借金があったので、地元からこっちの方に逃げてきたんです。持ち金があるときはまだホテルやネットカフェに泊れてたんですけど、そのうち野宿する頻度がだんだん増えてきて、いつのまにかホームレスになってました。もう１年くらいこういう生活が続いてますかね。
最初のころは落ちぶれたなーと思って、毎日、落ち込んでましたよ。でも実はほんのちょっとだけ、ワクワクもしてたんです。
私は昔から人付き合いが苦手でね。だからホームレスになったらそういう人間関係のわずらわしさから解放されるって思ってたんです。自由なイメージがあったんで。アナタもそういうイメージありません？ホームレスって気ままに生活してるんだろって。
でも実際は違うんですね。東京に来る前は千葉県の方でホームレスをしてたんですけど、他のホームレスにすごく干渉されるんです。
ここは誰それの縄張りだから挨拶をしろ、このゴミ箱から空き缶は取るな、あそこで
寝るなとか、もう口うるさいったらありゃしない。おまけにそういうルールを守って
ても新入りはイジメられるんですよ。昔いた工事現場の連中よりうっとうしいんです。
東京は千葉よりもマシですけど、やっぱりある程度は干渉されるから住み心地はよくありません。早くホームレス生活から脱出できればいいんですけど。
★山奥で暮らさない限り、人間は社会性というものから逃れられない運命のようです。
人間にはある程度の上昇志向が不可欠だ小さいころ、学校の成績が悪くてよく母親に叱られてたのね。もっと勉強していい点数を取れって。
でも俺、努力するのが嫌いだから、無理なわけよ。だからどうしてたかと言うと、自分より頭の悪いヤツを見つけて、バカにするのよ。俺は成績悪いけど、あいつよりはマシだって。それで自分を慰めるわけ。
それがいつの間にかクセみたいになっちゃって、大きくなってからもずっと続いたの。
高校で赤点とっても、あいつよりはマシ。職場で叱られても、あいつより優秀。とに
かく、何かあっても自分の下ばかり見てホッとするの繰り返しなのよ。
何が言いたいかっていうと、結局、この生き方がホームレスになる引き金になったんじゃないかってことなんだよね。もっと直接的な理由は他にあるけど、
大きな流れはこれで決まったんじゃないかってね。
逆に言うとさ、俺の人生のある時期に、少しでも上昇志向の大切さに気付いてたら、こんなことにはならなかったんじゃないかってことだよね。当たり前の話なんだけどさ。
★当たり前の話でも、それを語る人によって説得力は大きく変わります。この方の場合はまさにその好例でしょう。
