会話のタネ!雑学トリビア

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国体コーディネーター・アマチュアスポーツ界の光と闇

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国民体育大会、通称「国体」。各都道府県もちまわりで年4回開催される国内最大のアマチュアスポーツ大会である。一般にはあまり馴染みがなくとも、その存在を知らぬ者はいないはずだ。では、その国家的イベントにひとつの不条理が存在していることはご存知だろうか。

「国体の総合優勝は開催地が圧倒的に多い」

地元勢の勝利で幕を閉じた大会ばかりである。歴史を振り返ってもそれは同様だ。実は、これには地元の意地と名誉のため、大会期間中だけ住民票を移させるというスポーツマンシップとはほど遠いカラクリがある。

今回の裏仕事師は、その選手たちをコーディネートする通称《世話人》と呼ばれる男たちの1人に登場願う。彼は言った。

「私が選手をコーディネートするのは開催地の威信の為なんかじゃありません。国体によって動くカネ。それが目的なんです」

国体の裏舞台を知り尽くした彼に、アマチュアスポーツの光と影を聞く。
見ず知らずの土地で国体代表に選ばれた男
11月某日。私は関東某所にある大学のキャンパスにいた。授業を終えた学生たちの流れに逆らい、待ち合わせに指定されたサッ力ー場へ向うと、そこにはめっきり冬らしくなった灰色の空の下で50人ほどの学生たちが、練習に励む声をグラウントに響かせてた
「こんなところまでお呼びたてして申し訳ありませんね」

中肉中背、健康的に日焼けした顔に刈り込んだ短髪。いかにもスポーツマンという風貌の男、その下にある引き締まった肉体が容易に想像できる。

「ここでさっきまで打ち合わせがあったもんで・・。あ、ちょうど今、練習してるカレの件でね」

男は挨拶もそこそこにサッ力ー場に向けて目を細め、ひとりの選手を指す。

「いたいた。アイツです」
視線の先に、金髪をなびかせてグラウントでボールキープする青年の姿があった。

「ホラ、持ちすぎだぞーあーあ、あれじゃすぐカットされるよ」

コーチのように青年のプレーを分析する男に私は額くより他ない。なにもサッカーにかける青春を取材しにきたわけじゃなし、その辺のところを理解してもらっているのだろうか。

「でもね…。ああ見えて彼は▲県の国体選手なんですよ」

「ほー、それじゃ雪国育ちだ」

男は私を見てニヤリと笑った。

「彼は一度だって▲県なんて行ったことないんですよ」

大学内の食堂で席に着くと、ようやくその男、鈴木清二氏(41才。仮名)は自らの素性について語り始めた。

「鈴木さん、先ほどの話なんですが・・」

「ああ、さっきの彼は▲県の臨時職員なんです。現住所も県内の職員住宅。ま、書類上だけですが」

無論、男の仕業であることは明白だが、国体開催地でもない▲県に選手をコーディネートして一体なんの得があるのか。困惑する私を見て、氏は穏やかに微笑む。

「サッカーブラジル代表の補欠選手が日本人に帰化するといったら、監督はどうすると思ういます?」

「さあ…まあ、補欠でも上手い選手だったらノドから手が出るほど欲しいんじゃないです?」

「まさに、▲県がそうなんですよ」
氏はこの大学のサッカー部が全国的に見てもハイレベルでしかも青年のポジションには多数ライバルがいるため、レギュラーに選ばれることは非常に困難だと言う。酷なようですが、彼ぐらいの選手はここにはゴロゴ口います。

無論、国体なんてーー

つまり、進学校の落ちこぼれが偏差値をワンランクさげた学校にいけば秀才になれるという理屈か。

「世話人の仕事は開催地に集めるだけじゃない。彼のように一流の中にいるとかすんでしまうけれど腕は確かなニ流選手を発掘して、弱小チームに助っ人参加できるよう根回しする。これも私のビジネスです」

最初によそ者を国体選手に化けさせてから十数年。熱血教師がそんなコーディネート業に手を染めるようになったのはどのような経緯があったのだろうか。

大学のベンチウォーマーが地元に帰った途端、代表選手中部地方の●県に生まれた鈴木氏は幼い頃からスポーツ万能で、小学生のときサッ力ーとめぐり合うなり、メキメキと頭角を現した。そしてインターハイ常連の名門サッカー部がある関西の学校に進学、さらに運動選手ばかりを集めた体育大学へと推薦される。まさにスポーツエリートの典型的コースといえよう

が、順風満帆だった氏の選手人生に突然暗雲がたちこめる。常にピッチを駆けていたレギュラーからベンチを温める役に回されてしまったのだ。織烈なポジション争いの落伍者。それは人生最初の挫折であり、最大の屈辱であった。失意のまま卒業。地元に帰郷して体育教師になった途端、彼は再びプレーヤーとして脚光を浴びる。

「大学じゃパッとしない私が県代表チームに選ばれちゃったんです。ま、それだけ●県のレベルが低いってことですね」

チームの要として数年間の充実した選手生活を経て引退。そんな氏のもとに運命を左右するー本の電話がかかってきたのは、ある暑い夏の日のことだった。

「おーう、鈴木。久しぶりだな」

声の主は県代表チームの先輩で、現役引退後にコーチを経て監督になっていた上原(仮名)である。

「ごぶさたしてます。チームの調子はどうですか」

「おお。そのことでちょっと相談があるんだけどよ…。オマ工、世話人になってくれねーか」
上原はチームの選手層の薄さ、特にディフェンス面の弱さを懸念しており、後輩で良い選手がいれば、住人と偽って試合に出場させたいというのだ。

「そういう話ですか」

「おい、こんなこと皆やってることだろ。何とかいいようにコーディネートしてくれよ」

名門出身のコネを狙って、いつかこんな申し出がくるだろうと予想しないでもなかったが、アマチュアの世界で策を弄するのはアンフェアではないか。日頃から疑間を持っていた氏に即答はできなかった。
体育会の人間だったら先輩の頼みは断れない
しかし、数日間悩んだ末、結局彼はこの申し出を承諾してしまう。

「体育会の人間だったら、先輩にそこまで頭を下げられたら断れませんよ。私のようなチャンスに恵まれない選手のためにもなる、と自分を納得させ、今回限りという条件で引き受けました」

さっそく、氏が2大学の後輩から情報収集すると、すぐに現役サッカー部員の田口(仮名)という選手の名前が上がった。インターハイでかなりの活躍をしたものの、やはり同じディフェンスに全国レベルの選手がおり、控えに甘んじていた男である。

ターゲットが決まれば、次は監督を口説き落とす。学生チームとはいえ衣籍している以上、全権は監督にある。逆に監督を落とせば8割以上交渉は成功したようなものだ、と氏は語る。

「まず、交渉は監督の先輩にあたる人物を調べてから接近します。先輩かりの紹介ならば無下に断れない。私が上原さんの頼みを断れなかったようにね」

監督を味方に付ければ話は早い。学校側に休学中の出席日数などの話をつけてもらい、本人と直接交渉する場をセッティングさせる。

「こちら、●県代表選手にもなった鈴木先輩だ」

「チワース、田口っス」

練習後、22才に見えないニキビ面の青年に氏は単刀直入に用件を伝えた。

「どうだ、武者修行のつもりで行ってみないか。選手として箔もつくよ」

「自分が●県代表…。そんなことができるんスか?」

「それは鈴木先輩にお任せしろ。いい勉強になるぞ」

監督の強力プッシュもあり、田口はふたつ返事でこの話に飛びついたのだった。後は、契約書を作成して住民票の移動、選手登録するだけで県代表選手のできあがりである。20万で強い卓球選手の調達をお願いします

数力月後、

「イヤー、さすかだな。オマエの後輩はよくやってくれたよ」

上原が5万円分の商品券をもって氏のもとを訪れたのは大会の翌日であった。

「先輩、やめてください。こんなもの受けとれませんよ」

「ま、ま、ほんの気持ちだって・・」

「それで話は変わるけど、レスリング関係者とかも知ってるか?」

なんと、今回の成功を聞いた他種目の関係者から自分のチームも選手をコーディネートして欲しいと依頼が殺到しているというのだ。

「野球、ボート、アイスホッケーなんて種目からも依頼がきましたよ。ま、確かに後輩や同期を当たれば、とんな種目でも国体レベルの選手を調達できます。ただ、ー回だけという約束でしたからねえ・・」

とはいえ、上原の顔に泥を塗るわけにもいかぬ。競技者として、監督やコーチが氏にすがりついてくる気持ちもわかりないわけではなかった。

「こうなってしまったら仕方ないですよね。これは割り切ってやるしかないと腹をくくりました。でも、不思議なもんでそう思ったら急に楽になっちゃったんです。私、基本的にスポーツバカでしょ。いろんな選手のプレーを見て分析したりするのは大好きなんです。ま、セコイ話ですけとビール券や商品券、お歳暮なんて貢物もどっさりもらえますしね」

平日は教師として指導しながら体育会のネットワークでニ流選手の情報収集を手がけ、週末は趣味の釣りに出かけるかのように全国を視察に飛び回る日々。

そんな氏が《金儲け》を意識し始めたのはある人物からの依頼かきっかけだった。どういうルートで聞いたのかスポーツ店の人間から依頼があったんです。

「20万で強い選手を用意してくれってね」

報酬の現物支給はジャージやスニー力ー
国体で好成績を収めた種目があれば、地方行政はその競技に関してかなりの額の助成金を出す。競技人口か増して、器具の需要でもあればスポーッ店のビジネスチャンスともいえなくもない。が、それではあまりにも風が吹けば桶屋が儲かる的発想ではないか。20万も払って氏に卓球選手をコーティネートしてもらって何の得があるというのだろう?

「実は、国体でいい結果を出した種目は小学校や中学校の授業で推奨されることが多いんです。彼らの目的は県囚の小学校や中学校で卓球の授業が増えたり、新たに部活動が出来ることにあったんですよ」

企業などが物品を購入する際は、数社かり見積もりを出させてプレゼンさせるのが普通。が、学校や役所等の公的機関は決まった業者から納品させる。しかも、地域の企業を助けるという名目で、定価での購入が原則である。

「そのスボーツ店はいくつかの学校で業者となっていたんです。もう、おわかりですよね。新品の卓球台はー台30万。それが5-6台も注文されれば田舎のスポーツ店なら万々歳でしょ」

依頼を受けた氏は西日本にある某体育大生をコーディネート。その選手は見事、国体で●県卓操男子入賞の立役者となった。後日、氏に成功報酬として更に10万円が振り込まれたことを考えると、このスポーツ店は予想以上の《国体バフル》に湧いたようだ。

これは後で気ついたんですが、今まで様々な送られてきた貢物も、実は、彼らがスポンサーだったんです。スポーツ店組合から補助金と称した選手獲得の資金が監督に渡される慣例があり、氏が受け取っていた商品券などはそこからまかなわれていたのだ。

でも、中には現物支給をする店もあるので、新品のスニー力ーなんてことも。ま、私の場合は仕事だから無駄にはならないですけどね

役人に貸しを作っておいて損はない

国体選手コーディネーターとして手腕を振るい、数年が経過すると、県外の競技関係者にまで氏の名声は響き渡るようになった

「国体開催地からも依頼がくるようになり、多いときは年20人ぐらいの選手をコーディネートしましたよ。その半分ぐらいがスポーツ店です。あと、この頃になると依頼の幅が増えてきました。例えば、建設業界ですね」

先ほとのスポーツ用品店と同じ理屈だが、国体で好成績が出れば
運動施設を充実させようといっ風潮になるのは地方行政の法則のようなものだ。新しく陸上競技場を建設する。古くなった武道場を改築する。公共事案は地元の工事関係者にとって、下請けや孫受けまでも利益の出る
県議会に圧力をかけることだってできるから確実に儲かる。競技場建設など億単位の仕事を手にすることができるわけだから報酬の方も良かったですね

しかし、中には非常に稀だが金銭的な損得抜きで依頼をしてくる者もいる。ある県では男が身分を隠して依頼することまであった。彼らの仕事は、規模の大きなイベントを開催すれば評価される。例えば海外のジュニア選抜チームなんか招待するような大会とかね