会話のタネ!雑学トリビア

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通勤電車で遭遇するワキガ・本人に気づかせるため伝えてみた

この時期、通勤電車でワキガに遭遇する率は春秋冬の比ではない。運悪く、同じ車両でワキガと居合わせたときのこの上ない絶望感といったら……。おれは立ち上がることにした。電車でワキガに遭遇するたび、その場にいるみんなが内心思っていて、けれども絶対に口にできないであろうセリフを代弁してやるのだ。
「あなたのワキガが臭いので別の車両に行ってもらえませんか?」 
断っておくが、このミッションはワキガの人を辱めるのが目的ではない。 
むしろおれは、逆にこのことが彼らのためになるのでは、とさえ思っている。なぜならワキガの人は鼻がマヒしているため、自分がワキガだと気づいていないパターンが多いらしいのだ。
しかし自覚が芽生えれば当然、何らかの対策をするだろうから、以後、本人が陰口をたたかれることもなくなるし、それによって我々がワキガに悩まされる機会も減る。これぞまさにウィンウィンな関係ってやつだと思うのだが。
平日午後5時。帰宅するサラリーマンが増え始める時間帯に、JR某線に乗り込む。さて、ワキガ捜索スタートだ。車両から車両へ移動を繰り返すことしばし、ふいにおなじみの刺激臭がツーンと鼻に漂ってきた。クンクンしながら発生源を探す。
間違いない。犯人は出入口付近に立っているあの黒Tシャツのニーチャンだ。よし…。
キドキしながら近づく。
「あの…」「はい?」
ダメだ。いざとなったらなかなか言葉が出ない。もっと勇気をひねり出さねば。うりゃ!
「あのですね、あなたのワキガがすごく臭いんですよ。出来たら別の車両に行ってほしいんですが」
 よし、言ってやったぞ!しかし、黒Tシャツくんはどこか不思議そうな顔をしている。「え、僕がワキガ…? 初めて言われたんですけど」やはり無自覚パターンか。
「いや、確実にワキガですよ」「いやいや違いますって」
笑顔で否定するあたり、自分がワキガとは夢にも思ってない様子だ。これは何としてでも自覚を促してあげねば。
「24時間、自分のニオイを嗅ぎっぱなしだから気づかないんですよ。あなたの周囲も単に遠慮していままで指摘しなかっただけなんですって」
「絶対にそんなことないと思いますけど…」
 反論しつつも、彼がその場を離れる素振りをみせた。
「あ、車両を移動してくれるんですか?」
「そんなにしつこく言われたらしょうがないじゃないですか」
 口ぶりからしてまだワキガと認めてないようだが、とりあえずニオイの元凶を移動させることには成功した。よし、まず1勝!それからほどなく、再びワキガ臭をキャッチした。ニオイの元をたどった先に、ヘッドホン姿のニーチャンが、入口ドアに背をもたれている。
その佇まいといい、手にわざわざスタバのアイスコーヒーを握っているところといい、性格的に気取った部分があるようだけど、ワキガのせいで台無しになってることをわからせてあげなきゃ。
「すいません」「はい?」
「あの、あなたのワキガがすごく臭いんですよ。気分が悪くなりそうなので別の車両に移ってもらえませんか?」「はい?」
 キョトンとしている。うーむ、この人も無自覚派か。
「あのですね、あなたのワキガの臭いに困ってるんです」「俺が…ですか」
「はい。あなたの周囲、すごく臭ってますけど、自覚は?」
「いえ…」「これ、私だけじゃなく、他の人も迷惑してるんです」「……」
「本当に臭いんですよ。申し訳ないけど車両を移動してください」
 捨てられた子犬のような目をして、ヘッドホン君が言う。
「わかりました。すいません、自分で気づかなかったから」
素直にワキガの事実を受け止めてくれたらしい。彼の態度こそ、おれが望んだとおりの結果だ。今後はニオイ対策をしっかりして、ノーワキガーとしての新たな一歩を進んでください。