会話のタネ!雑学トリビア

裏モノJAPAN監修・会話のネタに雑学や豆知識や無駄な知識を集めました

素人の一般人がM1に出てみた

〈ご無沙汰してます。2月のライ
ブのあと、ずーっと連絡できずに
いました。自分のモチベーション
の問題です。とりあえず、打ち合
わせでもさせてくださいませ。近
日、どっかでメシでもどうでしょうか?〉

しかし、翌日になっても返信は来なかった。どころか、既読すら付かない。
結局、3日経ってもLINE画面に動きはなし。間違いなく何かがおかしかった。
どうして既読にならない? 入院や逮捕など、ケイちゃんが不測の事態に見舞われていることもなくはないだろうが、現実的な可能性を考えると…。
ブロックか。だとすれば、連絡先はLINEしか知らないし、もうどうしようもない。胃がぎゅーと痛みだす。
 なぜブロックされたのか? そもそも、いつの時点でブロックされたのか?

ケイちゃんのネタが理解できないとか、そのネタで臨んだステージで笑いが取れなかったとか、彼にとっては耳障りであろうことを書いた。あれが悪かったのか。
 いや、もっと根が深いかもしれない。以前から、好き勝手な記事を作りやがってみたいな不満があり、交流がストップしたこのタイミングで、積もり積もったものが爆発したのかも。
 どうしたらいい? ブロックの気配が濃厚な今、もうどうしようもないのか? 浮気みたいなことをしてる間に、まさかこんなことになるなんて。
 ケイちゃんに対し、申し訳なかったという気持ちと、ムカついてたんなら言って来てほしかったという悔しさが襲ってくる。これまでの練習や打ち合わやライブの思い出なんかも一緒に。
 だが、感傷に浸っていても仕方ない。寂しいが、区切りを付けるしかないだろう。ケイちゃん、今までありがとう、さようなら。
 スト缶トークは解散だ。
やりたい芸風を決めなければ
さて、あまりに急な展開となってしまった。モヤモヤするこの気分、どうしたものか。
 とにかく、再び相方探しをしなければと考えていた3月末、1回会っただけになっていた小池さんからLINEが届いた。〈せんとう様。お仕事の進捗はど
うでしょうか? 先日はお忙しいなか、有難うございました。前回
はあまり時間が無く、少ししかお話しできなかったので、近々またお会いしてお話を聞きたいです。ご予定はどうでしょうか?〉

 でも、どうだろう? 小池さんとの会話の中で聞かれた質問を思い出す。今の仕事を辞めて、お笑いに全力を捧げられますか、だったっけ…。ちょっと重かったんだよなぁ。
 少し考え、ここはいったん保留させてもらおうと、返信メールを作りにかかる。〈すみません。お誘いなんですが、少し日にちを空けていただけないでしょうか。というのも私はまだ、自分のやりたい芸風が定まっておらず、まずはそれを決めねばと考
えてます。じゃないと、意見が合うか合わないか、小池さんも判断しづらいと思いますし〉
 漠然と思い付いた口実だったが、自分の文章にハっとした。〝やりたい芸風を決めなければ〟というこの考え、現在のオレの、糸の切れた凧のような状態の本質を射抜いているのでは。
 ケイちゃんとも、ほとんど勢いだけでコンビを組んだから、のちのち互いの方向性にズレが生じてきたんだろう。小池さんにメールを送ると、すぐにレスが。〈承知しました。いやいや、私が、
せんとう兄さんにとって、魅力が
まるでなく、ただのクズ野郎って
事が認識できました笑笑〉
 たぶんボケなんだろうが、これがあちらの笑いの方向性ってことか。小池さんとはオレ、やっぱり縁がなさそうだ。
 やっぱオレ、自分のやりたい芸風を考えてみないとな。
一時的にピン芸人になるのはどうだろう
 ノートを開き、まずはプロの漫才師たちの芸風を挙げていってみる。『セリフの分配の偏りが激しい』(ハライチ)。『ネタの随所に略語や造語を散りばめる』(見取り図)。『コントに入りっぱなしで、突っ込みも役の中で行う』(和牛)。『2人の意見が相反しながらネタが進んでいく』(ブラマヨ)。『極端な変人を演じる』(マヂカルラブリー)。『プレゼンのように客にしゃべりかけ続ける』(ナイツ)。『ツッコミが突っ込まずに乗っかる』(ポイズンガールバンド)─。
 どれかのマネをしたりするつもりはないが、各コンビがなぜこれらの芸風に至ったか、そこを参考にしたい。
 客ウケを分析した結果というのは一つあるだろう。しかしおそらく、自分たちの個性を活かしたかった、それが大半なんじゃないだろうか。
 ならばオレの個性とは何か?
 裏モノ系の知識が豊富であるのは間違いないが、他にはないだろうか。何か周囲から面白がられていることって?
 そうだ、オレは目つきをよく指摘される。「血走ってる」「バキバキ過ぎ」「シャブ中かよ!」などと。もちろん、オレは薬物なんてやってないし、まったくもって失礼
千万だが、笑いの観点で考えると一つの武器なんじゃないだろうか。
 何となく、自分の芸風の方向性が見えてきた。
 よし、ひとまずオレの軸は、『裏モノ系』と『目バキバキ』としよう。となると、相方探しにあたっては、キッチリこの方向性を伝えなければいけない。もちろんネタの例も見せたい。
 自分の中に、一つのアイデアがすーっと降りてきた。
 一時的にピン芸人になるのはどうだろう。『裏モノ系』と『目バキバキ』の要素を踏まえた一人芸のネタを作り、ピンでライブに出るのだ。
 言うならば名刺だ。自分のことを伝える最適の手段だと思う。それこそ、出演したライブで、同じくピンの共演者に興味を持ってもらい、コンビ結成、そんな流れも期待できるのでは。
 さっそく、一人芸のネタを作ることにしよう。ピン用の芸名はどうしようかな? 一時的に使うだけなんで適当でいいや。ターミネーターのテーマソングと電マを組み合わせて『デデンデンデ電マ』にでもしとくか。
「電マの部分はカタカナにさせて下さい」
 4月6日、ピン芸人としての初ライブ当日を迎えた。出演を申し込んだイベントは、お馴染みの『ゲレロンステージ』だ。
 主催者からの案内メールによると、本日のライブは、出演者が客席で観覧してもいいため、他のステージを見れそうだ。
 でもあれか、オレのことだから、出番が終わるまでは自分のことでいっぱいで、客席に座ってなどいられないだろう。カメラマンとして呼んでいる友達に、他のピン芸人の撮影もお願いしておくとしよう。
 そんなわけで、会場の楽屋に入ったのは、出番の5分前、
19時半だ。受付を済ませた後、壁に向かっい、最後の練習としてセリフ確認を行う。