会話のタネ!雑学トリビア

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アメリカ横断ヒッチハイク日記

メキシコからバスに揺られてテキサス州ダラスにやって来た俺は、そこで2、3日滞在した後、ヒッチハイクニューオーリンズを目指すことにした。郊外の田舎道で親指を上げることしばし、1台の白いバンが停まった。運転席の窓から顔を出したのはちょいとコワモテの黒人青年で、助手席にもラッパーみたいな黒人ニーチャンが控えている。
「どこまで行くんだ!?」
 黒人独特のクセのある英語が飛んできた。
ニューオーリンズ方面に向かってるんだけど」「遠いな。途中の町までなら送ってやるぜ」「じゃ、お願いします」
 車が発進してまもなく、助手席の男がタバコのようなものに火を点けた。むむ、この煙のニオイは知ってるぞ。
マリファナだ。吸うか?」
 男が無愛想にマリファナのジョイントを差し出してきた。
「あ、結構です。タバコも吸わないんで」
 丁重に断りを入れたところ、見下すような視線が返ってきた。
「何だ、クソつまらねえヤツだな。
車から蹴り落としちまうぞ」
 運転手の男が大笑いしているあたり、冗談だったのかもしれないが、なんせ相手はスラムの不良のような風体である。俺はマジビビリし、この車に乗ったことを悔やんだ。
 実際、彼らはとてもカタギには思えなかった。一応、肉屋の従業員で、いまも取り引き先に商品を配達している最中だとは言うものの、2人が交わす早口で聞き取りにくい会話に、物騒な単語がしばしば出てくるのだ。
「ガン(拳銃)がどうのこうの」
「コーク(コカイン)がむにゃむにゃ」と。あんたら何者だよ。
途中、何カ所か彼らの配達先に立ち寄ったこともあり、目的の町(連中の会社がある)に到着した時はすでに夜9時を過ぎていた。心なしか、車が右へ左へと曲がるたびに、どんどん路上の人気がなくなっていく。やがて停車したのは、街灯がほとんどない真っ暗な倉庫街だった。おいおい、何だよここは…。
「オマエはここで待ってな。俺たち、ちょっと事務所に寄ってくるから」
「え、いや、あの…」
 一緒に下りようとすると、強い力で押し戻された。「心配するな。すぐ戻ってくるから待ってろ。いいか?」
連中が暗闇の中に消えていった直後、強い不安に襲われた。まさか、仲間を呼んで身ぐるみはがすとかじゃないよな? 逃げるか!?
決断するや否や、荷物を手に引っかけ車外へ。と、前方から運転手が戻ってきた。
「おい、どこに行くんだ? 今からヒッチハイクしやすい場所まで送ってってやるのに」
本当か? 不意打ちするつもりじゃないだろうな。警戒する俺に、彼はポケットから封筒を取り出してみせる。
「いま事務所で今日の給料をもらってきたんだよ。さ、行こうぜ」
 何だよ。ビックリした〜。
10分後、車は町外れにあるかなり見通しのいい道路脇に停車した。なるほど、ここならヒッチハイクに打ってつけかも。
 礼を言って車を降りる際、運転手のニイチャンが妙なことを口にした。
「神を信じるか?」
「えっ?」
「神様だよ。オマエは神の存在を信じているかと聞いてるんだ」
 何のことかさっぱりだけど、ここはハイと答えた方がよさそうだ。
「信じてるよ」
「そうか。じゃあ、これを受け取る資格がある」
 手渡された封筒には20ドル札が1枚入っていた。え、これくれるの?
「いいんですか?」
「うん。いい旅になればいいな」
 …アンタ、めっちゃいい人じゃん。ニューオーリンズに到着した2日後、急遽、俺はニューヨーク行きの長距離バスに乗り込んだ。アベルという男に会いに行くためだ。アベルは、メキシコで知り合ったナンパ好き会計士が紹介してくれた人物で、ニューヨークに立ち寄った際は、家に泊めてもらう約束を取り付けていた。ところがここに来て、アベルからこんな連絡が届いたのだ。
〝今どのへんにいるんだ? 来週、友人とパーティすることになったんだけど、良かったら来ないか? カワイイ女の子も来るぜ〞
 しばらくはジャズの街・ニューオーリンズでのんびりと音楽に浸っていたかったけど、こうなったらジッとしてはいられない。