関係者に、清原和博に激似の人物がいる。デザイナーのSさん、43才。単純に顔が
似ているだけでなく、身長185センチの太鼓腹ボディで、体型も酷似しているオッサンだ。
このSさんほどモテモテの人材はいないとオレは思う。
〝時の人〞のソックリさんは、ただそれだけで人気者になるものだ。
そこで考えた。
彼と一緒に行動すればオレだってモテるのでは?
金曜日の夕方。
Sさんに清原ファッションに着替えてもらった。そのままでも十分似ているが、より雰囲気を出すため、ストライプのスーツを羽織り、ドーランで日焼け顔を作り、サングラスをかける。
うわ、本物の清原だ!
似てるなんてレベルじゃなくね?
出所したと思われるんじゃね?
いざ出発だ!
夜7時。新宿駅東口へ向かう。ひとまず界隈をぶらっと歩いてみよう。みなさん、清原がやってきましたよ。
すれ違う人、すれ違う人がジロジロ見てくる。声をかけられるまではしないが、女たちはどう思ってくれてるかな?
目の前から若い子3人組が近づいてきた。行きましょう。
「ねーさんたち。これから女3人で恋バナって感じですか?」
「…いや、別に」
「こっちの人、ぼくの先輩なんですけどね。恋多き人なんで相談してみません?」
気の効いた第一声ではないが、それは別にいい。こっちは、〝時の人〞のそっくりさんなんだし。
「…大丈夫です」
おかしいな。何だか警戒されてるんだけど。誰かわかってるよね?
「ま、別に恋バナはどうでもいいんだけど。ぼくの先輩、イカツイでしょ?」
「…清原っぽいですよね」
「そうそう!だからぼくは、それに会わせてヘルメットかぶってるんだけど」
「………」
知らねーのかよ。
一応、「軽く飲みにでも?」と誘ってみたが、普通に逃げられてしまった。
次はアラサーっぽい3人組に行ってみよう。
「すみません、おねーさんたち、
ぼくの特技をちょっと見てもらえません?」
まずはSさんが素振りのポーズをしながら声をかける。さっ
き2人で考えたツカミだ。
「はははっ。清原っぽい」
3人とも笑ってくれている。
反応はいいぞ。清原さんのその顔、何塗って
るですか?」
「これは日焼け。あんま寝てな
いのをゴマかすためで」
「それってマジで清原っぽいじゃないですか」
「いやいや、ヘンなことはやってないよ。眠眠打破は飲みまくってるけど」
「大丈夫ですか、清原さん」
食い付いてきてくれてる。やっぱ人気者だな。
と、1人のコがスマホを取り出した。
「写メ撮っていいですか?」
素晴らしい!
こういうチヤ
ホヤを待ってたんだ。
ところが、オレがSさんの横に並んで立つと、彼女がスマホ
を構える手を止めた。
「清原だけで撮りたいんですけ
どいいですか?」
何だそりゃ?
「…せっかくだからボクも一緒
がいいんじゃないの?
3人組は清原だけの写真を撮
り終えると、オレにはまったく
興味を示さず行ってしまった。
そろそろ立ち飲み屋にでも行
ってみよう。
3丁目の某店で、都合よく女
2人組の隣の席が空いていた。
矢口真里っぽい小柄ネーさんと、
おっとり雰囲気のメガネっ子の
コンビだ。
オレたちが隣に陣取った瞬間
から、チラチラ視線が飛んでき
てる。声かけてみっか。
「ねーさん、小柄だね。うちの
先輩が横にいるから、高低差が
すごいよ」
「チビを強調しないでよ。やだ
やだやだぁ〜。てか何センチな
んですか?」
矢口が間髪入れずに反応して
くれた。
「185」
「デカ、ヤバ、コワッ。という
か清原みたい」
おっと、キーワードが飛び出
したぞ。そりゃあ気になるよね、
こんなに似てるんだから。
ひとまずSさんの睡眠不足ト
ークで清原アピールしつつ、相
手の様子をうかがう。彼女たち
はこれから近所のピザ屋に行
く予定らしい。
まもなく矢口が会計をし始めた。
「じゃあ、私たちそろそろ行くから」
一応誘ってみよう。
「ピザ屋の後、よかったら一緒にもう一軒いかない?」
「1時間半後くらいになるけど、
それでもいいならいいよ」
すんなり応じてくれたぞ。オ
レらモテてんじゃね?
矢口らの待ち時間をつぶしが
てら、清原が『相席居酒屋』前で足を止めた。
「オレ、行ったことないから入
ってみたいんだけど」
断る理由はない。上手くいけ
ばもう一つアポが取れるだろう
し。
受付に向かうと、スタッフが
難しい表情で出て来た。
「あのぉ…、お客様、ヘルメッ
トでの入店はちょっと。女性の
お客様にお顔が見えない格好で
の入場は禁止しておりまして」
「そうなの…?」
「あとそれ、付けヒゲですよね。
それも外してもらいたいんです
が。女性のお客様が困惑される
と思いますので」
こりゃあ参った。しかしこん
なとこで問答しても仕方ないの
で、いったんおとなしく外すこ
とに。
そして受付を通り、廊下を進
んでいく。女がいる個室の前で
再び装着だ。では入ろう。
「こんばんは」
中にいたのは、スレた感じの2人組だ。
「どもども。ねーさんたち、何
組くらい男としゃべったの?」
「…2組くらい」
「じゃあ3つ目で当たりが来た
わけだ。なにせボクらだし」
こちとら持ち時間1時間のケ
ツカッチンだ。ここは積極的に
アピールしていきましょう。
グラスをぐいっと突き出すが、
2人は応じてこない。何だよ、
こっちが名乗ってるのに。
と、彼女たちがオーダーボタ
ンを押したのか、スタッフがや
ってきた。
「何でしょうか?」
「……すみません。ウチら、も
う出たいんで」
彼女らが泣きつくような目を
向けている。対してスタッフは、
オレをギロリと睨んできた。
「お客様、女性のお客様をビッ
クリさせるようなことをされる
のはちょっと…」
ちっ、バレたか!
夜10時。ようやく矢口からメールが来た。
〈遅くなってごめん。ピザ屋出る
よー。キヨ、どこいる?〉
今夜のターゲットは、やはり
この2人か。キヨなんて
呼び方、めっちゃ距離を縮めて
きてんじゃん。
待ち合わせ場所には、さっき
よりもだいぶ頬を赤く染めた2
人が立っていた。矢口が清原に
向かって駆け寄ってくる。
「どこ行くキヨ〜。でも私たち
500円しかないんだけど、大
丈夫かな〜」
いきなり奢ってほしい宣言か。
清原のバブリーっぽさが効いて
いるのだと理解しておこう。
行き付けのカラオケバーへ。
横長のカウンター席に、オレと
清原で2人を挟んで座る。オレ
の隣は矢口だ。カラオケで盛り
上げてからの抜け駆けを狙いま
しょう。
まずは清原がマイクを握る。
おっ、長渕じゃん。
「すっきです、すっきです、心
から〜」おいおい、そこは『とんぼ』
だろうよ。ま、いいけどさ。
次はオレの番だ。野村は何を
歌えばいいのかな。ヤツは高知
出身だから、『南国土佐』でい
いか。
「なんごーく、とーさを、あーとにーしーてー」
カラオケは、清原の長渕ソン
グがメインで、合間にオレが歌
う流れで進んでいった。肝心の
2人も始終ノリノリで、焼酎の
水割りをくいくい飲んでる。
かくして1時間ほど経ち、カ
ラオケがいたん止まったとき、
矢口がオレをじーっと見た。
「ねぇ、暑くないの。
ヘルメットなんてずーっとかぶ
ってて。口元も付けヒゲでしょ?外したら?」
何だこの意味深な提案は?
素顔に興味を持ってくれてるの?
ならば取ってやろう。ヘルメット、カツラ、ヒゲを外す。ほらどうよ?
「…普通」
矢口が鼻で笑いながら言い、
スマホをちらっ見た。
「じゃあ、そろそろ電車もある
し、私たち帰る〜」
何それ?
期待してたのと違ったから帰るみたいなそのノリは…。
「また機会があったらご一緒さ
せてくだいよー」
引き止めたが、2人はさっさ
とコートを着始め、事前の申告
通り500円だけ出し、あっさ
り帰ってしまった。
…何だこの展開は?
この女ら、バカっぽい仮装男を見つけ
たから、適当に話合わせてタダ
酒飲んでやろうって作戦だった
のでは?
駅前で2人を見送った後、清
原がつぶやいた。
「…疲れたな。オレもそろそろ
帰るわ」