会話のタネ!雑学トリビア

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超絶ブラックと噂の交通量調査員のバイトをやってみた

ハ、ハックシューン、ジュルジュルー

一重度の花粉症に悩まされ続けてはや5年。ひとたび外出すれば涙、目のかゆみ、くしゃみと、地獄のフルセット責めである。特に今年は、花粉飛散が記録的らしく、先日大枚をはたいて買った空気清浄器すら全く役に立ちやがらない。

ふて腐れ気味の私に、担当編集F氏から次の指令が下った。

交通量調査やってよ

『えーと、道路の脇に座って車の台数を数えるアレですか?』『そうそう』

何でも、先日、編集部宛に和田虫象ファンを名乗る男性(30才)からメールが届き、そこにぜひ交通量調査をやってほしいと書かれていたそうだ。虫象ファン30才。きっと、違いのわかるステキなお方に違いない。けどなあ。この時期はお外に出るのが実に苦痛なワケで。花粉が飛んでる日は外出しないともう決めちゃったワケで。『甘ったれたことホザいてないで、とっとと行ってこいよ』

…ま、どーせこういう展開になるのも薄々感づいていたワケで。
希望者は全員採用です
求人誌で見つけた調査会社【E】に問い合わせたところ、ちよつど3日後に八王子&周辺エリアで調査があるという。勤務は7時から19時までの12時間コース(日給1万2千円)と翌日7時までの24時間コース(2万円)から選べるらしい。

『で、どつちになさいますか』

え、今決めるんですか?面接とかは・・・

『必要ありません。希望者は全員採用ですので』

はは、こりゃラクだ。んじゃ、24時間コースにしておこう。

翌日昼過ぎ、飯田橋駅にほど近いE社へ。アルバイト調査員は毎回、該当調査の事前説明会に出席しなければならないらしい。会場には40人以上が集まっていた。いわゆる《ニート》っぽい野郎が多い。

この光景、かつてやった《新薬臨床試験》の説明会を思い出す。世間の吹きだまり感、バリバリである。

「ほんではにゃー、ちくつと聞いてもらえるかねや」

担当の中年男が、聞いたこともない託りで仕事の説明を始めた。当日の集合場所、日時、手順などを必死に話しているようだが、ほとんど理解不能だ。とりあえず、手渡されたプリントを読んでみよう。

今回の調査は、車の台数を力ウンターでカチカチ数える以外にも、仕事がたくさんあるようだ。赤信号で並んだ車の列の長さ、渋滞時の距離、信号の各色の表示時間の測定なんてものまであるぞ。
観測地点は八王子およびその周辺エリア約10カ所。調査員はそれぞれの地域に分けられ、一斉に仕事に取りかかるらしい。意外と大がかりやのう。

「説明は以上だっちゃ。あとは各自、プリントを家にさ持って帰えって、じつくり読んどいてくりゃーれ」

最後にオッサンは参加者をー人ずつ呼び出し、本人の名前と勤務時間を再確認、当日の担当地域を告げていった。私の集合場所は東京の西の果て、《あきる野市》である。「最寄り駅は秋川駅、集合時間は午前6時15分だねや。(私の自宅がある)杉並区だと始発に乗ってもギリギリだし、遅れるんでねーぞら。んでは、明日、よろしくお願い申し上げます」

なんで最後だけ標準語やねん。
適当な数字を書いておけばいいよ
2日後、早朝。私は秋川駅のうら寂れたホームに立っていた。さむーい。花粉用マスクからは白い息がヒューヒュー漏れている。改札付近は、100近い人間でごつた返していた。これみんな調査員7予想を遥かに上回る規模である。

…待てよ。他のエリアでもこのくらい集まってるとすると、今日ー日だけで軽くー千万の金が動いているってことじゃん。大方、調査の依頼主は役所関係なんだろうけど、まったくゴーキなもんだ。力ネの無駄遣いじゃん。

間もなく、社員らしき担当者が現れ、アルバイト調査員を5-7人ずつのグループに分け始めた。これからタクシーで、各調査地点へ移動するらしい。だが、この担当者、ソートー段取りの悪い男だった。事前に車の手配をしておらず、早朝の駅前にはたったー台しか停まっていないのだ。

当然、駅前は大混乱に陥り、私がタクシーに乗り込めたのは、調査開始予定時刻の5分前。絶対間に合わねーよ。

「遅れてすいませーんー」

7時15分。ようやく調査地点に到着した私は、一目散に地点リーダーのもとに走った。「ああ、そんなに恐縮することないよ。てか、俺も初めてだからイマイチよくわかんないんだよね」「へ」

何でもこの男、未経験者にもかかわらず、担当者からムリヤリ地点リーダーを任されたらしい。そんなんで大丈夫なの?

「リーダーって言っても、用紙を集めたり、調査道具の数を確認するくらいのモンだから。ま、適当にやろうぜ」「はあ」
頼りないリーダーによると、仕事は24時間勤務と12時間勤務で内容が違うという。

前者は、交差点を通過する車の台数力ウント、後者は赤信号時の車の列の長さの計測役を受け持つらしい。

「えーと、和田くんは24時間勤務だから、あそこの十字路にスタンバってくれるかな」「はい」

渡されたのは調査シートと、交通調査の必須アイテム5連カウンター砲(文字通り、力ウンターが5つ、バー状に連なっている)。これで目の前の車を「乗用車、バス、小型貨物車、普通貨物車、二輪車」を区別して数えろという。特に難しいコトはなさそうだ。

作業は淡々とスタートした。パイプイスに腰かけ、ひたすら力ウンターのボタンをカシャカシャ押していくだけ。しかも途中、何度か数え損なうことがあっても、車で見回りに来た監視員はあっけらかんと言ってのける。

「ナ二、心配しなくていいよ。用紙に適当な数字入れといてくれりやいいからさ」うーん、なんてやりがいのない仕事なんだ。
ヒマすぎる娯楽をくれー
「おつかれーっす。そろそろ時間だけど」

ー時間後、同じ24時間勤務の磯村くん(24才)がやってきた。車の台数カウント役は、ー時間おきに彼と交代で勤めることになっている。

「おお、ちょうど花粉症のクスリが切れかかってきたところだったんだよね。助かるよ」「え、大丈夫?思いっきり鼻水垂れてるよ」「なははは、平気平気」
磯村くんは、もともと名門早稲田の出で、とある大企業の工リートサラリーマンだった。が、事務仕事になんとなく嫌気がさし、先月サラリーマン生活に終止符。当分は失業保険やバイトで食いつないでいくつもりだという。ワタクシ、そういうダメ人間が大好きであります。

「んじゃ、交代時間がきたら戻ってくるよ」

休息中は、ずっと近くの空き地でマンガを読んで過ごした。喫茶店やファミレスはおろか、コンビ二すら徒歩で20分はかかる辺都な場所なのだ。やれることなどたかが知れている。交代を二度三度繰り返すうち、頭の中は「いかにヒマをつぶすか」でいっぱいとなった。

(トップブリーダーが育てる犬は全部小ぶりだ)

(あの車ってオデッセイそうでっせいー)

とりあえず、携帯メモリーの「あ」行から順にダジャレメール攻撃をしてみたものの、誰も返事を寄こしてくれない。自分の才能の無さに、悲しみがこみ上げてくるばかりだ。

ならばと、付近の女子校でピチピチギャルの生態を観察しようと校門に突入を試みるも、警備員に門前払いの刑に。くっそー、何でもいいからオレに娯楽をくれー
夜7時。必死に退屈と格闘しているうち、12時間勤務のメンバーがいそいそと帰宅の準備を始めていた。いいなあ。気温も下がってきたし、オレも帰りてえよお。入れ替わるようにやってきたのは、調査経験の豊かそうな3人組だった。

パッと見は、かつてのチーマー風。道にツバを吐き散らすわ、タバコをボイ捨てするわと、とにかく下品で目つきも悪い。絶対、関わり合いになりたくない人種である。幸い、私は磯村くんと別のクループから回されてきた無口なオヤジの3人で、反対側の交差点を受け持つことになった。

昼間とは違い、3人編成になったのは、計測を2人同時に行うためらしい(その間、残りのー人は休憩)。早い話が、居眠り防止策である。しかし、そんな心配は無用だった。夜が深まるにつれ、寒さがいっそう厳しくなってきたのだ。道路にかかげられているデジタル温度計は、4。耳や手がかじかみ出し、居眠りどころではない。

てか、マジ凍っちまうって。そんな我々を尻目に、チーマー風の連中は、持ち込みのマイ力ーを歩道に停め、休憩の際、暖房の効いた車内でぬくぬくと休んでいる。羨ましすぎるぞ。「すいませーん」深夜3時の休憩の際、私はたまらず彼らに歩み寄った。「わ、悪いんですけど、車内で休ませてもらえないっすかね?」「・・」

「お願いします。寒さで体調悪くなっちゃって」「ふーん、じゃ中入りなよ」

ありがてえー歯をカチカチ鳴らしつつ、車内へ。奥のシートには、チーマー風のー人が寝そべっていた。恐る恐る話しかけてみれば、彼ら、もうかれこれ10回以上経験している大学生らしい。

「ねえねえ、こんな時期に車とか毛布もナシで参加したの自殺行為じやーん」

「い、いやー、あはははは・・」

「てかさ、麻雀できる?」「え」

「だから、麻雀やらね?もうすぐ仕事終わりじゃん。オレの家、ここから近いんだ」「いやー、でも仕事明けで疲れてるし…」「いーじゃん。やろーぜ」

内心は冗談ョシコちゃんてな感じだが、とても断れる雰囲気ではない。仕方ない、これもなにかの縁だ。付きあいましょう。
インチキ麻雀で6万円を溶かす
「翌朝7時、作業終了後に監視員から日当2万円をもらうや、件の3人一組とともに立Jll近郊のマンションに一移動した。

「おう和田ちゃん、よろしくー。さっそく始めようぜー」

一年下で生意気なヤツらだが、改めてじつくり話せば、気さくなところもあって憎めない。むふふ、ここは年長者らしく、ちょっくら手え抜いて遊んでやるか。いかにも頭悪そうだしな。なんて余裕をかました自分がおバ力だった。どういうわけか、何度やっても、一向に上がれないのである。ビリばかりなのである。

「わりい、和田ちゃん」「まさか」

「うん。口ーン、大三元」

マジ?役満に振り込んじゃったのかよー

「絶不調だね、どうしたの?最初はえらく威勢がよかったのに」

「ハハハ、ホントホント」…オカシイ。もしかしてコイツら、通しのサインとか使ってんじゃねーだろな。さつきから一突然、寝っ転がったり、ヒジでこづき合ったり、ワケのわかんない話でゲラゲーラ笑い合ったり。メチャクチャ怪しい一んだけど。

「な、なんかさあ、オレだけビリが続一くっておかしくない?」

「自分が弱いからだろ。それよりさ、どーせ挽回できないんだから、レートー上げていこーよ」

ここで止めておけばまだ傷は浅かった。しかし、仕事明けの疲労でナチュラルハイになっていた脳ミソには、正常な判断力などこれっぽっちも残ってない。およそ8時間後、私の負けは6万近くに達していた。6万。日当の3倍じゃんよー
成田空港には100人以上の調査員が集結。みな寝不足です
帰り際、持ち合わせがないという私を、わざわざコンビニのATMまで連れていった3人組は、カネを受け取りつつ、ニコヤカに言った。

「和田ちゃーん、ありがとう。また稼がせてくれよなー」

交通量調査中、酔っぱらい運転の車に突っ込まれて死ね。はらわたまき散らして死んでしまえ。
サボリがばれて日当が半分に
2日後、再びE社で事前説明会を受け、成田空港の現場へ。前回の反省から、今回は12時間勤務での参加だったが、与えられた仕事はむしろ増えた。空港内の駐車場を利用する自家用車やバスの台数チェックの他に、車種、利用目的、乗車人数、日本人か外国人かなど、調べる項目がやたら細かく、おまけにアンケート用紙の配布なんてものまである。

正直、かなり面倒くさい。そもそもこの日は、端から体が疲れ切っていた。実は仕事の開始時刻が朝6時だというのに、調査員はみな前日の夜8時から集められ、ずっとE社の送迎バスの中で待機していたのだ(遠方の現場に入る際よくあるらしい)。

座席が狭い上、隣の小太りオヤジのイピキに苛まされちゃ、オチオチ眠ることもできやしない。完壁な寝不足である。仕事が始まると、私は当然のようにサボりまくった。便所に行ってはウツラウツラ。監視員に呼ばれたフリをしては、建物の陰でぐーぐー。休憩時間になっても、5分、10分のオーバーを幾度となく繰り返す。あーツマンねえなあー、帰りてえーなあー。

「おい、オマ工、やる気ないんだったらさっさと帰れー」

本日6度目の便所の帰り、同じチーム(4人編成)のオヤジが烈火のごとく怒りだした。どうやら、サボリがバレバレだったようだ。

「え、いや、あの…すんません」

「みんなマジメにやってんのに、オマエー人、なんでフラフラやってんだよ。さっきもウォークマン聞きながら仕事してただろ。いまから監視員に報告してくっから」

「ええーっーそれはちょっと勘弁してくださいよ」「ふざけんなー」

10分後、私は監視員の待つバスに呼び出された。車内には、私の他に、数人のアルバイターが突っ立っている。聞けば、この連中もサボっていたクチらしい。

「キミたち、なんでチョンボするのかな」「はあ。すいませんでした」「今日の日当、半額しか出せないけどいいよね」

本来ならー円も出ないところだよ、と監視員はむっつり顔だ。ごもっとも。ナニも反論はございません…。
.その後、必死に作業に取り組んだものの、満額の給料を手渡されることはついぞなかった。半分の6干円(この日に限り、12時間勤務の日当はー万2千円だった)。麻雀で大負けした分も入れると、2回の勤務でマイナス3万4千円の計算だ。ぐすん。花粉の季節って本当に悲しいものですね。