ヤクザにコーヒーをかけてしまったいささか強引な例だが、
我々にとって、ヤクザが悪の代名詞、暴力の象徴であることは、動かしがたい事実だ。早い話が、努めてかかわり合いを避けたい人種であることに間違いない。
しかし世の中、一寸先は注意にもコーヒーをこぼし、隣の人の服にかかってしまいました。
「すいません」
と爽やかに謝罪するあなた。
おや、しかし、相手の風体が尋常じゃ…。アンラッキー!ヤクザです!背筋にズキューンと悪寒が走り、顔面意白。そして、あなたは薄れゆく意識の中で思います。
この後、法外なクリーニング代を。で、拒否すると、湾の底で魚のエサにされるかもしれない、こりやエライこっちゃ!。
図らずも、前記のごとく、こちら側の非でヤクザとトラブつたらどうなってしまうのだろう。頭にはどうしても恐怖のイメージしか浮かんでこないが。
「そりゃ誤解や。オレたちがトラブルに遭ったとき考えるんは、それがナンボになるかつてこと。シロート相手じゃシれてるがな。しよもないモメゴトに割いてる時間があったら、そのエネルギーを企業の追い込みに向けるって」
今回、取材に協力してもらった3人の現役ヤクザの中の1人、A氏はそう説明する。
氏によれば、施行された暴力団対策新法(以後、暴対法)の縛りがキッく、ヤクザと名乗っただけで逮捕されてしまうご時世では、滅多やたらにムチャはできない。つまり、実入りの小さいシロウトヘの追い込みは、リスクを考えると割に合わないということなのだが・・・。
とはいえ、このケースはやはり外せない。一般人に足を踏まれたり、コーヒーをかけられたヤクザがどう反応するかは、実に興味深いところだ。
「そんなことで怒らへんって。普通に謝ってくれば、それ以上何も言わへんよ」
(A氏)
体裁を重んじる彼らにとって、シロウト相手にキレるのは、あまりカッコのいいものではないという。チンピラと一緒にするなとのお叱りも受けた。
ただし、忘れてはならないのが、ヤクザも人の子だということ。ムシのいどころが悪ければ、体裁も暴対法もあったもんじゃない。
怒り狂って近づいてくる場合も十分あり得る。そうなったら仕方ない。とにかくその場からダッシュして逃げ出すのがもっとも現実的だ。これは、当のヤクザが保証している。
「こっちがいくらムカツイてても相手が走り出したら、それで終いやわね。こっちも必死になって追っかけるのはメッチヤ恥ずかしいし、よしんば追っかけてもすぐに飽きてしまうB氏。A氏の兄弟分
万が一、囲まれて逃げられないようなら携帯で110番しよう。恐らく凶悪な形相でまくしたてられるだろうが、警察が到着するまではじっと我慢。その間、とにかく「すいません」を繰り返し、相手と極力ことばを交さないようにする。
何しろ、ヤクザは話術に長けている。下手に会話をして、ポロつと自分の身元がバレるようなことがあればアウトだ。
後日、どんな難癖をつけてユスってくるかわかったものではない。