会話のタネ!雑学トリビア

裏モノJAPAN監修・会話のネタに雑学や豆知識や無駄な知識を集めました

異常なまでの縦社会テレビ業界でADの仕事

皆さんにお尋ねしたい。テレビの制作ADと聞いて、どんなイメージを思い浮かべるだろうか。過酷、安月給、奴隸のような生活、とまあ、ざっとこんなところか。
おおむね当たっている。さらに付け足せば、痛い、汚い、帰れないだろう。
僕は約3 年間勤めたADを辞めた。理由は言わずもがな。こんなデタラメな仕事続けてちゃ、マジで気が狂っちまうとシッポを卷いて逃げ出したのだ。
1年たった今、改めて思う。選択は絶対に間違っていなかったと。
給料は手取り16万円。仕事は地味で忙しい。

僕のADキャリアは、3 流大学を卒業後、都内のTV制作会社『Z 』へ就職したことから始まる。
バラエティやお笑い番組の放送作家になるのが夢だった。しかし、何をどうすれば道が開けるのかさっぱりわからない。そこで、まずは制作会社の社員になり、業界でコネを作ろうと考えたのだ。
念のため説明しておくと、制作会社とは文字どおり、各TV局からの依頼を受け番組を作る下請け会社のことだ。
よくあるのが、全体の管理を行なう局のプロデューサーがいて、そのプロデューサーが指定した制作会社からプロデューサー、ディレクター、ADがチームを作って番組制作を行うパターン。その際、制作会社が複数にまたがったり、テレビ局のディレク
ターやADがチームに入ることもある。
ただし、制作会社の社員は、局のスタッフと比べ給料は格段に安く、立場も弱い。同じADから始めても、よほど才能がない限り、出世も遅れがちというのが現実だ。
さて『Z 』である。この制作会社は社員数50人。
10人、20人規模がザラなこの業界では、大手の部類に入るといっていいだろう。僕はそこで大御所タレントのバラエティ番組にADとして配属された。給料は手取りで16万である。
仕事はクソ忙しかった。ロケの同行、ネタのリサーチ、セッ卜の押さえ、美術品の発注。月2回の収録日も、チーフADやディレクターの指示で様々な雑用をこなす。忙しい上に地味だった。
せっかくTV局で働けるようになったのに、つまんね一な。もっと出演者と接触できるような仕事はねぇのかよ。ところが、そんな生意気な考えは、ひと月も経たずにスッパリ消え失せた。テレビ業界が異常なまでの縦社会であると同時に、僕がその中でもっとも身分の低い存在だということを、思い知らされたからだ。
駆け出しの俳優数名を引き連れ、鎌會へロケに行ったときのことだ。
「おい、そこのマヌケ!お前だよ、お前!」
番組で流す再現VTRを撮影中、怒号が耳に飛び込んできた。声の主は、フリーのロケディレクターだ。キッと僕を睨みつけ、手招きしている。
「さっきから何でお前だけ動いてないんだよ」
「え、その、特に指示がなかったものですか…痛っ」
言い終わらぬぅちに、丸めた台本が横っ面に思い切りメリ込んだ。
「指示がねぇ一からって、ボサっと突っ立ってていいのか、ええ!?お客さんかよテメーは」
ADは仕事がなくとも絶えず動くべし。そんな常識中の常識も、入りたての新人が知っているハズもない。まもなく撮影は何事もなかったかのよぅに再開したが、僕はガチガチに怯えっぱなしだった。
コンビニ弁当になぜそんなに怒る?
入社半年後、『Z 』の人事部から担当番組の変更を言い渡された。何でも、今度は街ネタ、映画ネタ、グルメネタを盛り込んだ新バラエティとかで、司会はジャニーズの某アイドルグループらしい。
僕は素直に喜んだ。ここ数力月間、例のロケディレクターと仕事をするたび、ネチネチと嫌味や小言を言われ、ノイローゼ寸前になっていた。ヨシ、これでヤツとオサラバじや!だが、ホッと胸を撫で下ろしたのも束の間、激しい受難が待っていた。このジャニーズ番組、6人のディレクター(局員と別制作会社社員) がローテーションで受け持っているのだが、揃いも揃ってバイオレンスな連中なのである。
出された指示を聞き返したといっては鉄拳が降り、返事が小さいといっては蹴りが飛ぶ。とにかく些細なミスを起こすたび、僕はコブやアザを作った。
仕事の量も劇的に増加した。
本来、ADという仕事は、多忙を極めるポストで、ひと月の半分は局に寝泊まり、というケースも珍しくない。
しかし、僕の場合はさらにその上を行った。やれ資料作成だ、やれリサーチだとバンバン雑務が舞い込み、月に一度でも帰宅できればいい方。大半は、会議室のパイプイスの上で眠ることになった( 月1 ペースの帰宅は、後に仕事を辞めるまでずっと続いた) 
極めつけは、ある冬の肌寒い日、スタッフの昼飯の買い出しを命じられたときのことだ。「ソッコーで戻ってこい」というSディレクターのことばを真に受け、いつもの仕出し屋ではなく、近くのコンビニへ走ったのが運の尽き。持ち帰った弁当を見るや、ディレクターが中身をブチまけた。
「テメエ、オレにコンビニのメシ食えってのか!ナメてんじゃねぇょクソガキ!」
壁に突き飛ばされたかと思えば、すかさずバンチの雨が降り注いだ。鼻血が出ても、床にぶっ倒れても、攻撃が止まる気配がなく、パニック状態。す、すんません。もうこの辺で勘弁してください!
あまりに豪快なやられっぷりに、照明や美術のオッサンたちも感心しきりだ。
「よお松田、いまどきそこまでシゴかられるヤツも珍しいぞ。まるで昭和のADだな」
ようやく解放されたとき、顔中がジーンと熱を帯びていた。
鏡をのぞき込めば、全体が野球のホームベースのように腫れ上がっている。あのボケ加減ってもの知らないのかよ。にしても、コンビニ弁当を買ったくらいで、なぜさほどに怒りのパワーを燃やせるのだろぅか。今もってまったく理由がわからない。
ケガしてんじゃね!
責任取れ!
このカスが!ADは、こちらに落ち度が無くともドヤされ殴られる。
一つはディレクターのデモンストレーションだ。何の前触れもなくADをはり倒すことで、現場の緩んだ空気をピシャリ引き締める。オレは怖いんだ、怒らせるんじゃね一ぞと、スタッフたちにプレッシャーをかけるヮヶだ。
もう一つは単なる八つ当たりだ。大物タレントがワガママを言ったり、遅刻したりする度、スリッパや小道具がフルスイングで飛んでくる。理不尽もここまでくれば、アッパレという他ない。
身の危険を感じるといえば、リハーサル時の恐怖についても話しておくべきだろう。
普通、番組中でタレントがゲームなどをやる際、スタッフは必ず事前チェックを行う。
バンジージャンプならロープの長さは適正か、爆竹を鳴らすなら火薬の量は多すぎないか。ADが使い、実験するのだ。で、一度こんなことがあった。
予定のゲームは『全速力でバナナの皮を踏んだら、本当に人はこけるのか』という実に下らない内容。チヤレンジャーの若手芸人に先駆け、僕が試すことになった。アホくさ。こんなモンで滑るワケね一だろ。
果たして、僕は漫画のように宙へ浮き、そのまま地面に激突。左手小指を骨折した。
「おい、松田!」
真っ先にディレクターが駆け寄ってくる。
「大丈夫か。ケガしたのか?」
「イテテテ…。はい、小指折ったかもしれません」
それを聞いた直後の、ヤツのセリフがふるっていた。
「バカ野郎、ケガしてんじゃねえよ!別の企画考えなくちやならなくなったじゃね一か。責任取れ、このカスが!」
演出上のヤラセから事実のねつ造まで
新聞やニユースで«TV番組のヤラセ» 報道を目にした経験はみなさんもあると思う。つい先日もフジTV系『めざましテレビ』がやり玉に挙がったが、業界を見渡せば、ヤラセなんぞ腐るほど転がっている。大半は、運良く発覚していないだけの話なのだ。
僕自身も身に覚えがある。軽いモノでは、件のジャニーズ番組の中で、星座占いやグルメランキングの順位に幾度となく手を加えていた。
演出上のヤラセである。
1位や最下位の星座が連日同じだった場合などに、占い師に相談の上、適当に入れ替えを行っていた。
後者は、建前上、街頭100人アンケートで順位が決まるのだが、単に面倒臭いという理由から、ディレクターに内緒で、それっぽいランキングを勝手にねつ造していた。ちょうど『Z 』に入社して1 年、セカンドADに昇格したころのことだ。
悪質なヤラセは、前出の司会のバラエティで起きた。
アメリカの著名な物理学者が、とある小惑星が地球に衝突する可能性について答えたシーン。オンエアでは、次のようなテロップが流れた。
『このままでは、その小惑星が地球に衝突してしまいます』
まったくの大嘘である。学者先生が英語でハッキリ『衝突なんてしません。確率で言えば0•001%でしよう』と答えているのに、正反対のテロップを付け、本人の了承もなく放映したのだ。正しいコメントはテレビ的にツマらないというディレクターの判断だった。なおこの一件、ディレクターがちやっかり改竄前のビデオテープをアメリカに送ったため、当の物理学者はダマされたことに気づいていない。僕が知る限り、視聴者からも、テロップと英語の食い違いを指摘する声はなく、その回の放送は視聴率がいつも以上に良かった。
バレたら大問題!女優の卵とホテルに

TV業界に入ってからといぅもの、やたら同じ質問を受けることが多くなった。
「芸能人と付き合ったり、セックスできたりすんの」
答えはノー。日ごろから同じ建物に出入りしているのだから、気軽に話せそぅなものだが、局内にはなぜか« 芸能人は雲の上の人» という空気が満ち満ちている。ディレクター未満のスタッフだと、たとえ仕事上の連絡でも声をかけづらいのが現実だ。
とはいえ、イケメンADとの仲が噂されるように、まったく可能性がないワケでもない。目標をグッと下げ、無名タレントや女優の卵たちを狙うなら、まだ何とか望みはある。
再現VTRの撮影で、伊豆に行った日のことだ。撮影が終わり、撤収の準備を進めていたところ、演者の女のコが近づいてきた。
「あのぅ、すいません」
「はい、なんでしよう?」
「この辺でケータイ落としたみたいですよ。ちよつと私の言う番号にかけてみてもらえませんか」
彼女は、某劇団に所属する役者の卵で、マネージャーはいない。今回の仕事には単独で参加していた。ちと太目だが天海祐希似の美人さん。正直、モロタイプである。
「はい、いいっすよ。」
無事ケータイが見つかったその晩、僕はリダイヤルで彼女に連絡を入れた。目的は、食事のお誘いである。
個人的な目的で出演者に電話をかけるのは初めてだった。もし外にバレれば、大問題になりかねない。その日だけは、なぜか魔が差してしまったんだろぅ。
結局、まんまとデートの約束を取り付けた僕は、後日、あっけなく彼女を抱いた。
断っておくが、役者の卵がADと寝たところで、仕事上のメリットは一つもない。彼女とセックスできたのは、僕に好意を抱いていたから。そう思いたい。
せっかくなのでもう一つ、女絡みの話をしておこう。
Xというほぼ無名の若手芸人コンビがいる。先ほど芸能人とは親しくなれないといったばかりだが、互いの歳が近く、偶然自宅も近かったせいだろぅ。現場で何度か顔を合わすうち、彼らとだけはごくたまに酒を飲む仲となった。
で、それが女の話とどう結び着くのか。実はXの連中、後輩芸人たちを集め、毎夜合コンを開き、かなりの割合でオイシイ目にありついている。ネタはさっぱりのくせに、合コンとなるとパワー炸裂、そのままヤリコン状態にもっていくことがしばしばなのだ。
そういう飲み会に呼んでもらえばどうなるか。プライベートではさほどモテぬ僕が、4
Pだ5Pだと乱痴気騒ぎを経験できたのも、ひとえに彼らのおかげなのである。
確かに楽しいこともあったが、ADという仕事を続けるには、人並み以上の根性を持ち、プライドをかなぐり捨てる勇気が不可欠。常人にはとてもじゃないが務まる代物ではない。
僕は今、故郷に戻り、家業の酒屋を手伝っている。芸能人どころか、若いオネーチャンと話す機会さえない地味な仕事だが、ま、パンチや蹴りが飛んで来る生活よりマシか。