ツレが窃盗で逮捕され、しばらくしてから東京拘置所(通称「東拘」)に移送された。ヨメも彼女もいない男なので、オレはたびたび面会に行き、雑談をしてやっていた。
ある日、いつものように面会の手続きを終えて順番待ちをしていたときのことだ。上階(面会室がある)から降りてきたエレベータから、尋常じゃないわめき声が聞こえてきた。
「うあああ!うっ、うっ」
茶髪ロングで細身のネーチャンの嗚咽は止むことがなく、待合室のイスに座って泣き続けている。こんな光景を見たのは初めてではない。おそらくダンナや彼氏の面会にやってきて、感極まってしまうのだろう。オレ自身の面会を終えて待合室に戻っても、彼女はうなだれたままだった。ったく、どこの誰だか知らんが彼女を泣かせるんじゃないよ。
「大丈夫?」
「……」
「ツライよね。まあ落ち着きなよ」
「…はい、ありがとうございます」
かわいそうだから声をかけただけだったが、目を腫らしてお礼を言う彼女を見て、なにか直感的なものが働いた。もしかしたらこれ、イイ展開に持っていけるんじゃないか?隣に座って話を聞く。なんでもカレシがクスリ関係で捕まって1カ月以上経っており、前科もあるために実刑になる可能性が非常に高いとか。なるほど。ならば、オレの立場も一緒にしておこう。
「実はさ、オレもそうなんだよね」
「え?」
「彼女が捕まってて。あれほど口を酸っぱくしてクスリなんかやめろって言ったのに…。ごめん、ウザイよね」
同じ境遇のほうが親密になりやすいと考えたからだ。
「オレたちは辛いけど、気持ちをしっかり持って支えていかなきゃね」
「そうですね」
時刻は夕方4時半。まもなく閉まる時間ということで、揃って外に出た。食事でも行こうと誘ったら彼女はすんなりクルマに乗り込んでくる。やっぱり寂しいのだろう。 お互いの地元が近かったこともあり、オレの自宅にクルマを停めて付近の居酒屋に入った。彼女はだいぶ落ちついてきたようで、タバコをふかしながらウーロンハイをいいペースで飲んでいる。
「カレシとは別れるつもりはないんでしょ?」
「うーん。ない、かなぁ」
「だよね。オレもそうなんだけどさ。でも毎日考えてると頭が混乱してきてねぇ」
「そうなんですよね。ウチももうストレスがすごくて。友達に『痩せた?』とか聞かれまくるんですよ。体重は減ってないんでやつれてるんだと思うんですけど」
「そうなんだ。まあ、今日はとことん飲んでストレス発散しようよ。お互いにさ」
こんなベタな言葉でも、彼女はニッコリ笑って酒を飲み続けた。次第にカレの愚痴なんかがはじまり、酔いも手伝って笑顔が増えてきた。さて。そろそろ誘ってみるか。
「ねえ、カレとは2カ月以上離れてる(警察署に留置された期間も含めて)わけでしょ?正直カラダのほうはキツくない?」
「えー?」「ストレスだけじゃなくて性欲的なものも溜まるっしょ」
「なにそれー、ギャハハ!」
机をドンドン叩いて笑う。これはイケるぞ。
もう一軒行こうと外に連れ出し、路上でキスをかます。抵抗はない。そのまま家に連れ込み、シャワーも浴びずに即ハメだ。クリトリスが感じるらしく、少し触るだけで大げさなあえぎ声を出している。
「今日だけはお互いに楽しもうよ。明日からはまたいつもの生活に戻ってさ」
「うん、入れて〜」
正常位、バックで突きまくること10分。お互いにイッたところで宴は終了した。この体験があったので、以降も東拘の待合室で泣いてる女を探すようになった。
見つけるたびに声をかけたのだが、やはり女友達の面会に来てるようなオンナは食事や酒に付き合ってくれない。彼氏やダンナが収監されてるヤツのほうが会話に付き合ってくれるし、気を許してくれるようだ。先日、やはり待合室でシクシク泣いていた30代前半の女性に声をかけた。
「大丈夫ですか?」
「はい、大丈夫です。はい、すみません…」
同居する彼氏が酒に酔って暴力事件を起こして収監されているそうだ。
そこでオレの立場も決まった。彼女がアルコール中毒で飲酒運転をして人を轢き殺した。もう実刑はまぬがれないだろう、と。
「お互いツライですね。でも気を確かに持たないと」「ありがとうございます」
そのまま食事、酒まではいったのだが、その日は実家で用事があるそうでバイバイした。連絡先を交換して、励ましメールを頻繁に送る。
〈毎日彼女のことを考えててツライです。そちらも同じですよね。がんばりましょう〉
〈こうやって相談できる人がいて助かってます。お礼にまた食事でもご馳走させてくだ
さい〉
この調子で2日後に再び会うことになった。居酒屋でしこたま酒を飲み、お互いにフラフラした足取りのまま、オレの部屋のベッドに倒れこんだ。実はこのナンパ、実践してるのはオレだけではない。拘置所ではオンナに声をかけまくってる男が決まって数人いるのだ。ツレはとっくに社会復帰しているのに、オレはいまだに足繁く拘置所に通っている。