会話のタネ!雑学トリビア

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セレブの間で美容に良いとか脳が冴えると話題になった水素水

一部セレブなリア充の間で話題になった水素水。美容に良いとか脳が冴えるとか科学的根拠もないのにいつの間にかブームに火がつき、挙句の果てには某女優の結婚披露宴では10万円もする水素生成器が引き出物として配られたことでさらなる注目を集める形となった。
 聞けば都内でも港区、目黒区方面のリア充セレブが集う地域では水素BARなるものがにわかに流行っているらしく、鼻に管を通して水素を吸いながらお茶を嗜むというわけのわかんないシステムだという。最近では朝の情報番組でも取り上げられて、レポーターが
「これはリラックス効果抜群です!」だの「眠気が吹き飛びました!」などとレポートして、今まで眠かったんかいと全国の視聴者が突っ込みを入れたほどであった。
 そんなわけでセレブなリア充が集うというその水素BARに早速電話で予約を申し込んだ。グループ、もしくは女性一人の客が多いらしく、「だ、男性一人ですか?」と電話の向こうの女がどもりながら怪訝なトーンで訊ねてきたが、どうにか翌日夕方にお試しコースでの予約を完了することができた。
 翌日某私鉄を乗り継いで都内南西部の駅で下車、徒歩15分ほどの高級住宅街の中を進むと「リラックス」「デトックス」などと小さく記された控えめな看板を発見した。知らない人が見たら怪しい新興宗教の広告かと思うに違いない。
 店はBARと言っても外観は周りの住宅と同じような豪邸。しかしよく見るとリフォーム済みのようで1階が事務所、2階が店舗という造りになっており、2階に上がってインターフォンを鳴らす。エプロンをした従業員と思しき40半ばの女(大久保佳代子似)がドアの隙間5センチから顔を覗かせて「お待ちしていました」と100万ドルの笑顔を見せてきた。
 店内にはスケスケのレースのカーテンがいくつもの空間を仕切っていて全体はよく見渡せないが、他に客は妙齢の女2名、熟年夫婦1組が滞在している模様。それぞれレースのカーテンで区切られたスペースで鼻に管を通してハーブティを嗜みながら談笑中という奇怪な光景が繰り広げられていた。
大久保が熟年夫婦のそばにある管の通った重厚なマシンの表示を確認して「あと95分ですね」と言ったので思わず吹き出しそうになってしまったが、本人たちは顔色一つ変えずにOKマークのサインを指で示していた。
 今回はお試しということで2千円で水素を1時間鼻から吸いながらミネラルウォーターを頂くというコース。ふかふかの贅沢な椅子に座らされて鼻に管を通される。大久保がマシンの赤いボタンを押すとタイマーが60と表示されて容器内の水がポコポコと音を立て始めた。
「どうですか? 鼻から水素入ってますか?」と大久保に訊ねられるも、生まれてこの方、田舎の田んぼしかない町で育ったため、鼻から水素を入れた経験がなく「あー、確かに、確かに。きてます、きてます」とMr.マリック調で答えるしか術はなかった。
 ふと向こうを見ると女2人組がこっちを見ながら半笑いで何か話し込んでいる。こいつらはいかにもお嬢様という清楚系な服装で一人は頭にグラサンを乗せているので正真正銘のリア充と言って間違いないだろう。
 もう一人は膝にタブレットを器用に乗せてピアノを奏でるが如く高速で何かを打ち込んでいる。こいつら、どうやら「スタバでmac」の次は「水素BARでタブレット」を思いついたらしい。鼻から管を通してまでタブレットでタイピングしなきゃいけないことなんてこの世にあるわけがない。秋元康とか小室が朝までに10曲作らなきゃいけないって状況でもない限り、水素注入とタブレットを同時にこなす状況などあるはずもないのに、こいつらはそれらを何かの拍子で思いついてしまったのだろう。
何もせずボーっとしてる時間というのは長く感じるものだが、鼻に水素を注入しているだけの時間はそれに輪をかけて長く感じるということを知った。
水素で頭が冴えるというならカバンの中の競馬新聞でも読もうかと思ったが景観を乱しそうなので自重した。そうこうしてるうちに女2人組は水素注入を終えたらしく、その場で会計。大久保から1万円分の回数券(1回分お得)を購入してそれで支払いをしていたので、お前らどんだけ水素注入しないと日々の生活送れないんだよと思わざるを得なかった。
ようやくタイマーが長かった地獄の60分の終わりを告げると大久保がパタパタとこちらにやってきて「この鼻に付けた管はね、洗って持って帰ってくださいね。次この管を持ってきて再利用すれば300円引きさせてもらいますからね」とまるで映画館の3Dメガネのノリで言われたので少し困惑した。
帰ろうかと席を立つと今度はパンフレットを1枚手渡してきたので見ると「自宅でも簡単に水素吸引!」とあり、今使っていたマシン本体の写真が掲載されていた。
「いくらですか」と訊くと大久保は申し訳なさそうになぜか耳打ちで300万円だと教えてくれた。水素のせいなのか、300万のせいか、急にめまいが激しくなり、隣で未だに鼻に管を通している熟年夫婦を横目に帰路を急いだ。