メシを食ったあとで女は何をしたいか。簡単すぎる。デザートである。あいつらは「ケーキは別腹よんてなことをよく言ってるじゃないか。
新宿の「なか卯」でうどんをすする30前後のネーさんを発見したオレは、すぐそばの席に陣取り、猛スピードでうどんをすすった。そして、ネーちゃんが店を出た後をすかさず追いかける。
「さっき、なか卯にいた?」
「え、はい」
「オレもだよデザートにケーキでも食べて帰ろうか」
「は?」
「オレ、ケーキ好きなんだよね。南口のサザンテラスのケーキ屋とか行ってみないですか」
「…うん。それはちょっと。明日も早いし」
デザート作戦、無残にも失敗である。
なんだか新宿というのが間違ってるように思えてきた。この街の飲食店は、オフィスで仕事を終えて即メシを食うパターンだろう。だからそのあとで電車に乗らなきゃなんない。そこがネックなのだ。むしろ、さびしんぼう、特に一人暮らしのOLなんかは、自分のアパートの近所で一人メシをするもんじゃないのか?最寄り駅から自宅までの間で。というわけで高田馬場に向かうことにした。都心のくせに家賃が安めなので、一人暮らし率が高いエリアだ。セルフサービスのうどん屋「はなまるうどん」に、学生連中を避けるようにしてカウンターに座るOL風がいた。無表情でうどんをすすっている。
彼女の横の席に、オレは自分のトレイを置いた。大きな独り言をつぶやきながら。
「あれ、水はどこで持ってくるんだつけ。水はどこかな…お水、お水・・・」
そしてひとこと。
「あの、水どこでしたつけ?」
「…あっちですよ」
「あ、ありがと」
水を取ってきたあと、自然と声をかける。
「けっこうよくここくるんですか」誉めてあげたいほどのスマートな流れである。しかし彼女は一瞬こっちを見たあと、目も合わさずに「はい」と言うだけだった。しかも若干背中を向けるように座り直しているじゃないか。いたたまれなくなり、ろくすっぽうどんも食わないまま店を出た。なんだかオレの目論見って、完全に的ハズしちゃってる?ケチがついたので場所を変えよう。今度は池袋だ。なんかジャンル的には新宿と似たようなもんだけど。
ああ、それにしてもなんか腹減ったな。うどんも食い損ねたし。回転寿司でも行っとくか。とそこにラッキーが。カウンターで一人さみしそうに寿司を食ってるネーちゃんがいるじゃないの。そうかそうか、回転寿司か。確かにときどきいるよな。よし、ロックオネーちゃんは携帯をちらちら見ながら5皿ほどたいらげ、ゆっくりお茶を飲んでから会計に進んだ。あの最後のお茶の部分に、「ああ、何もやることないし退屈だなぁ」の気分を確信した。行け!
「さっき寿司屋にいましたよね」
「ああ、はい」
「オレも食ったんですよ、マグロ」
「私もマグロ食べましたよ」
なんともまあ、何の作戦もなく入った回転寿司が、いちばん反応がいいじゃないですか。
「時間あったら、飲みかデザートか、とにかく何でもいいから行かない?」やけくそだった。いっそのことホテルにでも誘ってやりたい気分だ。
「いえ、有楽町の人から連絡を待ってるから」
素っ頓狂なことを言う女だ。誰じゃそれ。有楽町の人なんて知らん知らん。ほっとけばいいじゃん。
「でも怒られるし」
「誰に?」
「吉川さん。有楽町の人」
別に彼氏ではないけど、ダーリンにしたいのだと。それなら怒るわけないと思うよ?
「う-ん、じゃあ連絡先おしえてください。メールします」
しょうがない。じゃあこれからは寿司が食べたくなったら連絡してくるんだよ。回転するとこなら連れてってあげるから。ちょっとした自虐ギャグで好印象を残したつもりだったのに、メールはず-つと来ないままだ。一人メシって、あれ何なの?寂しくならないの?