会話のタネ!雑学トリビア

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ノマドワーカーなる職業の実態

ノマドワーカーなるわけのわかんない職業が突如世に出現して早数年が経過した。
屋外でノートパソコンを開いて場所を選ばず仕事してる奴らのことを指すらしいけど、たまに山手線乗ってても膝の上でノーパソを器用に開いてパチパチやってる奴らがいて驚かされる。ビルゲイツでもそこまでパソコンすることないだろうに一般人が山手線でノーパソ開いて何をしてるのか気になってしょうがない。さらにそいつらが集うノマドカフェなる店も存在するらしく、わざわざ電車を乗り継いでそのカフェまで行って珈琲飲みながらノーパソで仕事して挙句の果てに隣の知らない奴と名刺交換なんかしちゃったりするっていうんだから我我人見知りのインドア派にとってそのリア充っぷりはとてつもないものと推測できる。ノマドカフェをググるとなぜか吉祥寺や下北沢、中野などサブカル文化が根付く土地に店舗が集中しており、その点からも意識は高そうである。とりあえずその中から下北沢の某有名店をチョイスして早速現地へ赴いた。平日の夜19
時過ぎ、帰宅ラッシュで混雑する某私鉄駅から徒歩7分、該当のビルの1階の壁にはなぜかマリファナのデザインのシールが無数に貼られており、よそ者を寄せ付けない威圧感があった。エレベーターの内部にも同じくマリファナシールがあり、3階で降りると左手に看板のないこれまた意識の高い美容室、右側に重厚な扉のノマドカフェがあった。ドアが重すぎてなかなか開けられずに苦戦しているとドアの小窓からカンカン帽をかぶった若い男がこちらを覗き込んで「いらっしゃい?」と疑問形で出迎えてくれた。
 店内は左がテーブル席で右が座敷になっており、その座敷にあぐらを組んだ若いリーマンがノートパソコンをバチバチと壊れる勢いで激しく叩きながら傍らに置いた外国のボトルビールをグビグビと飲んでいた。チラチラこっちを見てくるので周りを意識しているのは明らかだ。「外国のビールを飲みながらノート叩く俺を見てくれ。なんなら写メ撮ってツイッターで拡散してくれ」という彼の熱い思いが背中から伝わってくる。
店の右奥には世界のビール瓶が30種類以上ズラリと並んでいて隣には旅行本も飾られている。たしか外の看板に「旅カフェ」とも記されており、旅の情報を交換する場としてもこの店は機能しているらしい。座敷に着くとカンカン帽の店員が「注文はこのiPadで出来ますので?」と再び疑問形でiPadを手渡してきた。iPadにメニューがズラリと表示されておりタッチするだけで注文が可能だという。以前代官山の某オシャレカフェでも導入されていたものだ。接客せずにこんなもんで注文を済ませるなんて梅沢富美男山城新伍だったらブチ切れているに違いない。
 メニューを見ていると1ページ目にいきなりマリファナビールなるドイツのビールがお奨めとして紹介されていたので、どんだけマリファナ推しなんだよと思いつつもしょうがないからそれを注文。早速飲んでみるとマリファナビールという割には日のビールより苦みが薄く720mlのボトル一杯飲んでもまったく酔いは回らなくて拍子抜けした。
周囲を見ると壁にはなぜかアフリカの貧しい子供たちや朽ち果てたスラム街の様子の写真などがポエムと共に無数に貼られていて食欲を削いでくれる。向こうのテーブル席の一番奥には若い男女4人組が向かい合ってノートパソコンを叩いているが、座敷席は依然としてリーマンと自分の二人だけ。しょうがないからリーマンに近寄って「よく来られるんですか」と恐る恐る尋ねるとリーマンは一呼吸おいて「まあ…」と曖昧な返事をしてきたので「何回目ぐらいですか」と突っ込んで訊くと「実は初めてで…」と急に顔を紅潮させて答えてきたので腰を抜かしそうになった。入店したとき、背中だけであんなにドヤっていたのになんと彼も初入店のノマド童貞だったのである。さらに「仕事ですか?」とASUSのノートパソコンを指差すと
「まあ…、趣味みたいなもんで…。SFファンタジーラノベ的な…」とよくわかんないことを口走り始めたので詳しく尋ねるとどうやら魔法中年が主人公の小説を書いていて、ネット上の電子書籍で発表しているという。てっきりスーツを着ているので明日のプレゼンの資料でも作ってるのかと思ったら、魔法中年が主人公の趣味の小説を書いていたのである。リーマン本人いわく「魔法少女じゃなくて中年なところがミソ」というがハードボイルド小説が好きな自分にはまったく理解できなくて怖くなったのでそれ以上聞くことは断念した。しかし確かに世の中プレゼンだの資料作りだの毎日のようにパソコン作業しなきゃいけない職業はそんなに多くないだろう。つまりスタバでMac叩いている奴らも魔法が出てくるファンタジー小説を書いているのかもしれない。ついでに旅には興味があるのかとリーマンに聞いてみたが実家のある埼玉より遠くはここ3年出向いていないとのことだった。この人はこっち側の人だと胸を撫で下ろしたが、向こうの若い男女4人組を見るといつの間にかノートパソコンを閉じてお互いのスマホの画面を覗き合いながらポケモンの話に興じていたのでこいつらも偽物と認定。飲み応えのないマリファナビールを一気に飲み干してノマドカフェにノマドワーカーはいなかったという結論に安堵しながら店をあとにしたのであった。