某電気街によく出没する義足のジイさんがいる。年齢は70代くらい。左足の付け根から下を欠損していて、いつも地べたにカゴを置き、こんなメッセージを書いたダンボールを持って物乞いをしている。『私は交通事故で足を失い、仕事も家庭も無くしました。カンパよろしくお願いします』物乞い中は義足を外し、これ見よがしに傍らに置いているため、その姿はかなりインパクトがある。
日曜、夕方。例のごとく電気街で物乞いをしている義足ジイさんを見かけた。何気にカゴをのぞくと、千円札や1万円札も入っている。さほどに片足が無いのは通行人の同情を誘うのだろうか。もしかしたら呼び水のために自分で入れたのかもしれないが…。
離れた場所から様子を伺うと、
0分に1回くらいはザルに金が放り込まれていた。恵まれる金額は小銭ばかりだが、「頑張ってください」なんて優しい声をかけられたりもしている。ジイさんは「ありがとう、頑張るね」とニコニコ笑っているが、どういう心境なのだろう。じっくり観察してみっか。というわけで張り込むこと2時間ほど、動きがあった。おもむろに義足を装着し、杖をつきながら駅のほうへ歩いていく。追いかけましょう。しばし電車に乗り、新宿近くの駅で下りると、コンビニに入った。買い物カゴに総菜をポンポン放り込んでいる。ほっけの開き、ニラレバ、おにぎり3個、揚げ出し豆腐、イカリング。そしてワンカップを4個。晩メシっぽい。このへんに住んでるのかな?コンビニを出た後、たどり着いたのは、古い都営住宅のようなアパートだった。ジイさんが1階の部屋に入ったのを確認後、ベランダのほうに回ってみた。間取りは1Kといったところか。たぶん一人暮らし、生活は苦しいのだろう。なにせ障害もかかえているわけだし。ジイさん、今ごろ侘びしく晩メシを食っているのかな…。何だか気が滅入ってきて元来た道を引き返し、いったん駅前で一服する。そしてもう一度アパートへ。と、換気でもしているのか、ジイさんの部屋のドアが半分ほど開けっ放しになっていた。…あれ?中からジイさんのしゃべり声が漏れている。
「男の楽しみってのは、メシ食って、酒飲んで。やっぱ女とヤルことだな」
…何の話だ? 物乞いのときの「頑張るね」のトーンとはずいぶん温度差があるけど!?そーっと中をのぞいてみる。手前が台所、奥が居間らしい。…おっ、60型くらいの大型テレビがあるぞ!部屋にはジイさんの他にもう一人おっさんがいた。友達らしい。
「あそこのママにはよくしてもらったし。また行ってやらないとなぁ」
「パチンコはいい思いしたよ。明日も行くか。おまえも行く?」
…勝手に侘びしい生活を想像していたが、実に楽しそうにやってるじゃないか。こんな大型テレビもあるし。何気にジイさんの収入を想像してみる。生活保護や障害者年金をもらって、さらに義足をウリにして物乞いでガッツリ稼いで…。意外と悠々自適なんじゃね?ジイさん、バイタリティのある方ですなぁ。オレも頑張って生きよっと。