会話のタネ!雑学トリビア

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競馬予想会社にハマッて奈落の借金地獄に墜ちた男のダメ人生

競馬の予想会社というものをご存知だろうか。

文字どおり、独自のレース予想を競馬ファンに有料
で売っている会社のことである。
その存在を知らずとも、夕刊紙や競馬雑誌などで、こんな広告をご覧になった方も多いはずだ。

「驚異の的中率1万円の投資が1週間で100万円に」
的中率80%。そんなウマィ儲け話があるワケがない。即座にそう結論つけるのが普通だろう。

実際、それらの会社のほとんどが入会金目当てのインチキ業者。
予想どおり買ったところで、馬券などロクに当たりはしない。

が、そんな予想会社に、ダマされ続けた読者がいる。

背負った借金が4千万。あげくの果てには、母親が首を吊り、家を取られ、故郷まで追われるハメになったという。
予想会社にハマッて奈落の底に墜ちた男のダメ人生を本人が詳細にリポート!


私が初めて競馬と出会ったのは中学2年のとき。
といっても、そんなガキのころから馬券を買うほどマセてたワケじゃない。

どことはいえないが、通っていた中学校のすぐ隣に中央
競馬(まだJRAという呼び名はなかった)の馬場が作られたのだ。

授業中、教室の窓から眺めるトラックの青々とした芝生は実に美
しかった。その一方で何となく踏み込んではいけない禁断の世界で
あるような気もした。ま、後に歩んだ人生からすれば、まさにその
とおりだったのだが。


高校を出ると、地元の消防署に
就職した。食いつばぐれのない公
務員を目指したが、取り柄は体が
丈夫なことだけ。必然的に消防しか残らなかったのだ。


ご存知の方は少ないかもしれないが、消防署というのは、飲む打
つ買うが当たり前の世界。私の職場も例外ではなく、夜勤ともなれ
ば、先輩たちが必ず麻雀やポーカーに興じていた。バクチにハマる
にはこれ以上ない環境だった。


就職して2年目、運命のいたずらか、土日開催の競馬場の警備に
回された。当時は、中央競馬もガラの悪い連中が多く、負けてアシ
くなると、ゴミ箱に火をつける輩などもいたので、ソク消火活動に
入れる体勢を取っていたのだ。


勤務中は、ほとんどの職員が、競馬場付近の詰め所でヒマをつぶしていた。
驚いたのは、この詰め所に、競馬中継専用のテレビが設置されていたことだ。

1レースから全て放映されるし、オッズもすぐにわかった。
おまけに、中央競馬会から競馬新聞(全紙揃っていた)まで差し
入れられる。競馬の予想でもしてヒマを潰してくれというワヶだ。
競馬好きからすれば、まさにいたれりつくせりである。


むろん、馬券を買うのは規則違反だ。

が、大勢のバクチ好きが集まって、そんなルールを守るはずがない。

毎週必ず人間が遊びに来ては、みんなの馬券を買いに行くのがお約束になっていた。
「オラー!差せ-」
「チクショウー.1着3着だよ。惜しいなあ」

テレビの前で1日中、先輩たちに奇声発せられるとタマッたもんじゃない。ギャンブルはポーカーだけと決めていた私だったが、しだいに好奇心が沸いてくる。そしてついに先輩に聞いた。


「すいません。馬券ってどうすれば買えるんですか?」

ビギナーズラックという言葉は私には当てはまらなかったようだ。
まる3カ月、悪夢のような連戦連敗が続いた。
しかし競馬を止めようなどという気にはならず、むしろどっぷりノメリ込むようになっていく。

そんなとき、定期購読していた「競馬ブック」で、Rという予想会社の広告を見つけた。
「情報レース3点の超確信予想!」
すごい的中率じゃないか。コレが本当だったら、今までの負け分がとりもどせる。いや、億万長者も夢じゃない。

私は、さっそくRに電話をかけて

「この雑誌に載っていることは本当ですか」
「もちろんです。先週も3点で的中です。お客さまからお礼の電話がジャンジャン入っていますよ」
Rのシステムはだいたいこんな感じだった。
入会すると、まず会員番号が発行される。

会員は、土日開催当日にRに電話をかけ、
会員番号を告げれば、推奨レースと買い目を教えてくれる。

推奨レースは1日2レース。買い目は、1レースにつき3点のみ。
入会に必要な金額は3万8千円
(内訳は入会金が2万円。1カ月分の予想代が1万8千円)。

頭の中でソロバンを弾いてみる。
1日2レース×1カ月レース×3点予想。均等に1千円ずつ買ったとすれば…。

オッズにもよるが、入会金のモトなどすぐに取れそうだ。
やっかいなのは、入会金をどう捻出するかである。

なんせ当時の3万8千円といえば、サラリーマンの1カ月の月収(ちなみに私の給料は3万2千円だった)。

20才そこそこの若造が右に左に用意できる金額ではない。
と、タイミングよく銀行の営業マンが職場にやってきた。JCBのカードを作らないかという。キャッシングの枠は10万円だそうだ。
さっそく必要事項を記入し、信販会社に送ると、1週間ほどでカードが届いた。今、思えば、これがすべての始まりだった。

翌週、JCBのカードで5万円をキャッシングし、入会金をRに振り込む。余分の1万2千円は競馬の軍資金だ。
さっそくその週の土曜日、警備を抜け出てRに電話をかける。

買い目は10レースが3ー5,3ー7,5ー7の3点、

メインレースが1ー2,1ー3,2ー3だ。
「本当に来ますよね」
「ええ、かなり有力なスジからの
情報ですから、信用してもらって
かまいません」


オッズは、どれも1千円以上の
配当を示している。均等にさえ買
っておけば、プラス収支になる計算だ。シメシメ。私は6点に1千円ずつ賭けた。

詰め所に戻り、緊張しながらテ
レビの画面を見守る。横では、先
輩たちが競馬談義に花を咲かせて
いた。あ-、うっとおしいなあ、
来る馬はもう決まっているのに。


「先輩、このレース、3点で間違いないシすよ」
「オマエ、いつからそんなデカイ
ロ叩けるようになったんだ?」
「いや、ともかく見ててくださいってば」


場内にファンファーレが流れる。
スタンドからは大きな歓声。輪乗
りをしていた馬がゲートイン。
スタート台のスターターがフラ
ッグを振ると、いよいよレースが
始まった。各馬いっせいに第1コーナーヘ


レースは団子状態。4コーナーを曲がって直線走路に向いてもまだ体勢が決まらない。
「差せ-!」
「そのまま!そのまま!」
先輩たちは奇声を発しているが、私はいたって冷静。

なんせ「有力なスジからの情報」なのだ。ハズれるワケがない。
「オッシャー!取ったぞ」
先輩が叫ぶ。見れば、実際にゴールインしたのは、予想会社が推奨した馬ではなかった。おかしいな。どういうことだ。


まあ、今日はたまたま運が悪かっただけかもしれない。

いくら何でも、百発百中ってワケにはいかないだろう。
翌日の日曜日、気を取り直して予想会社に電話をかけると、いつもの男が出るかわりに、こんなテープが流れていた。
「先日はご迷惑をかけて大変申し訳ありませんでした。今回は名誉挽回のために以下の買い目を推奨します。レースは…、レースは・・・」
もちろん、言われたとおり馬券を買った。が、今回もあえなくハズレ。的中率80%なのに4レース連続で不適中なんてあり得るだろうか。


どうにも納得できず、月曜日にクレームを入れた。
「言われたとおりに買ったんだけ
ど、ハズれたんですがね」
「当社としては確かな情報だと思ったんですが…」
「どうしてダメだったのかキチンと説明してほしいんですよ」
「大変申し訳ございません」
いくら問いただしても、男は謝るばかり。一向に的を得た説明が返ってこない。
入会金がもったいなかったので一応、翌週も予想を聞いて馬券を買ってみたがやはりハズレ。私はRに見切りをつけることにした。

この時点で私は予想会社すべてがダマシとは思っていない。Rはたまたま実力がなかっただけ。そう考えていた。
3カ月後、競馬が東京開催に移ると、自宅に色々な予想会社のパンフレットが送られたきた。

そのときはわからなったが、個人情報が名簿屋に流れていたのだろう。
その中から次に私が選んだのは、T会社である。入会金2万円と1カ月の予想代1万7千円は、再びクレジットカードで工面した。
Tを選んだ理由は、「1点勝負」が売りだったからだ。予想に自信がなければ、1点勝負などできるものではない。
それに買い目が1点ならば、ムダな金を使わなくて済む。例え配当は低くとも、実入りは3点予想よりずっと大きい。ここならまず間違いなく儲かるだろう。
ところが、実際に入会してみると、コレがまったく当たらない。
「ウチは前半の5レースが断然、勝率が良いんですよ」
Tの担当者はそう言うが、一塁泉開催の場合、私の地元で発売されるのは後半5レースのみ。どんなに的中率が良くても買えないのだ。どうすればいいんだ。
「あの…もしもお金を振り込んだらそちらで馬券を買っていただけますか」
「ハ?.」
「ご迷惑なお願いだということはわかっているんですが…」
「いえいえ、かまいませんよ」
「本当ですか。ありがとうございます!」
有頂天になってTの銀行口座に振り込んだ私がバカだった。Tが購入したという馬券はべて50倍以上。そんな1点買いが来るはずもなく、30万円は2週間で消えた。

今から思えば、ハズれそうなところをワザと選んでいたのだろう。
タチの悪いノミ行為じゃないか。
6カ月後、今度こそはの思いでMという予想会社に入る。入会金と予想代は、新たにカードを作って都合をつけた。JCBは限度額いっぱいだったのである。
Mの仕組みは、まず週の始めに出走予定馬の一覧が送られてくる。
それぞれの馬は、あらかじめランク付けされており、高得点の馬ほど1着にくる確率が高い。
その出走予定表から、未出走になった馬を1頭1頭消していき、残った馬の中で最高得点の馬を軸にし、点数の低い馬へと流す。
実はココ、けつこう当たったのだが、いかんせん買い目が多すぎた。平気で10点15点になってしまうのだ。
加えて、とれるのは400〜500円の配当ばかり。当たってもトータルでは赤字だ。これでは何のための予想だかサッパリわからない。それ以降も、私は予想会社に入っては金を散財し続けた。
VIPがあると知れば入会し、ポケットコンピューターの着順や枠順を入れると当たり婁を教えてくれるという。

が、結果は言うまでもなく惨敗だった。
ま、そうは言っても、たまに当たることもある。今でもよく覚えているのが、400円の配当を3万かって12万になったときだ.


特上の寿司を届けさせ、仕事が終わったら、後輩2人を引き連れてトルコに
「加藤さんすごいツスね、ホント、競馬の神ですよ」
トルコの裏手の路地で連れションをしながら、豊が言う。予想会社のことは綴にしていた.バカにされそうだったし、何より、自分の手柄にしたかったのだ。
このころ、信販会社のカードは6枚に増えていた。負債額は120万。月々の支払いは3万円にものぼる。5万円の給料じゃ払えるはずがない。
当然、親には内緒の借金だったが、支払いが滞りはじめると、家に督促がくるようになった。こんなことがバレたら勘当されてしまうに違いない。どうしたらいいのだ


そんなとき、信販会社にフリーローンという制度があることを知る。

どうやら無担保で100万円まで貸し出してくれるらしい。
さっそくJCBに契約を申し込むと、1週間後にキッチリ100万円が振り込まれた。
これほどスンナリ融資が受けられたのは、私に300坪の持ち家があったからだろう。正確には親の家だが、モロモロの事情で私のになっていたのだ。
とりあえずJCBと東芝クレジットから計200万を借り受け、
カードの借金を精算。つぎ込んだ。
200万円も借金がある身の上、大きく賭けなければ取り戻せない。
私はレースの度にⅢ万単位の金を賭け、結果として1カ月で100万を使い果たした。
と、一旦は精算したカードから
また借りてくる。それがなくなれ
ば、また新しくフリーローンに申
し込んで精算だ。まさに典型的な
借金地獄だが、私にそんな意識は
微塵もなかった。


気がつくと負債は300万になっていた。
ある女性と運命的な出会いを果たした。友達の紹介で知り合った2才年下の洋子だ。
清楚なルックスにマイッてしまい、猛烈なアプローチを試みた。
デートでは無理をして高いメシを箸った。
そんな思いが通じたのか、私と
洋子は2年間の交際を経てめでた
く結婚。1年後には、元気な男の子も生まれた。
幸せいっぱいの生活だった。が、心の中では嵐が吹いていた。家族に内緒で作った借金は軽く400万円を超えていたのである。
借金のことがバレたらソク離婚だ。バレないためには、どうにかして返さなければ。そのアセる気持ちがドンドン私を競馬へノメリ込ませていく。
もちろんこのころは、予想会社はダマシ業者ばかりだと薄々感づき始めていた。6年間に入ったがことごとく赤字。そりゃ誰でも気づくってもんだろう。
なのに私は、予想会社に見切りをつけられなかった。正直な話、自分の予想じゃ怖くて馬券が買えないのだ。きっと根っから他人に頼る性格なのだろう。
予想会社に全幅の信頼はおけない。さりとて、自分の予想がズバズバ的中するとも思えない。どうすりやいいのか。

結局、私は、予想会社の買い目と自分の予想を両方買うようになった。

他にも、窓口で1点に3万円も突っ込んでいるヤシを見たりすると、そんなに自信があるのかと、ついその馬券も購入してしまう。気がつけば10点も買っていたなんてこともザラだ。優柔不断もここまでくるとちょっとした病いだろう。
しかも、たまに結構な配当をとったりすると、後誰を引き連れてトルコで散財。とてもせっぱつまった人間の態度じゃなかった。
そうこうしているうちに、3社のフリーローンを食いつぶす。カードも限度額いっぱいだ。
この時点の毎月の支払い額は給料の倍近い金額である。
支払いが収入を上回っているのだから、返せるワケがない。ニッチもサッチもいかない状況に追い込まれた私が次に駆け込んだのは、Tという地方銀行だった。
まさか銀行が個人相手に金を貸
してくれるとも思えなかったが、
ダメもとで相談してみると、担当
者はアッサリ言った。

「100万までだったら無担保で
ご用立てすることができますが」

幸か不幸か、ここでも私は金を
借りられてしまう。銀行からすれ
ば、相手は300坪の土地を持っ
た公務員。無担保でも取りつばぐれはないと踏んだのだろう。

こうして私は、1週間のうちに
S信用金庫、D銀行、R銀行の4
行を立て続けに回る。100万ぽ
っちじゃ足りやしないのだ。
計400万で、フリーローンとカードの精算を終えたときは、正直な話、ホッとした。これでしばらく督促がくることもないだろう。