会話のタネ!雑学トリビア

裏モノJAPAN監修・会話のネタに雑学や豆知識や無駄な知識を集めました

「セーラー服着用でラーメン無料」など割引のハードルの高いラーメン屋

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居酒屋やラーメン屋のトイレで小便してると何故か目線の先に「親父の小言」とか相田みつをの詩など人生の格言が色紙に書いてあって、酒飲んでベロンベロンの自分を全否定された気分になった経験は誰もが一度はあるかと存じます。
 あの格言が何の為に貼ってあるのかは未だ謎のベールに包まれていますが、その格言が余りに攻撃的すぎるラーメン屋が横浜方面に存在するという怪情報が舞い込み早速足を運びました。私鉄沿線某駅から徒歩5分、国道沿いに一軒のトタン小屋がひっそりと佇んでいます。何故か英国の国旗が掲げられている他は至って地味な民家にしか見えず、看板や店名も一切ないのですが、外には鍋や寸胴が無造作に積み上げられているのでどうやらギリギリラーメン屋であることが推測できる仕組みになっていました。すべてのガラス戸には無数の紙が貼ってあり、マジックペンで何やら走り書きされています。恐る恐る近づき読んでみると、

「孝行を したく無くても 親はいる」
「アーンして 昔ラブラブ 今介護」

「世界一バカな奴 一番先に電話ひいた奴」など、明らかにその辺の店の格言とは一線を画した、棘のある言霊が並んでいました。店に入ろうかどうか迷った客の9割はこれを読んで隣の華屋与兵衛に移動するに違いありません。
 またその他にも

「30以上セーラー服着用ラーメン只」

「90歳以上で免許証持参ラーメン只」

「新聞に載った方300円」などハードルの高い割引情報も所狭しと貼られています。
貼り紙の隙間から店内を覗くと真っ白な髪と髭を伸ばした北大路欣也に似た初老の店主が仁王立ちでスティック状のチョコレートを食べているのが確認できました。ガラス戸を開けると北大路はこちらに気付き「いらっしゃい」と深く頭を下げてくれたので見た目にそぐわず礼儀正しいなと思っていると、おもむろに缶ビールをプシュと開けて腰に手を当てながらグビグビと飲み始めたのです。客が店に入ったタイミングで缶ビールを開けて飲み始める意味を瞬時に考えてみましたがとうとう一つも思いつきませんでした。店内はカウンターのみで6席ほどと狭く、厨房と客席にも英国の国旗が掲げられており、なぜか厨房の奥にはインスタントカップ麺が大量に入ったビニール袋がぶら下げられていました。ラーメン屋なのにカップ麺をまかないとしているようで一抹の不安を覚えました。早速席に着くとすぐに水を出してくれたのですが、よく見るとコップがなんとワンカップ酒の空き瓶です。それもラベルがほとんど剥がれた年季の入ったものであり、相当使い込んでいると見受けられました。給水器の横を見ると確かに同じようなワンカップ瓶がズラリと並んでいます。壁には「ラーメン5百円」とだけ記されていたのでそれを注文。待っている間の沈黙が気まずかったのでビールを注文するとなんと「ビールは置いてないっス」とのこと。それを缶ビール飲みながら言うもんだから思わず「それは?」と缶ビールを指差して訊ねると「これは貰ったんスよ、近所の人に。貰わないと飲まないんスよ」とわけのわかんないトンチみたいなことを言われたのでそれ以上は詰問できませんでした。店主が缶ビールを飲みながらラーメンを作ってなおかつコップがワンカップ瓶なのにビールが置いてないというレアな状況に遭遇しましたが、気を取り直してガラス戸に貼られた格言について尋ねることにしました。
 かなり挑発的な内容だったのでさぞ自己顕示欲の強い、固い意志があるんだろうなと思いつつ怒鳴られることも覚悟で尋ねると、店主は「あれは…その…何ていうか…」と意外にも言葉に詰まってしまいました。余りにもずっと狼狽してたので「お客さんに楽しんでもらおうとか、そういうことですか?」と助け舟を出すと「アンサンの言う通りでございます」と再び深く頭を下げられました。コワモテの容姿、貼り紙の強気な格言、ワンカップ瓶の水などハードボイルドな要素がすべて備わっているにも関わらず、いざ本人に訊ねるとモジモジし始めるという意外な展開にこっちも困惑しました。出来上がったラーメンは海の家で出てくるような恐ろしくシンプルなものであり、少しぬるいスープや固い麺など気になる点はありますが、5百円という値段を考えれば妥当なもの。「セーラー服の客は来ましたか」と訊ねると「はい、何年か前に…少しだけ…」と
これまた遠慮がちです。目もまったく合わせてくれずどうやらかなりの人見知りらしく、入店した途端に缶ビールを飲み始めたのもそのせいかもしれません。