会話のタネ!雑学トリビア

会話のネタに雑学や豆知識や無駄な知識を集めました

貧すれば鈍し、そしてまた貧する

小学校時代の卒文アンケから。
『コジキになりそうな人』
 このアンケートはかなり古い。まだホームレスという単語のなかった26年前のものだ。にしても、よくこんなものを担任が許可したものだ。コジキって。今なら確実に全国区のニュースになってるところだ。さて、この不名誉すぎる称号を与えられたたかし君、残念ながらタケダとは現在、まったく接点がない。
「小学校を出てから別々の中学だったからそれっきり会ってないんだよね。第一、当時もツルんでなかったし」
で、そもそも彼は何故コジキになりそうだと?
「実家がすげーボロかったんだよ。それが理由だったんじゃないかな。オレも投票したかもしんない」
ひでぇ〜。確かに小学生にありがちな発想ではあるけど、ほとんどイジメじゃん。いずれにせよ、たかし君の知人がいない以上、じかに会って話すのは難しい。こっそりと日常をかいま見るより方法はないだろう。卒業アルバムの巻末にある住所リストから実家の連絡先を調べ、タケダが電話をかけた。同窓会の案内を送る名目だ。
 しばらく「ええ」
「あ、そうなんですか」というやり取りが続いた後、電話は終わった。
「まだ実家に住んでるよ。いま○○○の工場で働いてるんだって。今日は3時で仕事が終
わるらしいよ」
 目的の工場はあっさりと見つかり、おれとタケダは作業員の通用口が見渡せる物影へ。じっと息をひそめてターゲットの登場を待つ。午後3時すぎ、パラパラと人が出てきた。4、5人ほどやりすごしたタイミングでタケダがささやく。
「来た来た。たぶんあれだよ」
 彼が指さしたのは、坊主頭でガッシリ体型の男だった。遠目からでもわかる猫背な姿勢で、のそのそと駅の方へ向かっていく。どこか薄汚れた格好、特にズボンからはだけたシャツの一部が、まるでだらしない内面を表しているかのようだ。電車を降りたたかし君は駅前の商店街を突っ切り、一軒のパチスロ屋に消えていった。続いて、おれも中へ。2階フロアの隅っこ、『エヴァンゲリオン』にどしっと陣取ったたかし君は、ポンポンと機械的にボタンを叩いている。
 パチスロはわからないので、時おり台が点滅しても、何が起きているのやらさっぱりだが、唯一確かなのは、彼の千円札がおそるべき早さで台に飲み込まれていることだ。軽く3万はスッたのでは?その後、ATMで軍資金を追加したものの、悪い流れは変わらず、結局スッカラカンになってたかし君は店を出た。男38才。弁当屋で総菜を買いこみ、とぼとぼと帰宅するその背中はあまりにも切ない。
 ボロ屋と噂された彼の自宅は、本気でボロだった。築50年はゆうに経ってそうな佇まい。割れたままの窓ガラス。そして玄関前にはごちゃごちゃとガラクタが積み上げられている。こんなところに40近いオッサンが年老いた両親とひっそり暮らしてるなんて(想像。でもたぶん当たってる)。
 日曜の朝、ふたたびボロ屋へ。おそらく工場は休みなので、丸一日、動向をウォッチングするつもりだ。が、寒さで死にそうな思いで張り込みを続けたものの、フタを開けてみれば行動パターンは昨日とまったく同じだった。
 昼過ぎにパチスロ店に出かけ、ATMから引っ張ってきた金も飲み込まれ、菓子パンをかじりながらのそのそと帰路に就く。途中、食い終えたゴミをポイッと路上に投げすてて。たった2日の追跡じゃ知るよしもないけど、この人、毎日こんな風にスロットで散財してるんだろうか。だとすれば、あのアンケート結果もいずれ当たってしまうことになるのでは…。貧すれば鈍し、そしてまた貧する。この真理を見抜いていた小学生に脱帽!