会話のタネ!雑学トリビア

裏モノJAPAN監修・会話のネタに雑学や豆知識や無駄な知識を集めました

歌舞伎町の客引きについていったらぼったくりキャバクラだった

風林会館から歌舞伎町交番へ向けて通りを歩いて行くと、さっそくSの客引きが声を掛けてきた。「どすか、キャバクラ。1時間4千円」流行の3つボタンのスーツを着ているが、田舎の成人式で見かけるヤンキーのようなくさい雰囲気が漂う男だ。
「マジで4千円?全部込みで?」
「本当ですっ!ただ、女の子の飲み物は1000円から1500円くらいいただきますけど…」ビラを差し出しながら、しきりに低料金を強調してくる。
「どんな子がいるの?」
「いやあもう可愛いのばかりですよ。あそこにいる2人もうちの女のコですよ」
5メートルぐらい先に立つ2人組の女はパフィーみたいな雰囲気で、キャバクラ嬢というよりは原宿系。ブスではないが、大して食指が動くタイプじゃない。
「なんだったら、あのコたちを付けましょうか?」
「わかった。とりあえず入るから、気に入った子がいなければ頼むよ」
『S』は風林会館脇の道を入った、ビルの4階。キャバクラと呼ぶにはかなり狭く、パブという方が似合っている。客は俺達以外、誰一人としていなかった。おまけに、女の姿もナシ。席に着くと、野暮つたいボーイがやってきて勝手に水割りを作り始める。
しばらくすると、2人の女が席にやってきた。さっきまで寝ていたのか、大きなあくびをしているばかりで何もしゃべろうとしない。
「こんばんは」
「ふわぁ、はじめまして」
「全然お客さんいないね?」
さっきまでお客さん一杯だったんだけどネ(本当かよ)女を改めて見るが、外にいたパ
フィーがいい女に見えるくらいの不細工でおまけに1人はデブ。愛想がよければ許してやるんだが…。
「ねっ、なんか飲んでイイ?」
沈黙が3分ほど経過した後、突然女のほうからしゃべってきたかと思えば、.なんと飲み物の追加オーダー。最悪な店である。ブス女に酒を飲ませるのもしやくなので、女の言葉を無視して女の子を外にいたバフィー似に代えてもらうようボーイに頼んでみた。
「さっき外にいた子を呼んでよ」
「別に指名料がかかりますが」
「さっきの客引きが、外の子を付けてもいいって言ってたよ」
「それは、指名をしていただければということです」
確かにダダでとは言っていなかったのでしょうがない。諦めて席にいる女達にドリンクを注文する。その後、形だけの乾杯をしたが、相変わらず女側からしゃべってくることはほとんどなく、場は葬式のように静まり返ったまま。無理してこちらから話すのも疲れるので、きっちり1時間になる5分前で、俺たちは出ることにした。さて、いよいよ会計である。
「2名様で1万5180円です」
アレ?4千円だから女の子のドリンクを入れても2人分で1万〜1万1千円のはずだが…。
「お客様、入店時にウチのビラをご覧になりましたよね。同じビラがありますのでよく見てください」ボーイはそう言うと、カウンターから客引きが持っていたビラと同じものを取り出し手渡してきた。
「4千円の下を見てください。ここに小さく書いてあるでしよ。サービス料30%、税金8%って」確かに、小さな字でそう書かれている。
「ですから、お客様2人で8千円、女性のドリンク代が2杯で3千円、それに税金、サービス料が付きますので1万5180円です」
こんなサービスのどこに3割もブン取る価値があるのか知らないが、文句を言っても勝ち目がないので素直に払うことに。まったくヒドイ話だ。が、この程度のボッタクリは歌舞伎町に限ったことではない。どこの繁華街でも時々出くわすことである。歌舞伎町交番裏から職安へ歩くと、パンチパーマにシャツ姿のいかにもといった雰囲気の客引きが声を掛けてきた。
「アニキ、若いピチピチのギャルとコレどすかあ」
おきまりの小指を立てた仕草だ。
「今日は飲みだけでいいや」
「なら、イイ店紹介しますよ。キャバクラ。飲み放題全部込みで1万円ぽっきり。安いでしよ」
連れていかれたのは、海鮮市場の裏手側にある韓国クラブなどが集まるビルの4階にある『B』入口には「会員制」という札が貼ってあり、店内はごく普通の新宿にあるクラブといった感じで、決して怪しくはない。どちらかといえば、高級そうな雰囲気だ。
「あら、いらっしゃいませ」
扉を開けると、持っているすべてのアクセサリーを付けているのかと思うくらい、ジャラジャラしたママが出てきた。この店もまた、客の姿が見あたらない。席に座ると、接客の女が2人やってきた。片方はGジャン、もう一方はポロシャツと店に似つかわしくないラフな格好だ。どちらも20代前半に見えるが、露骨な茶髪といい、しまりのない体といい、シンナーでも吸っている家出娘のような雰囲気が漂っている。しばらくすると、ママが飲み物を持ってきた。こちらは何も言わないのに水割り、女たちにはロックグラスに入った茶色い液体だ。
「ごめんなさいね、今日は女のコも2人しかいないの。それから、最初に言っておくけど彼女らの飲み物代は別ね!じゃ乾杯」
女の子の飲み物代がいくらなのか聞こうと思ったが、一方的にしゃべりまくられ、聞くタイミングを逃してしまった。
「今日は何軒目?お仕事は?お二人はどういうご関係?」
しばらく一方的なママの質問攻勢が続く。
「ところで、うちの店のシステム知ってる?気に入った女の子がいたら、連れ出しできるのよ」
なるほど、そういうことね。しかし、こっちは端からそんな気で来ていないし、横に座っている女達ならなおさらノーサンキューだ。
「それはまた今度。疲れてるし」
「そう、じゃ今日はごゆっくり飲んでいってね」
飲み放題で1万円とは、確かにゆっくり飲めるのかもしれない。が、これを境に徐々にボッタクリモードに突入していったのである。まず、女の飲みつぶり。2人の女がグラスを2,3口でクイッと開け、ママがカウンターで新たに作って持ってくるという動作が10分おきくらいのペースで繰り返され始めたのだ。飲物は、本人達日くウイスキーのロックだというが、どう見ても麦茶かウーロン茶。それもそのはず、ふとカウンターに目をやると、サントリーのローヤルが角瓶と丸瓶の2種類あり、ママの動作をよ
く観察していると、俺達の水割りを作るのは角瓶、女の子には丸瓶で注いでいるじゃないか。もちろん、これほどのペースで飲んでいれば普通の女性ならべロベロになるところだが、そんな様子などまったくない。人を馬鹿にするのもいい加減にしろってんだ。ここはちょっと突っ込んでやれ。
「それって本当にウイスキー?」
「そうよ」
「じゃっ、飲ませてよ!」
「やだ、病気うつるかもしれないから…」客と簡単に寝るような女が「病気がうつるから」とは、説得力がまるでない話である。しばらくすると「なんかおつまみ食べる?」と、盛んにママが煽ってきた。「腹が一杯だ」と断っても、気が付くとあたりめを二皿も持ってテーブルの前に立っている始末。その後も、カラオケを歌えだの、おいしいワインがあるだの、何だかんだと金がかかりそうなことばかり勧めてくる。そうするうち、店に入って一時間ほど経ったころ、極めつけのサービスが。ちょうど俺達の水割りが4杯目になっていたときだ。妙に舌先がピリピリして、味がかなり濃い。
「ママ、ちょっと濃いんじゃない」
「え-普通よ。酔っぱらっているんじゃないの」
友人も異常に気付いたらしく、それ以上グラスを口に運んでいない。が、ホステスはそんなコトなどお構いナシに、おしぼりでグラスに付いた露を拭き取り「どうぞ」と、何とか飲ませようとする。とりあえずグラスを口まで近付け、ほんの一口だけ飲み込む。このノドに焼けるような熱さはなんだ暇間違いない、モノ凄く度数の強いウオッカだ。
これ以上こんな店にいたら、何をされるかわからない。俺たちは、酒もそこそこに会計を頼んだ。
「ママ、会計してよ」
「あら、もう帰っちゃうの。何時間でも飲み放題なんだから、もっと居ればいいのに」
向こうも必死に引き留めようとする頑とりあえず予定があると言いきり、何とかお愛想してもらう。
「じゃ6万7千円です」
「…どうして、そこまでかかるの」
「お2人様で2万円。それに女の子の飲み物代が、全部で36杯だから3万6千円。それにおつまみが1皿5千円の2皿だから1万円でしよ。それに、税金とサービス料で67320円。あっ、320円はサービスしておくわ」
あきれてモノも言えないまま、俺たちは金を支払い、そそくさと店を出たのだった。