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痩せ薬を使用したホスピタルダイエットしてみたらどうなった命がけの体験談

飲むだけで痩せる。
そんな夢のような薬があるとしたら…あなたは口にするだろうか。

決して安全ではない。体調が悪くなり、最悪、死に至る大きなリスクを伴うが、飲
めば確実に痩せる薬だ。

東南アジアのタイにある病院で処方されるこの薬は、いとも簡単に体重が落ちると
いう触れ込みで、日本でも女性を中心に人気がある。

その名も「ホスピタルダイエット」、痩せ薬を使用したダイエット法だ。
現地のクリニックの名前から、別名「ヤンヒー」「MD」なんて呼ばれ方もしているので、聞き覚えのある人もいるかもしれない。

今回はこれらの痩せ薬を、数年間に渡って服用してきた加藤マイさん(仮名・30才)にその実情を語っていただく。
あくまで個人の感想なので、決して安易に真似はしないよう、ご注意を。

ホスピタルダイエットの存在を知ったのは10 年前。
当時20 才だった私は実家に住みながら、平日は病院で看護師の仕事を、そして週末の夜にはデリヘルで働いていた。
我ながら結構なハードワーカーである。若さを武器に稼げるなら、今のうちにジャンジャン働いておこう。そんな考えだった気がする。

当時の体重は54キロだった。
身長が149センチで小柄ということを考えると、見た目はズングリしたポッチャリ体型だ。正直これが、ものすごくコンプレックスだった…。

痩せたいと思うようになったきっかけは、デリヘルだけじゃない。生まれ育った家庭環境にも要因があったと思う。
特に母親は私の外見に対して厳しい人だった。
体型が気になり始める思春期の10代から、少しでも体重が増えたら母親に「あんた最近太ったんじゃない?」なんて平気で言われる。そりゃ成長期なんだし体重が増えることもあるよ。
 

反省して運動をちょっと頑張って減量しても、一言も褒めてくれない。なのに少しむくんでただけで「もっと痩せないと恥ずかしいわよ。外歩かないでよね」と辛辣な言葉のナイフが飛んできた。
徹底的に痩せないと私は母に人として認められないんだ。
 

だから痩せなくちゃ。今すぐ痩せなくちゃ…。そう考えるようになっていた。そんなころ、ホスラブという匿名の掲示板サイトで、自分のお店の評判を眺めていたら、関連スレッドにこんなタイトルが表示された。
『ヤンヒーホスピタルダイエットPart13』
 ん? なにこれ新しいダイエットかな? ヤンヒーってなんだろ?
 そう思ってガラケーのボタンを押すと、そこにはまさかの投稿が並んでいた。
『3週間で60キロから48キロ。12キロ落ちた。マジでヤンヒー神』
『飲み始めた瞬間に効いた、3日で5キロは楽勝だよ(^^)/』

と、激痩せ報告のオンパレード。
あまりの興奮に気が付くとスレッドを上から下まで全部読んでいた。これスゴそう…。
さっそく自分でも「ホスピタルダイエット」について調べてみた。
なんでも、このダイエット法は、タイの病院から輸入した痩せ薬を1回の食事毎に2錠、1日計3回飲みさえすれば、面倒な運動は一切せずとも痩せるらしい。

にわかには信じられない、夢のような話だ。
病院から処方される薬なだけあって効果はものすごく、日本では認可されない薬も
含まれる、とある。うーん、これはちょっと怖いな。
それでも、さすがは整形などでも有名な美容先進国タイだからこそ、効果は確実に期待できるらしい。
これらの情報は、日本人向けに薬の輸入代行を行っている会社が発表していた。
今であれば、様々なレビューサイトやツイッターで賛否を共に入手できるが、当時は、都合のいい話ばかりが掲載されていたのだ。
日本人が「ホスピタルダイエット」をする場合、タイ現地で処方される以外は、こ
の輸入代行を利用せざるを得ない。ちなみに、掲示板タイトルに入ってる「ヤンヒー」というのはタイの病院の名前である。
日本まで薬を送ってくれる痩身外来として有名なのは、この「ヤンヒークリニック」と「MDクリニック」の2種類。
それぞれ処方される薬の種類は基本的に同じだが、ネット上の評判によれば、前者
のヤンヒーは効果が薄いので初心者にオススメとのこと。
後者のMD は薬効が強いので、ホスピタルダイエットに慣れた人に向いてるらしい。
なるほど、それなら初心者の私はヤンヒークリニックの薬を輸入するのがよさそうだ。
結局、掲示板で目をつけた「A」という代行業者での購入を決心した。理由はなんとなく安全そうだったから、それだけ。
海外から薬を輸入した経験などあるはずもなく、英語もロクにできない自分が購入できるのか不安だったが、いい意味で裏切られた。
なんと「A」に自分の身長と現在体重と希望の体重をメールで送りさえすれば、身
体に合った薬を見繕って、日本に輸送してくれるというのだ。メールのやり取りはもちろん日本語。めっちゃ簡単じゃん!
薬の強さには段階があって、レベル2~20の間で決まるのだが、私の場合は一番効きの弱いレベル2が適正との返信がきた。
電話などの直接の診断が一切ないのは心配だったけど、料金は1カ月分で5千円程
度。市販されてるサプリに比べてもかなり安価なのは助かった。よっしゃ! かなり
安い! と心の中でガッツポーズしたほどだ。
 

実家住まいで親にバレるわけにはいかないので、郵便局留めにして受け取ることに。
 

早く飲んで痩せたいけど、海外から輸入した薬を飲むのは怖い、そんな期待と不安
でいっぱいだった。注文から約2週間、郵便局から到着の電話が掛かってきた。
 

この日のことは鮮明に覚えている。
小走りで近所の郵便局で荷物を受け取って、すぐ近くのコンビニで水を買った。
手のひらには、蛍光色のピンクと青の危なっかしい色の2つの錠剤が。
よし、飲むぞ! これで痩せるぞ!
意を決して口に含み、エイヤっと買ったばかりの水で流し込んだ。
 

…ふう、本当に効くのかなぁ…。
そんな不安をよそに、服用から30分ほどで、にわかに身体が熱くなってきた。
薬の効果が出始めたのだ。
この錠剤は、甲状腺ホルモンの活動を促進させる効果があるので、身体がものすごく熱くなってガンガン発汗作用が起こる。つまり身体の代謝が異常なほどよくなるわけだ。
 

アンラッキーなことに夏場に飲み始めたものだから大変。外を歩くだけで尋常ではない汗が全身から噴き出してしまう。
なので、薬を飲むようになってからは、カバンに大きめのペットボトルを常備して、大量の水を飲んでいた。
それでも全て汗となって流れ出てしまい、常に喉がカラカラ状態。しまいには駅で電
車を待ってる数分の間に、頭からアゴにかけて汗がボタボタボタっと流れ落ち、地面に水たまりのような大きな黒い模様ができるほど。
まあでも正直この症状は、不快だけど我慢はできる。もう一つの効果の方がしんどかった。
 

眠れないのだ。
常に心臓がバクバクバクとうるさくて目が冴えてしまう。ヤンヒーの効果には先の「代謝の促進」ともう一つ「食欲の低下」がある。
その食欲不振を実現させるために、向精神薬の成分が含まれているので、日常生活を送っていても常に吐き気が襲ってきて、夜は眠れず徹夜して仕事に行く、なんてことがザラになってしまった。
覚せい剤から元気になる成分を引いたような感じ、とでも言えばわかりやすいだろうか。
とはいえ、その分、食欲も抑えられて一日の食事は極端に減った。
約1000キロカロリーくらいでもう充分(一般の半分ほど)。というかそれ以上は吐き気がすごくて食べられない。
実際、何度も食事の後に吐いた。
身体から出すこと、身体に栄養を入れないこと、私の体内でこの2つが同時進行で行われていたわけだ。
当然そんな生活を続ければ、みるみるうちに体重は落ちていく。なんと飲み始めて2週間で約7キロの減量に成功。徐々にアゴのラインがくっきりしてきた。
もちろんこの間、運動なんかは一切していない。ただ薬を飲んで生活してただけ。ものスゴイ効果だ。
体重は10キロ減って収入は10万円増えた
それにしても、体重が落ちるのがこれほど嬉しいとは。

しかし、順風満帆な私生活とは裏腹に、身体は限界に近づいていた…。
マジ鶏ガラみたいな体型だったよ︵笑︶

もっと痩せれば、もっと認められる。
1年半もの間、薬を注文するたびにレベルは上げていたので、「2」から始まったのに気が付けば最高レベルの「20」を飲むようになっていた。飲み始めに比べると薬効は桁違いに強く、少し階段を昇り降りするだけで、「ハアハア」と息が上がるようになっていた。
この時の体重は30キロ代後半。薬を飲み始めて20キロ以上も落としたことになる。

それ以上身体を動かそうとすると、フッと気を失いそうになって、思わず座り込んでしまう。
 

たぶん薬による吐き気と脱水症状の影響で、身体がダメになっていたのだ。
当然ながら昼職の病院勤務でもそれは同じ。突然座り込んでしまうことが何度もあったので、同じシフトだった先輩の看護師から本気で心配されたりもした。

「あんた顔色真っ青だけど大丈夫? 貧血? 今日は早退した方がいいんじゃない?」と。そんな状況で、精神的にも追い込まれてしまい、病院での週に1度の夜勤明け、ついに限界が訪れた。いきなりバタンっとブッ倒れてしまったのだ。
点滴を受けながら、医師に下された病名は栄養失調。戦中じゃあるまいし、いまどき珍しい入院理由だと少し怒られた。同時に摂食障害だとも診断を受けた。
もう薬を飲むのは控えよう…。そう心に誓ったのだった。