会話のタネ!雑学トリビア

裏モノJAPAN監修・会話のネタに雑学や豆知識や無駄な知識を集めました

悪徳金融とのバトル自己破産したらどうなった

自己破産手続き代行

自己破産後、管財人に財産や給料などを分配されてしまう。

債務を完全にチャラにするためには、いわゆる同時廃止(財産が無いので管財人を選んでもムダという決定)まで持ち込み、免責を勝ち取らねばならない。


私の本音としては、その全ての
手助けをしたい。が、当事者以外
で司法の現場に立てるのは弁護士
だけ。どうすればいいのか。


考えた末、私は、自己破産に必
要な書類の作成のみを業務にする
ことにした。これならば手続き代行という言い訳が立つので、
弁護士法違反の罪に問われたりは
しまい。実際の現場での動き方は、
電話などで指示すればいいだろう。


さて、こうして準備を整えた私
はいよいよ客集めに取りかかった。
サラ金、銀行、信販会社のキャッシュディスペンサーにこんなチラシを1千枚ほど置いて回ったのである。
「あなたの個人情報を確認する正
確で最短の方法をお教えします。
情報量は500円以内(5分以内)です」


チラシに「自己破産」とストレートに書かなかったのは、私なりの読みがあってのことだ。
一般に自己破産はかなり悪いイメージで捉えられている。家庭が
メチャクチャになる、再就職でき
ない…もちろんそれらはすべて間
違った認識なのだが、「自己破産
だけはしたくない」と頑なに思っ
ている人間は数多い。そこにいき
なり「自己破産」などと書けば、
恐らく大半の人間が引いてしまうに違いない。
よって、まずは個人情報をエサにすることにしたのだ。

金を借りに来ている上に、個人情報を知りたいとなれば、
相当せつぱ詰まった人間のはず。
問い合わせの際、口頭で自己破産
を勧めた方がはるかに効率が良いだろう。


ちなみに金融がらみの個人情報
は開示センターと呼ばれるところ
に行けば誰でも知ることができる。
その電話番号を教えるだけで500円。
問い合わせの電話は翌日からかかってきた。想像以上の反響である。
しかも、ほとんどの者が個人情
報の入手の仕方を聞いた後も電話
を切らず、借金の相談を持ちかけ
てくる。みな誰にも相談できなくて困っていたらしい。


お客の男女比は、7対3で女性の方が多く、その3分の2はパチンコが借金の原因だ。以前、パチンコにハマッて子供を死なせた主婦の事件があったが、彼女らの話を聞いていると、それがごくありふれた事件のような気すらしてきてしまう。

一方、男性は、競輪・競艇によ
る借金が全体の約3分の2を占め
る。みな週末のJRAだけでは飽
きたらず、毎日開催される公営ギ
ャンブルに手を出してしまうようだ。

そんな中、最初の自己破産志願
者は開業3日目にして現れた。梅
田で塗装業を営んでいるという30代の男性である。


「1年前、請負先の工務店が潰れ
て、入るはずの金が入らないよう
になったんですわ。けど、職人に
は給料を渡さなアカンでしよ。そ
れでサラ金から金を借りたんです
けど、もつよう返すことができま
へんのや」


当時、サラ金吃社から借りた金
は合計600万。それが現在では
利子を含めて700万以上になっている。
「失礼ですけど、年収はナンボになります?」
「だいたい400万ぐらいでつしやろか」
負債が年収を上回っているのが自己破産の第一条件。その基準は十分過ぎるほどクリアしている。
これなら自己破産は可能だろう。
となれば、まずはどんな財産が
あるのか確認するのが先決。そこ
でさっそく彼の自宅へ行ってみる
と、幸か不幸か、金目のモノはま
るでなし。自宅は家賃5万円のア
バラ屋、仕事用の軽トラは二束三
文のシロモノ、貯金はゼロ…。ま、
借金に苦しんでいる身としては当然だろう。


それでも一応、電話回線だけは
奥さんの名義に変更。本人名義の
財産を一切なくし、さも無一文の
状態であるかのような体裁を整え
たところで、裁判所に提出する書類の作成に取りかかった。


もちろん、こうした書類のねつ
造は立派な詐欺行為だ。が、申告
した財産に調査が入るのは債権者
側が異議申し立てをした場合のみ。
サラ金側からすれば、数十万程度
の借金で裁判を長引かせると、その費用
の方がかえって高くつくので異議申し立てなどしない。つまり、調
査はまず入らないというわけだ。


果たして彼は、2カ月後めでたく破産宣告。その後、どうなった
かは不明だが、「何かあったら電話をくれ」といっておいたにも関
わらず連絡してこないところから
すると、恐らくや免責までこぎつけたに違いない。

問い合わせも多かったが、サラ
金からの苦情電話はそれをはるか
に上回っていた。それはそうだろ
う。CD機にあんなチラシをバラ
撒かれていれば、文句を言ってこないわけがない。
「番号から住所調べてカタにハメ
てやるからな!」
「これ以上続けるとウチの若いモ
ンをソッチに行かせるで。オマエかて命は惜しいやろ」

こんな脅迫電話が1日数十本は
入る。脅せばビビるとでも思って
いるのだろうか。まったく、進歩のない連中だ。

ただ、面白かったのは、うっかりナンバーディプレイをしてきたヤ
シがいたことだ。すぐにその番号にかけなおしてやったら、同じ声のヤシが出て偉そうにこう言う。

「××金融社長室ですが。どちらさんですか」
「何や、社長さんやったんかいな。今、お電話いただいた者ですけど」
「さっきの会話ね、ちゃんとテープに録音してあるんですわ。アレ、脅迫になるんと違いますか」
「…人違いじゃないですか」
他にこんなやり取りもあった。
「勝手にウチ店の中に入ってミョーなチラシ撒きやがって。営業妨害と不法侵入で訴えるからな」
「いや、違うんですわ。僕、あのチラシ置き忘れてしもたんです」
「。・・」
「よろしかったら送り返してもら
えます?」
「アホか!」
まるでコントのようだが、なにも苦情は、こんなショーもない連中からばかりじゃない。CIC、JCFA、日本銀行協会などもきっちりクレームを入れてきた。
CICは信販会社、JCFAはサラ金、日本銀行協会は銀行を束ねている協会で、いってみれば金融関係のボスの集まり。日本広しといえどもその全てから抗議されたのは私ぐらいじゃないだろうか。

さすがに彼らはボスだけあって、オドシじみた物言いはしてこない。その代わり、ウンザリするぐらい質問責めにされる。
こちらの知識の穴を探そうというのだろう。
「あなたのお仕事は弁護士法違反じゃないですか」
「いや、法廷に立っているわけじゃありませんからね。完全に合法でしょ」
「金融機関の佃人情報は誰でも無料で引き出せるんですよ。私どもの連絡先を教えるだけで500円も取るのはおかしいんじゃないですか」

「だったら、パンフにそういう一文を乗せればいいじゃないですか。そうすれば自然と私の客もいなくなりますよ」

最終的には必ず泣き落としにかかってきた。
「大阪ではね、毎月サラ金の支店
長会議を開いとるんですよ。コッ
チはアンタのおかげで毎回突き上
げくらっとるんですわ。カワイソ
ウや思いませんか」


「へえ、そんな偉いさんの会議の
議題に取り上げていただけるなん
て、えらい光栄ですわ」
「もしも金のためにやっとるんや
ったらやめてくれませんか。金な
らナンボでも出しまっせ」


魅力的な申し出ではあったが、
私は丁重にお断りした。というの
もチラシに書かれた連絡先はαの
みだから、当然、クレームもこの
回線に入る。その苦情だけで1ヵ
月訓万もの売り上げになったのだ。
これ以上金をもらうのはバチ当た
りというもんだ。

2人目の自己破産希望者は風俗嬢である。負債額は800万。数種のキャッチセールスに引っかかったのが原因らしい。
キャッチの勧誘員は大抵ローンで商品を購入するよう勧めてくる。が、彼女は仕事柄、カード類を作れないし、ローンも組むことができない(風俗店では在籍確認の電話は応対してくれない)。そんな自分がイヤで、ムリをして現金で商品を買ってしまったのだという。
要するに一種の見栄なのだ。
そんな彼女の借入先は、当然のごとく風俗嬢専門の闇金業者である。その利子も年利130%と、法定金利を遥かに超えている。正当な手続きさえ踏めば簡単に免責が下りるだろう。

例によってまずは財産の確認に
彼女のマンションへ行ってみると、
あるわあるわ。英会話セット、エ
ステのチケット、某有名海外アー
ティストの絵画、浄水器…まるで
キャッチ商品の博物館のようだ。
こんなに生活が裕福だと自己破産させるのも一苦労だ。


とりあえず部屋にあった商品は
リサイクルショップに売却。足下を見られたのか全部で万にしか
ならなかったが、大切なのはあくまで貧乏な状態を作り出しておくことだ。
彼女が乗っていた800万のセルシオは父親の名義に変更。これは裁判が終わるまで実家で預かってもらえばまずバレる心配はない。

キャッチセールスに引っかかっ
てばかりという借金理由もこのま
まではマズイ。性格破綻者だと思
われ、自己破産が認められないケ
ースがあるのだ。


そこで私はこんなストーリーを
考えた。商品の雌入先の社員は古
くからの知人。友人がノルマに苦
しんでいるのを見かねてついつい
買ってしまった。つまり、気の弱
い優しい女の子という人格をデッ
チ上げるのである。
問題は彼女の稼ぎだった。なんと1ヵ月の給料が150万以上もあるというのだ。
「でも100万は病気の親に仕送
りしてるから、自分で使えるのは万だけやねん。何とかなりませんか」

こういう健気な話に弱い私は、リスク覚悟で書類にある工作を施した。その方法を誌面で後悔するわけにはいかないが、2カ月後、彼女の自己破産はまんまと成立。書類の細工は完壁だったようだ。

「裁判所の人がすごく優しくしてくれるの。絶対に免責にしてあげ
るから、これからも相談においでって」

法の番人も人の子。やはり若い女のコには弱いのかもしれない。

開業して6カ月後、私が世に送り出した自己破産者は5人に達していた。業界全体からすればダメージにもなっていないのかもしれないが、私としてはまずまず満足できる数字である。

この間、依頼者は増える一方だ
った。が、誰彼かまわず仕事を引
き受けるわけにはいかない。
例えば、土地を担保に銀行と国
民公庫から3千万の借金をしてい
た男性の場合などは、書類をねつ
造しても後で必ず裁判所の調査が
入ってしまう。私も自分の身はか
わいいから、詐欺行為が発覚しそ
うな依頼は断るしかなかった。
また、この仕事を始めてわかっ


たのは、借金苦に陥る人間には必
ずどこかに性格的な欠陥があるということだ。例えば話が支離滅裂
だったり、突如として感情的にな
ったり。マトモな受け答えすらで
きない者も珍しくなかった。


そんな中、これまでの依頼者で
一番普通の神経の持ち主と言えば、
徳島に住む鋤代半ばの男性だろう
か。遠方にも関わらず、私のウワ
サを聞きつけて電話をかけてきた
人物である。
「お恥ずかしい話なんですがね、
会社の金を使い込みまして。その
穴埋めのためにサラ金から金を借
りたんです」


彼のネックは、年収が借金を上回っていることだった。年収400万に対して借金は300万程度しかない


だからといって、風俗嬢のとき
のように書類をデッチ上げるわけ
にはいかない。源泉徴収が会社から出ているのだ。どするか。


「これまでに返済が滞ったことはあります?」
「いえ、一度も」
まだ金融機関のブラックリスト
には載っていない。それならテはある。
「とりあえず今の借金を450万まで増やしてください。ただし、
一気に増やすとマズイから、半年
間ぐらいかけてゆっくりとね。そ
の間は返済を滞らせないようにせなアカンですよ」
「わかりました」

半年後、再び彼からの連絡が入
った。私の指示どおり借金を増や
したという。唯一指示と違っていたのは、借金が480万になっていたことだ。
書類の作成は、徳島まで行くの
も面倒だったのでファックスでや
りとり。借金の返済は年明けから
ストップし、地元の地裁で破産宣告をさせた。
1年後、彼から届いたハガキに
は、こんな嬉しい一文が記されていた。
「免責になりました。これもすべ
て吉川さんのおかげです。本当にありがとうございました」

商売の転機は開業から1年半が
過ぎたころに訪れた。
その日、いつものように電話相
談をしていたところ、突然、回線
がプッッと切れた。不思議に思い
NTTに連絡を入れてみると、担当者が出てきてこういう。

「吉川さんねえ、私どもでモニタ
リングさせてもらいましけど、ア
ンタ、自己破産ばっかりすすめと
るやないですか。この回線は弱者
救済のために使うんやなかったんですか」


聞けば、金融機関から苦情電話
が殺到しているらしい。私の仕事
は明らかな営業妨害、そんな人間
に回線を使わせて良いのかというのがサラ金側の言い分。何のこ
とはない、連中が怖くなって慌てて回線を切ったというわけだ。

「借金苦の人は立派な弱者やないですか」
「いや、だからってアンダね、み
んなに自己破産すすめたらアカン
でしよ。そらサラ金の人たちの言
い分の方が正しいですわ。ともかく今後は使えませんからね」


NTTの及び腰には腹が立った
が、しかしまあ、いくらボヤいて
みたところで始まらない。いいだ
ろう。今度は携帯電話でやったろやないか。

さっそく私は連絡先を携帯電話
に書き換えたチラシを作成。どう
せならばと、サラ金の違法ぶりを
アジッた文面も付け加え、同じよ
うにCD機にバラ撒いて回った。
ところが、これがまったくの不
発で、客からの問い合わせが激減。
連絡先が一般電話だと照会屋か何
かだと勘違いされるらしい。相談
料を取らないことがかえってアダ
になってしまったのだ。


一方、サラ金業者からのイャガ
ラセ電話は倍増した。情報量がか
からないのをいいことに、ジャン
ジャン電話をかけてくる。携帯に
出ると必ず「カタにハメたるぞ!」
という怒鳴り声だ。うっとうしくてしかたない。


それでも1年間は頑張って2人の自己破産者を手伝ったが、その
かわり、最初に儲けた金はこの間の生活費で消えてしまった。ダイヤルなくしてこの商売は成り立たないのだ。


こうして足を洗わざるをえなく
なった私だが、結果には満足して
いる。なんせ僧きサラ金業者に一
矢どころか、二矢三矢と報いるこ
とができたのだから。