会話のタネ!雑学トリビア

裏モノJAPAN監修・会話のネタに雑学や豆知識や無駄な知識を集めました

韓国のウォーカーヒルのカジノで給料全額賭けた一発勝負

裏モノ編集部の下っ端である俺の1カ月の手取りは、20万5千円である。

家賃が8万、電話・光熱費で2万、残りが1カ月の生活費だ。

恒ましやかに暮らせば十分な額なのかもしれない。
が、外食は多いし、飲みにも行きたい。
正直、無理。毎月貯金を切り崩す有様で、この調子なら生活が破綻するのも遠い将来
ではないように思える。
何とかしなければ…。切実に感じる今日この頃、
編集部一の小金儲け長者、武田に知恵を授かった。
あの先輩、株だけに留まらず、ヤフオクでもブイ
ブイ鳴らしているようで、日く、賢く動けば月、
10万も夢じゃないらしい。


しかし、結論から言うと、俺は性格的にダメだった。やれ商品の仕入れだとか梱包だとか。説明されているだけで、眠くなってきてしまう。
では、何だろう。こんなズボラな俺にもできる
小遣い稼ぎとは。今回の企画の発端は、このあたりにある。
3月中旬、銀行の残高が5万円を切り、バクチで一発逆転しようと思い立った決心を、鉄人社一のキャンブル好き平林に、何気なく漏らした。

「最近、マジで貯金なくなってきてて。だから週
末の高松宮記念(競馬のGIレース)で挽回しよ
うと思ってるんすよ」
「ほ、いくらいくの?」
「ま、1点賭けで、せいぜい5万くらいすけど…」
謙遜はしつつも、自慢気だった。

5万といえば、大金。そこは、『すごいじゃん」くらいの言葉を期待していた。
しかし、平林は冷笑し、周りの先輩たちも興味なさ気。代わりに、ボスの尾形が口を挟んだ。
「5万じゃショボすぎだる・給料日の次の日じゃん。手取り全部いけよ」
体が凍りついた。こと裏モノ編集部においては、
これが冗談では済まされない。勘弁してくださいよ

即無くなったらどう暮らしてけばいいんすか。ていうか、文無し覚悟でバクチを打ち、読者のウケを狙うなんて、愚の骨頂じゃないすか。
しかし、下っ端の戯言などボスは間いちゃいなかった。
「ルーレットで赤黒一点勝負してこいよ。テレビでやってたけど「ウォーカーヒル』のカジノとか面白いんじゃね?」
ウォーカーヒルとは、韓国にある高級ホテルのことだ。先日、番組の企画で、お笑い芸人がルーレットで『赤」か『黒』に100万円を賭けるべく、わざわざソウルまで出かけたのは俺も知っている。
「旅費だけは、編集部の費用から出してやるから。明日にでも行ってくればぁ」
ピクリと触手が動いた。悪くないかもしれん。
競馬だろうがパチスロだろうが、俺の性格からして、負けが込むと、有り金をぜんぶハタいちまうに違いない。ならば、潔く赤か黒かのどちらかに賭けたらどうだ。

確率は2分の1。勝ったら倍。負けたら…いや、それは考えまい。先輩たちの瑚笑を尻目に、俺は力強く言い放った。
「やらせてください。勝って帰ってきますから」

午後5時.ソウル。『仁川国際空港』から路線4番のリムジンバスで俺は「ウォーカーヒル」に向かっていた。さすが国内有数の一流ホテル、空港から直行便が出ている。車内には、俺を除き9人。ざっと顔ぶれを覗くと、半数は口角の緩んだ観光者風情、残りはソウルの住人のようだ。
バスは、市内中心部に入り、日本の『上野」をさらに小汚くしたような露天だらけの繁華街を抜け、それを見おろす格好の高台に着いた。ここが『ウォーカーヒル」だ。
「いらっしゃいませ」
「こんばんわ」

果たして、俺は、ココから出てくるとき、どんな顔つきなのか。何を思っているんだ。
入口の横のクロークで荷物を預け、中に足を踏み入れたのは、午後7時過ぎだ。
内部の広さは、小学校の体育館ほどか。大広間に、ルーレット、バカラ、ブラックジャック、ポーカー、タイサイなどのテーブルが並んでいる。
とりあえず、バーカウンターや、チップの換金場所など、内部施設の位置を確認しておこう。
月曜日の夜もまだ早い時間帯とあって、客入りはボチポチだ。が、顔や服装、話し声から判断するに6割は日本人で、そのまた半分が実にウサン臭い連中である。あっちのバカラにいる爺さん、連れのネーチャンはキャバ嬢か。目つきの鋭い向こうの3人組は、絶対ヤクザだろな。

バーカウンターで頼んだ水割りを手に、俺は6
台あるルーレットテーブルをじっくり観察した。
一つのテーブルにディーラーは2人で、定期的
に交替しながら、1台のルーレットを回していく。
ベットは、最低2500ウォン(300円)からマ
ックスは500万ウォン(約印万)。賭けに参加で
きるのは、テーブルを囲むⅥ席の客。まだまだ席
は空いている
とりあえず、ディーラーの横の電光掲示板に示
される過去の出目を見てみよう。
『赤←黒←黒←黒←赤←赤と
分析不能である。競馬とかポーカーなら、少な
からず考えることもあろう。が、『赤冨黒』をどう
しろと言うんだ。
まったくの運である。いや、流れと言うべきか。
麻雀で言うところの『ツモがいい』状態。アレは
確実に存在する、と俺は信じる。ならば、小銭を
使い直感だけで打ち続け、今の自分の運レベルを
計りつつ、流れが来たところで、大きくいけば…。
大学生風の兄ちゃんの隣に腰を下ろし、空港で
両替した約177万ウォンの中から5万ウォンを抜き、ディーラーへ。

1枚300円相当のチップを即枚受け取ると、すぐさまルーレット
が回り始めた。さあ、始まりだ。
まずは『赤」が浮かんだ。それこそ運。ためら
わず『赤」に2枚賭けた。
チン、チン、チン、チン。

ベットの終了を促す、鈴の音が聞こえた後、デ
ィーラーが場を制した。
「ノー・モア・ベット」
みんなで、ルーレットを覗き込む。俺も白球の
動きに目をやった。『赤』か『黒』か…。
「トゥエンティ・セブン」
ディーラーの告げる罰』は、俺の色の『赤」・
またたく間に、チップが倍になった。たかが60
0円の勝ちだが、超うれしい、バンバンザイだ。
が、心の奥底で、思ってしまう。
(もし、20万賭けていれば)
いわゆる『たら・れば」だ。ギャンブルでもし
が無いことはわかってるのだが…。
結局、この「たら・れば』に俺は支配され続け
た。黒で勝ったら、なぜもっといかなかった。赤
で負けたら、なぜ黒にいかなかった。
最悪の思考回路。これでは運気も悪くなって当
然だ。追加金も含め、即分ほどで1万2干円が消えていた。

便所の個室で座り考えた。残金のうち、20万円は企画のための金。
今晩の宿泊費、空港までの旅費などを考慮すると、残りの8千円は、
ゼッタイに使ってはいけない。つまり、残るは本番のみ。もう運試しは
できない。


赤か黒か。考えたところで、答が出るわけはな
い。出目など、何の当てにもならない。だったら、
事前に色を決め、自分の運を信じようではないか。
現場に選択肢は持ち込まず、勇気だけを使いに行
けばいい。
そして、最も重要なのは、深追いしない強い意
志だ。8千円は帰国のための金。勝っても、黙っ
て交換所に行く。これは厳守だ。
個室で悩み抜いた末、俺はカジノに戻った。意を決した色は『赤」だ。
しかし、やはり、というべきだろう。そう簡単
に、着席できるわけがない。この後、俺は現場か
ら逃げ出すように、3度も便所も行った。
午後9時半。ようやく着席したのは、老夫婦と
男女4人組という静かなテーブルである。少し間
を置いて、分厚い封筒をディーラーに差し出した。
「数えます。お待ちください」
ゆっくりでいい、と返したものの、お札キャッ
シャーを持った係りのスタッフがすぐに現れ「遅
くなりました」と言う。追い込まないでくれ。
「160万ウォンありましたが、間違いないでし
ょうか」
確認後、俺が要求したのは、高額10万ウオンチ
ップでの貸し出しである。たった帽枚と見た目の
インパクトはないが、賭け方を考えると仕方ない。

俺はひたすら『0』を待った。実はルーレット
では「0』か『四が出た場合のみ、赤も黒も負
けとなる。が、その確率は旧分の1。これが二度
続けて出ることなど、まずありえない。つまり、
それが出た直後に賭ければ、恐らくや危険は回避
できるだろう。むろん、絶対はないのだが。
いずれにせよ、準備は整った。覚悟もできてい
る。正直、恐れていたほどのプレシャーも無い。
さあ来い、ゼロー.
その『0」に玉が止まった。烏肌が立った。

余裕でいたつもりなのに、体が震える。鳴呼、小便がしてえ。

くそ、いつもの小心者根性だ。
俺って人間はいつも、いざってときに逃げ出した
くなる。今こそ正念場。男、見せんかい!俺は、
あらん限りの勇気を振り絞り、チップ入りの右手
をテーブルに伸ばした。
しかし、何というバツの悪さよ・力み過ぎたせ
いで、チップの棟が『赤」枠に建てず崩れ落ちる。
ばかりか、ディーラーのベット終了宣告の方が、
俺の手よりタッチ差で早かった。鳴呼、マヌケ。
「ダメです。チップを手元に戻します」
長いこと黙っていたかと思えば、急に暴れだし
て、大失態。おそらく、他の客は大バカだと思ったに違いない。
事実、俺は心ここに非ず放心状態で、危うく
ディーラーの声を聞き逃すところだった。
「サーティー」

マジで?黒じゃんかよ
来ている。流れが俺に来ている。間違いない。
今を逃して、いつ張るんだ。俺はゆっくりと『赤》
にチップを積んだ。
「ノー・モア・ベット」
ルーレットの中を、右回りに走る白球は、少し
ずつスピードを落とし傾斜を下り出す。数字盤の
目に上がると、カタカタといつもの足踏み。最後
は「3』の目でピタリとその動きを止めた。
赤だった。