テレビや雑誌などで、『人気ラーメン店の行列』やら『あの有名シェフのパン屋に長蛇の列が』みたいな特集をよく見る。そこで思う。
行列ができるほどの人気店のそばにある、人気のない店の店主はどんな気持ちなのだろうか。今年の初頭にできた超人気ラーメン店のそばに、ほとんど客のいない同業店がある。
平日のお昼、店前に行ってみれば、たしかに店内に客はいない。気難しそうな顔の店主がカウンター内でヒマそうに立っているのみだ。それではお伺いしましょう。
ああ、そこにラーメン屋あるね。まあ人気あるみたいだわ。うーん。どう思うかって? まあ、内心穏やかじゃないわなぁ。いや、ウチに客が来ないことに対してじゃないの。そういうコッテリしすぎた濃い味ばっかり求める客が多いっていうことを、ヤバイなって思ってるね。
ウチみたいにあっさりした伝統的な醤油ラーメンこそ東京人は食うべきなのにね。やれ油のカタマリが入ってるとかさ、ニンニクがどうかとか。そんなの体に良いワケないじゃない。たしかにあの店ができて客は減ったよ?でも別に。そういう事実があるだけ。悔しいとかじゃなくてあきれてるだけ。
こちらのウリは昔ながらのあっさり中華そばらしい。言わんとすることはわかるが、さすがに客の好みがオカシイと言うのは強がりとしか思えない。
こちらのお店、駅からほど近く、大通り沿いという好立地にもかかわらず、お昼時であっても客が1人しかいない。100メートルほど離れたラーメン店には数人の行列ができているのにもかかわらずだ。さぞかし恨みを持ってると思われる。
はいはい、え? あの店についてどう思ってるか?
どうって言われてもねぇ。はっきり言って悔しいかな。アハハ。
ウチのほうがずいぶん前からここでやってるんですよ。
それでけっこうね、まあ今も通ってくれてる常連さんいるけども、前はもっとお客さんも多かったんです。だけどあちらのお店ができてからね、正直言ってずいぶん減っちゃって。アハハ。
まあ人気商売ですから、悔しいけど完敗ですよ。だって私こっそり食べに行きましたもん。美味しかったですよ。そりゃあお客さん入るだろうなって味出してますね。ウチのラーメンも当然自信を持って出してますけど。
まあ若い人はああいうのがいいんでしょう。だけどウチは、まあ、好きな人が通ってくれればいいんでね。幸いまだ来てくれる人はいますから。いわゆるその地元密着店みたいにやっていけたらいいなと思ってるんです。
客足だけでなく実際にライバル店に足を運んだうえで完敗と認めるその姿勢は素晴らしい。だけど「若い人は〜」のあたりから察するに、心の奥底では納得していない様子だ。