会話のタネ!雑学トリビア

裏モノJAPAN監修・会話のネタに雑学や豆知識や無駄な知識を集めました

川崎の治安の悪い繁華街エリアを歩いてみた

『川崎在住だけど、柄悪いし、治安もヤバいよ。筑豊なんて目じゃないから!』
 川崎市は、横浜に次ぐ神奈川県第2の都市であり、日本屈指の工業地帯でもある。工場が建ちならぶエリアというのは伝統的にやんちゃな人間が多いとされるが、カワサキ情報を見れば、その説もにわかに説得力が増してくる。
・ヤクザ事務所がやたらと多い
・ヤンキーの人口密度と生活保護の受給率がずば抜けて高い
・不法滞在の不良外国人がわんさかいる…等など
もうひとつ、川崎といえば、まだ記憶に新しい川崎中1男子殺害事件のこともある。
あの残忍きわまりない犯罪の背景にも、この地に根づいた特殊なヤンキー文化の影響があったと聞く。興味は募るばかりだ。さっそく現地に乗り込み、ナマの空気を体感しにいくとしよう。ひと口に川崎市といっても、治安の良し悪しには大きな東西差があるらしい。西側の麻生区高津区などは東京のベッドタウンとしてむしろハイソな雰囲気すら漂うが、東へ向かうにしたがいガラは悪くなり、その傾向は最東端の川崎区でピークに達するそうな。
その川崎区の中心地、JR川崎駅にやってきた。駅前の繁華街は夜の時間帯に取っておくとして、ひとまず他のエリアを探索することに。
最初に訪れたのは、駅から市バスで10分ほどの距離にあるコリアンタウンだ。名のごとく、通りには焼き肉屋、韓国系の食料品店があちこちに見てとれる。そんな町中をずんずん歩いていくと、ふいにどこからともなく緊張感のある声が響いた。
「ご苦労様です!」
 何事かと振り向いた先には、全面スモーク張りのワルそうなヴェルファイア(高級
ワゴン車)が停車しており、運転手らしき若い男が車の外で頭を下げている。どうや
ら目の前の焼き肉屋から出て来た客を出迎えているようだが、その人物というのが、いかにもヤクザのお偉いさんといった風貌なのだ。おっと、いきなりですか…。さらにそこからしばらく進んだところでも、似たような光景が。路肩に縦列駐車した2台の黒塗り高級セダンの周りで、スーツやスエット姿の男たちがタバコを吸いつつ談笑しているのだ。そばを歩く通行人もそこは意識してるようで、心なしか、みな表情が硬い。極めつけはコリアンタウンの外へ出てしばらく、何の変哲もないマンション前を通りかかったときだ。玄関から1、2、3…およそ7、8人の暴力団風がぞろぞろと出てくる場面に出くわしたのである。ひそかにヤクザサミットでも開催してるんだろうか。そうじゃないならこの遭遇率、ちょっと異常じゃね? 
 もちろん、だからといって、ああいう方々を必要以上に怖がるのはナンセンスと思う
が、触らぬ神にたたり無しということわざもある。トラブルが起きぬ前に移動しよう。
ふたたびバスに乗って、商店街と住宅街の隣接するエリアにやってきた。特に目的もなくぶらぶら歩き回るうち、ひとつ気づいたことが。なぜか缶チューハイを手にしているオッサンやジーサンをひんぱんに見かけるのだ。ときには自転車のドリンクホルダーにチューハイを差し込み、悠々とペダルを漕ぐ者もいる。道端だけじゃない。町中の小さな公園を通りかかるたび、ベンチでひとりチビチビ飲む者、何人かで車座になって騒ぐ者など、とにかくそういったユルい光景が飛び込んでくる。むやみにパチンコ屋や作業着ショップが目につくこともあいまって、さながら大阪・西成のリトル版を思わせる様相だ。公園ベンチで酒盛りするジーサンたちをぼんやり眺めていた折、遠くでバイク集団がアクセルを吹かしてるような音が聞こえてきた。暴走族なのは間違いないが、平日のまっ昼間に集会だなんて聞いたことがない。よほど気合いが入ってんのか、あるいはよほどヒマなのか。バイク集団はこちらにやって来る前に進路を変えたのか、だんだん爆音は遠のいていく。代わりに、自転車に乗った中学生らしき2人組が猛スピードで公園前を横切っていった。両人とも金髪アタマに制服という出で立ち。どうやら暴走族を見学しようと追いかけている最中のようだ。
「やっべ、間に合わねえべ」
「うわぁ、チョー見てぇ〜」中学生が完全に走り去ると、それを待っていたかのように、酒飲みジーサンたちが大声で騒ぎはじめた。
「なんだい、暴走族なんかに憧れてんのか、あの子供は。先が思いやられるねえ、え〜?へへっ」
「しょうがないよ。まだおまんちょの味も知らないんだから」
「バカだねえ、おまんちょ覚えたって、暴走族になる子は暴走族になるでしょうよ」
ヒザを叩いてヒーヒー笑い合うジーサンたち。そしてその傍らをベビーカーを押した若ママが足早に通りすぎてゆく。下品だねえ。
 午後3時。球場や遊具が豊富にある大きな公園にやってきた。たまたま立ち寄ったタバコ屋で、そこが不良中学生のたまり場になっていると聞き足を運んだわけだが、辺りに学生の影は見当たらない。確認できるのは、子連れの若いママさんや、缶チューハイのジーサン(本当に、呆れるほどこの手の人間を見かける)くらいだ。タイミングが悪かったのだろう。とりあえずションベンをしようと園内のトイレへ向かった。入口に白髪のジーサンがプラスチックの箱を持って立っている。ジーサンがぺこりと頭を下る。
「すいません、ここのトイレ、使用料が50円かかるんです」
「有料なんですか?」
「はい」
おれとほぼ同時にトイレに入ってきた男性も声をあげた。
「え、そうなの? この前までタダで使えたのに」

「すいません、区民の方には役所からお知らせが届いてるハズなんですが」
公園のトイレが有料だなんてあまり聞かない話だが、そういう決まりなら仕方ない。
50円なんて安いもんだし。それから1時間、先ほどと別の公園にいたおれは、ふたたび尿意を覚え、園内のトイレへ。と、入口の目立つ場所でこんな張り紙を発見した。
『不審者に注意! トイレの利用料を要求する不審者がいるとの情報が寄せられました。トイレの御利用にお金はかかりません』
何かゾワゾワするものが胸を駆け巡った。こんな偶然ってあるだろうか。いやいや、そんなハズはない。絶対にありっこない。くそ、あのジジイ、まんまとダマしやがったな!ようやく日が暮れ始めたころ、川崎駅へと戻る道すがら、なんとも薄気味の悪い場所を見つけた。両側を掘っ立て小屋同然の家々に挟まれた真っ暗闇の細い路地。周囲が街灯で明るく照らされているぶん、余計に暗さが目立つ。いわば都会にこつ然と姿を現した、ブラックホールのような趣きだ。何だ、ここ。ドキドキしながら路地に足を踏み入れる。どうやら大半の家は無人の廃屋のようだが、さらに歩を進めていくと前方にポツリと灯りのついた建物が。ほんの少し開いたドアの隙間から、数人の悪そうな男たちの姿が確認できた。くわえタバコで何やら楽しげに談笑している。一瞬、緊張が走ったのは、彼らが万札の束を握っていたからだ。状況が状況だけに、どうしても想像が悪い方向に働く。もしやヤバいブツの取引現場だったりして…。とにかく、このままここにいては非常にマズい気がする。抜き足でもと来た道へ引き返そうとした直後、誰かが前から歩いてきた。ビビりながら見たその風体は、いかにも不良といった感じの中年男だ。うわぁ…。もうこうなったら、知らん顔で通り過ぎるしかない。
「ちょっと」
男とすれ違う際、案の定、呼び止められた。
「はい?」
「何やってんの?」
「いや、あの、道に迷いまして」
「ふうん。あんまりウロチョロしないほうがいいよ」
「はい!」
 無事、路地を抜け出た後、付近を通りかかったニーチャンに尋ねてみる。
「すいません、あの路地の奥って何かあるんですか?」
 彼は「自分もよくわからないんですけど」と前置きしてからこう言った。
「聞いた話だと、ヤクザの賭場みたいなところがあるみたいですよ。よく、それっぽ
い人が出入りしてるのを見かけますし」
午後9時。夕飯を食ったあと、駅前の繁華街に繰りだした。フーゾク、キャバクラ、マンガ喫茶、バーなどが軒を連ねる界隈はワイザツそのものだが、ちょっと物足りない。ウワサに違わず、通りには気合いの入ってそうなヤンキー兄ちゃんが結構いるものの、ただすれ違うだけでは、さすがにインネンを吹っかけてくるようなこともないわけで。ふっふっふ。川崎ヤンキー、意外と普通じゃのう。余裕をぶっこいていたのも束の間だった。
「いまチラッとこっち見たろ、おっさん。ケンカすんべーや」
 人通りの多い表通りで、いきなり特攻服姿の2人組に肩をつかまれたのだ。たしかにチラッと見たのは間違いないが、ホントのホントにチラッとだ。てか、街中で特攻服に出くわしたらフツー誰でも見るだろ、バカ!
心の声を胸にしまい、ひたすら「すいません」を繰りかえすと、ヤンキー君たちは
「ダッセー」と捨て台詞を残し、去っていった。ふぅ。
それからしばらく、繁華街のはずれの裏道で、タバコを吸っていたときのことだ。
 バコーン! 遠くでもの凄い音が響いた。何事かと見れば、遠目からでもわかるくらい、怒り狂った様子の男が歩いてくる。
「くっそー!」絶叫と同時に男が自販機を蹴り上げた。ドカ! どうやらモノに当たり散らしながら歩いているようだ。よほど腹の立つことでもあったのか?カメラにその様子を収めようとまごまごしていた際、男と目が合ってしまった。ヤツがまっすぐこちらに向かってくる。よくよく見れば首にタトゥーを入れた物騒な外見だ。え〜、やめてやめて。
「てめえ何見てんだ、ぶっ殺…」
「すいません!」
あわてて謝ったところ、男はおれの側にあった灰皿を蹴り上げ、そのまま通り過ぎていった。た、助かった…。まもなく、男が歩いていった先で怒声が。
「んだ、てめー!」
「やんのか、死ねや!」
駐車場で、男が誰かとケンカをはじめたようだ。駆けつけた現場の光景を見て、思わず息を飲んだ。男の足下にホストっぽい髪型の男が鼻血を出してうずくまっている。そこ
へさらに男の蹴りが何発も…。血の気が引くとはこのことだ。一歩間違えれば、おれがあのボロ雑巾のようなホスト君になっていたのだから。
夜11時。避難の意味で、適当なスナックに飛び込んだ。川崎のおっかなさはもうゲップが出るほど堪能した。軽く一杯飲んで、今夜はマンガ喫茶にでも泊まろう。ところが会話の流れからつい、ママさんに今回の取材の趣旨を教えたところ、彼女が興味深いことを口にする。
「そういえば半年ほど前から、川崎駅前にすっごく変なおばあさんが出没するんだっ
て」
「どう変なんです?」
「うちの若い子が実際にしゃべったらしい
んだけど、いろいろと変みたいよ。覚せい剤も売ってるんだって」
バーサンが現れるのはほぼ毎晩、深夜の2時過ぎ。いつも赤や紫のド派手な服を着ているので、すぐにわかるという。バーサンがシャブの密売人をやってる点だけでも変わっているのに、服装が派手とはこれいかに。なるべくひと目につかないようにするのが、ああいう商売でもっとも大事なんじゃないの?
ともあれ、たしかに面白そうな話ではある。ちょいと接触してみるか。
 ――というわけで深夜2時半、眠い目をこすりこすり駅前に足を運んだ。さすがに喧噪に満ちていた駅前もこの時間はほとんど人影もなく、目につくのは段ボールの上に横たわるホームレスくらいしかいない。ふと視線を走らせた駅ビル前に、小柄な女性の姿があった。たくさんの造花をつけた麦わら帽子に、花柄のシャツ、肩にはマント。そんなド派手な格好でリズミカルにステップのようなものを踏み、時折、くるりとターンをしている。どうやら、ひとりで踊っているらしい。うーん、すごい目立ちっぷりだ。あれがそうなのか?とりあえずバーサンの方に歩み寄った。客を装い、物欲しそうな視線を送ってみる。彼女は反応した。
「オニイチャン、何かほしいのある? 何でもあるよ」
「冷たいのはある?」
冷たいとはシャブの隠語だ。
「あるよ。どれくらい欲しい?」
「とりあえずモノを見せてくれる? 良さそうだったらたくさん買うよ」
むろん、実際に買ったりはしない。ブツを隠し撮りしたら適当にあしらって帰るつもりだ。しかしバーサンは首を振る。
「ダメダメ。こういうのは信用商売だから。先にお金を渡してくれたら取ってきてあげる」
「うーん、でも、やっぱ先に見せてよ。ちらっとでいいから」
「ダメ。ほら、どれくらい欲しいかはやく言いなさい」

なかなか強情だ。
「オニーサンどこから来たの?」
「東京だよ」
「じゃ始発に乗るんでしょ? 私もそうだから一緒に待とうよ。あと2時間ほどだし」
はあ? ヤクの売人ってこんなに慣れ慣れしいのか? てかホントに売人なのか、この人。とはいえ、今からマンガ喫茶に行くのも中途半端だ。ひま潰しにはちょうどいいかも。ひとまず手近の階段に座ると、バーサンもおれに密着するように腰を下ろした。なんだこの距離感は。甘えてんのか、気色の悪い。
「そういえば、いま株がブームでしょ」
 バーサンが唐突に口を開いた。
「でも絶対に手を出しちゃいけないよ。どうせユダヤが独り占めするようになってる
んだから。安倍も信じちゃダメ、バカ見るよ」
どこかで聞いたような陰謀論が展開された。
「いや、おれ株はやらないから」
「そうそう、それがいいよ。東日本大震災のときも…」
バーサンのくだらない話はえんえんと続いた。もとからおしゃべりなのか、話題が途切れることなくしゃべるしゃべる。ふぁ、だんだん眠くなってきた…。話の途中、何かがおれのカバン(たすき掛けタイプ)に触れた気がして、ふと視線を向けた。チャックを開けっ放しにしていたカバンの口に、バーサンの手がずっぽりと入っている。
「……何やってんの?」
バーサンは悪びれもせず言う。
「ああ、ゴメンね。指がかゆかったからさ、チャックのギザギザで掻いてたの」
バカにするな。財布をパクろうとしたろ。ただの泥棒じゃん。 終電を逃した酔っぱらいに近づき、スキを見て財布をかっぱらう。大方、こんなところか。となると、シャブの話もおおいに怪しい。多分、先にカネだけもらってドロンみたいな、せこいことをやるつもりだったに違いない。きっとそうだ。が、ここはバーサンの言い訳を信じたフ
リをして、泳がせてみるとしよう。手口がわかった以上、むざむざ財布を抜かれる心配はないのだし。
「なんだ、指を掻いてたのか」
「そう、ごめんね。それでオニーチャンは結婚してるの? 私はね、むかし許嫁が…」
 トークを聞きながらわざと視線をヨソに向けてやると、またカバンをゴソゴソ触ら
れる感覚が。すかさず見れば、バーサンの手先がカバンの口にかかっている。たいしたもんだよ。一度バレてるのにまた挑戦してくるとは。
「それ、何してんの?」
「ふふ、ごめんね、また指がかゆくて」
 まったく、たいしたもんだ。