会話のタネ!雑学トリビア

裏モノJAPAN監修・会話のネタに雑学や豆知識や無駄な知識を集めました

ハゲだと好きな女の子を口説くのも躊躇してしまう事実

失った頭髪を育毛手術でフサフサに戻し、再婚の夢を叶える

都内のKクリニックで手術して以降、私の患部は順調に回復していた。

正月に里帰りした田舎の家族や、新聞社の同僚にも、未だ悟られた様子はない。もっとも肝心の移植毛は全部抜け落ちてしまったが、これは予定どおり。

医者によれば〔ショックロス〕
という症状で、間もなく頭皮に根づいた毛母細胞(毛根)が、新毛をフ
サフサと実らせてくれるそうだ。
仕事に関しても、取材準備は無事に完了。すべてが順調に進むなか、
唯一の気がかりが、秘かに恋心を抱く同僚の洋子ちゃんだった。
新年会の後に2人シきりでラーメンを食べて以来、2週間たっても何も進展がない。どころか、「新しい彼氏ができた」との噂まで耳にする始末だ。イカン、実にイカンぞ。
職場での彼女は、得意の英語を活かしてアメリカやヨーロッパに電話をかけまくっていた。
「田中さん。イラク核開発の証拠を、アメリカが国連に提出するそうです」
う〜ん。んなこたぁ、
どうでもいいからオレとデートしてくれないかなあ…。
「わかった。引き続きパウエルの動きをチエックしておいてくれ」「はい」

何とも言えないもどかしさ。いったいいつになったら…。

心の中でグチリつつ、トイレの鏡で、頭皮が赤くないか、髪が乱れてないか、何度も何度も確かめる私。と、安心したのもつかの間、思わぬところからビンポールが飛んでき
た。

手術を唯一知っている後輩の鹿島が、数日後の飲み会の席でからんできたのだ。
「洋子さ〜ん、田中さんを見て何か気がつきませんか〜」
「え?いや、別に…」
「最近見た目が若くなったと思いませんか〜、えヘヘー」
「何言ってんだよ、鹿島!オレは普段と同じだよね、洋子ちゃん」
「え、ええ」
バカヤロー
思わず鹿島を呼びだし、怒鳴る。
オマエはオレの気持ちがわかってんのかよ◎
「あれれ〜」
「なんだよ!」
「せんぱ〜い、ちっちゃい毛が生えてますよ、いひひ〜」
「ん?」
移植部分からチョビチョビと頼りなげながら、毛が顔す達を覗かせていた。マジか
「よかったですね〜。これでガンガン洋子ちやんを口説けるじゃない」

飲み会の解散直後、洋子ちゃんに力ラオケに誘われた。

浮かれ気分で最寄りのビッグエコーに入ると、中学生のように高鳴る心臓。

もしかしたら、今日、もしかして・・。 手続きを済ませるべく、受付に並ぶ。と、そのとき横から割り込む女 
子大生風の2人組。ったく、マナー わりーぞ。

「おいおい、ちゃんと並びなよ」

「なんだよウゼーな、このハゲオヤ ジ」 「え」

ショックのあまりしばらくぼう然と立ち尽くしてしまった。

「あんなバ力な若いコ気にしないのーハゲの人より、落ち込んでグジグジしているほうがかっこ悪いん だから、元気を出しなよ」

彼女になぐさめられながら、歌をこなしていく。いい感じだ。いい感じだぞ〜。
いや、その前にちょっと聞いておくべきことがある。

ん、ちょっと怖いけど…。
「あ、あのさ、洋子ちゃん、彼氏できたの?」
「ぜんぜん〜。誰か紹介してよ〜」
イケる!絶対間違いない!
が、この後「家で飲み直さないこの一言がどうにも口に出せない。先程の女子大生の『ハゲオヤジ』が心に重くのしかかっているのだ。

「気をつけてね」

気取りで彼女をー人タクシーに乗せ、見送るしかなかった私。ちなみにその日はバレンタイン デーだった。 その後、私は洋子ちゃんにことあることに電話をかけまくった。しかしー。

「何度も何度もストー力ーみたいに 電話しないでください。会社で話せ るじゃないですか」

痛烈な言葉を残し、彼女は4日後、 ー力月間のアメリ力出張に旅立った。 頭部には春先のつくしのような毛 がチョロチョロ生えてきたが、心はまだまだ寒い。