会話のタネ!雑学トリビア

裏モノJAPAN監修・会話のネタに雑学や豆知識や無駄な知識を集めました

家出を繰り返し偽造した身分証で水商売で働き生活する女子中学生

 
私は初めてアカネちゃんの携帯に電話をかけた。新宿アルタ裏で、ピンクのTシャツを着たソレっぽい少女に声をかけようか迷っていたところ、目の前にシックな黒ワンピースの女性が立った。
それがアカネちゃんだった。仕事を早めに切り上げて来たのだという。
にしても、この子が13才とは。服装のせいかフルメイクのためか、どう見ても女子大生ぐらいにしか思えない。
半信半疑のままカラオケボックスへ腰を落ち着ける。
「わ、チョコレートパフェ食べていいですか?」
メニューを手にすると、やっと歳相応の素顔が覗いた。
いまは、3回目の家出中で、2カ月目に入りました。最初に家出したのは今年2月の初めでした。原因?考えたことないなぁ。中学に入って視野が広がったせいかもしれません。進学祝いにパソコン買ってもらって、インターネットに夢中になったんですよ。
いろんなサイト見て、いろんなことを知りました。
例えば『家出」って入力すると、家出したい人が集まってる掲示板とか、家出体験記とか、家出した.とHした男の人の話とか出てくるじゃないですか。そんなのを、いつこいつこ驚きながら見てました。
あと、新しい友だちができて、コンサートとかに出かけたのも感動した。
コンサートっていうか、東京に行くことがすっごく楽しくて。
そうすると月に1千円のお小遣いじゃ全然、足りない。で、ネットでお金になるバイトを探して、一番割のいい撮影会のモデルを始めたんです。
 
精神的な幼さと言ってしまうには、あまりに大胆な行動。育ってきた過程、あるいは現在の生活環境に、アカネちゃんの行為を説明してくれる何かがあるのだろうか。
うちはごく普通ですよ。父親は都内に通ってるんで、あまり顔を合わせないけど、母は専業主婦で家にいるし。
お兄ちゃんは、成績がいいんです。いつも学年の5番以内に入ってるから、母はいつもお兄ちゃんのことばっかり心配してますね。私だって3段階評価でオール3取ったりしてるのに、もっと頑張れって。
でも、お兄ちゃんとは仲いいし、両親も嫌いじゃないですよ。
好きでもないけど、育ててもらってありがたいって思ってるし。
学校はそんなに楽しくなかったですね。私、暗かったんですよ・いまより太ってたし。
だから、男子に「ブス」とか「デブ」とかイジメられて。中学になってマシになりましたけど。お父さんは、通勤に1時間半以上かけているため家庭での存在感が薄く、子供のことは母親に任せっぱなし。その母親も、優秀な長男にベッタリらしい。
いくらいい成績を取ってきても評価されないどころか、優秀な兄と比べ叱られる。おまけに学校でのイジメだ。
相当な疎外感を感じていたことは推測できるし、ネットの世界に救いを求めたのもわかる。
しかし、兄弟姉妹がえこひいきされるのは、よくある話。見た目について残酷な言葉を投げかける子供も昔からいたものだ。彼女が特別、虐げられた環境にいたとは思えない。
いや、だからこそ、私はある種の恐怖を覚えるのだ。決定的な要因などないはずなのに、家出をし、撮影会という名の売春で小遣いを稼いでしまう、そのあまりに簡単な発想と行動に。アカネちゃんにしてみれば、インターネットを通じて、世の中がわかった気になっているのだろうか。
いずれにせよ、以後彼女は週末になると新宿に出向き、ラブホテルで撮影に応じるようになった。
 
そして気づけば、半年の間に大金を手にしていた。アクセサリとか時計、服なんかをガバガバ買いましたね。ダイヤやエメラルドの指輪とかネックレスも買ったし、もの凄く金遣いが荒くなったんですよ。
そうすると、学校の友達と地元のゲーセン行っても、つまらない。私、UFOキャッチャーが好きで2千円や3千円、すぐ使っちゃうんですけど、みんなお金ないじゃないですか。ビンボー人と遊んでもツマンネーな、みたいな。
それでも成績は、250人いる学年で一応10番はキープしてて。なのに母親は、勉強しないとか説教するわけですよ。悔しいから私、2学期の期末テストで本当に頑張って、国語と英語と理科は100点満点ですよ。
その結果を母親に見せたんですよ。さすがに褒めてくれると思うじゃないですか。なのにあの人、「社会が下がってるじゃないの」って、それだけですから。
憧れとかじやなく、家出を実行に移そうって決心したのは、そのときかな。
ただ、家出するからにはちゃんとやりたいじゃないですか。補導されるのも嫌だし、困って家に戻るのはもっと嫌ですから。
で、まずいろいろ調べました。ティーン雑誌に《プチ家出体験》なんて記事があったし「完全失除マニュアル」とかって本も読んだけど、やっぱり役に立つのはネットですよね。
例えば、家出経験アリの.が
「パソコンの履歴や、家電のリダイヤルで友達の連絡先を調べられた」って書き込んでたんですよ。私、ソッコーで履歴の消し方をマスターしたし、クラスメート以外に連絡するときは公衆電話使い。
あと、重要なのは身分証だってことがわかりました。深夜に漫喫に入るとき提示しなきゃいけないし、もし補導員が声をかけてきたときも、18才とかいう証明があればクリアできるじゃないですか。
なんで、アングラの売買サイトで偽造保免許証を手に入れようと、モデルバイトでお金貯めたんですよ。
衝動的な家出ではなかった。
決意してからもクリスマスは例年どおり家族でケーキを食べ、大晦日は一家4人で紅白歌合戦を見た。正月には母親と初詣にも出かけだし、3学期が始まると、おとなしく
学校へも通った。その傍らで着着と準備を整えていたのだ。
2月のある月曜日、2時間目の国語の時間に頭痛を訴え早退した。
学校を出た彼女は家には向かわず、2日分の着替えが入った小さな紙袋と現金を手に、東京行きの総武線に乗った。
 
アングラサイトの管理人に囲われて1カ月電車を新宿で降りて、『夢の途中(仮名こってアングラサイトの管理人さんに会ったんですよ。
書き込みを読んで、一番信用できそうなのが彼だったんです。
だから、偽造免許証を作ってほしいって頼んだ後、正直に13才で、家出してきたって
言っちゃったんですよね。
そしたら「囲ってあげようか」
って。身分証が出来るまで安いビジネスホテルに泊まろうと思ってたんだけど、お金も助かるし…。
喫茶店から歩いて10分ぐらいのとこにあるマンションでしたね。なんか、物置に使ってるみたいで、ダンポールが積んである脇に万年床が敷いてある、みたいな。
その人、山岡(仮名)って名前で、30才って言ってました。偽造身分証やトバシ携帯を売買してるのに、普通のおじさんって感じで。
家は別にあったみたいですけど、夜はマンションに帰ってきて、ご飯食べに連れてってくれたり、服を買ってもらいました。もちろんHもしましたよ。1日1回がノルマで、多いときは3回みたいな。山岡さんのことは嫌いじゃなかったっていうか、一緒に暮らすうちに好きになっちゃったんですよね、私。
別に口に出したりしませんし、山岡さんは何とも思ってなかったんじゃないですか。けど、部屋で一緒にテレビ見たりゲームしたり、楽しかったですよぉ。
昼はパソコンで撮影会の相手を見つけてバイトしたりショッピングしたり、夢のような毎日でした。
ずっとこの生活が続けばいいと思ってたんですけど…。
一緒に暮らし始めて1カ月がたった今年3月始め、モデルバイトを終えた彼女がマンションに戻ると、中に大勢の背広姿の男がいた。
私服の刑事たちで、すでに山岡の姿はなかった。
「詐欺を働いたとかどうとか言ってました。もう私、パニックになっちゃって」
彼女の記憶は飛び、気ついたときには警察署で、両親と一緒に座っていた。
父親は怒ってるし、母親はずっと泣いてました。さすがに悪いと思ったけど、何を聞かれても黙ってたんです。
でも、次の日、刑事が家に来て、家出してからのことを事細かに聞くんですよね。親も同席してて、モデルのバイトのこととか、母親の眉間の筋がいちいちピクつと動くんです。イヤでしたね。それよりショックだったのは、部屋に隠してあった服や指輪、バッグなんかが全部なくなってたことです。ヘソクリの10万も消えてた。でも、親は何も言わないし、私も聞きませんでした。
翌日から学校に行きました
先生には、新宿の水商売の女性の家に泊めてもらってたって説明して。友だちは「よくできたね」って引いてましたね。それでも、反省なんかしなかった。考えてたのは、今度どうやって家出しようかって、そのことだけ。偽造免許もパソコンも取り上げられちゃったんで、近所の漫喫でモデルサイトにアクセスして、とにかくお金を作るしかないかなって。けど、なかなかアポれないんです。
怪しまれるから、平目の放課後、「友達と遊んでくる」って、往復ー時問ぐらいの近場でパパっと撮れる人が条件だったし。結局、5万貯めるのに3カ刀かかっちゃいましたよ。
「誰か捕まえて。その子、家出した私の娘なの」
中高生の多くは、仲間と一緒にゲーセンや力ラオケで夜通し遊ぶことを目的に家を出る。証拠に、《家出掲示板》を覗けば一緒に家出してくれる子募集のメッセージでいっぱいだ。
ところが、彼女は仲間はいらないと言う。
「巻き込まれるのはイヤなんですよ。同じ境遇の人と一緒だと、調子に乗って夜遊びして補導されちゃうのかオチだし。時々ホテルで同じぐらいの歳かなってコを見るけど、声なんかかけません」
目的は、あくまで自分で金を稼ぐことだと断言する。
2度の家出をしたんです。行ったのは渋谷だったんだけど、やたらお巡りさんが多いし、漫画喫茶も身分証を見せろってウルサイんですよ。
で、池袋の「M」って漫喫行きました。夜5時問でー千ちょつとで、パソコンも使い放題だしシャワーまである。家出人のためにあるような所なんですよ。そこで撮影会のアポ取って、昼はバイトしたり買い物したり。漫喫にいるにも金かかるんで、店が開いてる間はデパートのべンチで昼寝したりしてました。
 
時間つぶすのが結構、大変なんですよ。
でも、このときも1週間目に捕まっちゃったんです。夜23時ごろ「M」に行ったらフロントに母親がいて、ビックリですよ。
なんか、前の日に、母の知り合いに見られたみたいで。
店はピルの8階だったから、母と一緒にエレベータで下まで降りて、とっさに「駅のコインロッカーに荷物がある」って駆けだしたんです。そしたら母は追いかけながら「誰か捕まえて。その子、家出した私の娘なの」とか叫ぶんですよ。
逃げ回って、結局、母に追いつかれて。あの人、携帯で110番してお巡りさんを呼ぶんです。すぐに5人ぐらい来ましたね。そのままパトカーで警察署に連れて行かれて、私がずっと黙っていると仕方なくお巡りさんが車で家まで送ってくれました。