首都高速だけで月20回外環や関越道も使うね。タダはいいよ景色まで違って見える」
氏がそれほどのリスクを払ってまでクレームをつけ続ける理由はなんだろう
「そりゃ、楽しいかりだよ。クレームっていうより実験してるような気分だねこのままいったら日本といっ法治国家は何をしてくるんだって。結局何もしてこなかった。じやあ全く金を払わなくなったらどうなるんだろうってのが今の実験ワクワクしてるよ」