会話のタネ!雑学トリビア

裏モノJAPAN監修・会話のネタに雑学や豆知識や無駄な知識を集めました

学校の選定業者は美味しい

ああ、今日もハローワークに行かなきゃ。うわっ、新聞の求人情報見忘れた。…こんな悲しいお父さん方の溜息が、巷のあちこちで聞かれるようになってはや久しい。
景気は回復するどころか、失業者が増加する一方。再就職はままならず、運良く職にありつけたところで、収入ダウンは避けられない。ああ、人生終わっちゃった。母ちゃんに息子よ、お父ちゃんはこの先どうすりやいいんでしょうか。
2年前に長年勤めていた食品会社をリストラされ、果てはそれが原因で妻にも逃げられたオレは、そんながっかりオヤジの典型だった。
コンビニでバイトを続けつつ、来る日も来る日も職安に通う生活。唯一の楽しみと言えば、近所のスナックでチビチビと安いウィスキーを祇めることくらいだ。
だがしかし、天は見捨ててはいなかった。その後オレは、まったく働かずに年収600万をもらえる、夢のようなボンクラ生活を手に入れたのだ。そもそもの発端は、まだせっせとハローワーク通いを続けていた1年と数ヵ月ほど前。バイト帰りに立ち寄った、馴染みのスナックに顔を出したときにさかのぼる。
クラーイ顔のまま、入り口のドアを開けると、見覚えのある老人が1人でカウンターに腰掛けていた。
このジイ様はオレのご近所さんで、家にベンツを2台も所有し、しょっちゅう、婆さんの運転で優雅にお出かけになるのだが、オレにすればただただ羨ましいだけ。
いったい何者なのだろうか.年金生活者にしては、派振りがよすぎる。よし、ちようどいい。今日こそ正体を探ってやれ。
「こんばんわ。近所の草野です。いつも道ですれ違いますよね」
「ああ、どう直とうも。いや、たまにはこういうところで1人、クイっとやるのもいいかと思いましてね」
どうでもイイ話を1時間。だいぶ酔いが回ったところで、本題を切り出した。
「坂下さんは、何のお仕事をされてるんですか。まさか、大会社の会長さんだったりして」
「いや、そんな大層なもんじゃないです。私ね、ある高校に出入りする総合選定業者ですよ」
ずっとこの話題になるのを待っていたかのどとく、ヤシは自慢気に説明を始めた。なんでも、総合選定業者とは、学校に出入りする各選定業者(修学旅行を受け持つ旅行代理店や、新入生の制服を一手に取り扱う繊維メーカー、校舎の修理修繕を行う建設会社など)を取りまとめ、それらをセットで学校側と契約させる業者らしい。
しかも、ただお抱え業者のリストを持って学校に営業、取引が成立すれば後は各業者が学校から支払われた額の1割をキックバックとしてもらえるという。
それで年収2千200万って…ねえ、ウソでしよ?
「なんでそんな商売が成り立つんですか?各業者が勝手に取引すればいいじゃないですか」
「いんや、そう一概には言えないんだよ。つまりね...」

同じ学校でも確かに公立では、各業者単位で個別に取引され、入札も厳正。ウサン臭い総合選定業者の入る隙間などこれっぽっちもない。だが、私立の場合はというと状況が少し異なる。

まず、取引相手が総合業者から派遣される業者だろうが、個個の業者だろうか一切関係ない。要は料金が安ければいいらしい。しかも、その際の決定権は担当の職員もしくは教師に一任されているケースが多いので、その人物に強力なコネかあれば意外なほど簡単に仕事が取れるというのだ。

「ははあ、そうなんですか。で、坂下さんは何かコネがあったんですか?」

「うふふふ。私はね、10年前まで文部省の役人だったの」

ああそうですかい。ったく役人っちゆうヤツは。大親友が教頭先生。これほど強力なコネはないこんな馬鹿けた商売で大金を稼いでいる野郎がいると知って、ハローワークになんか行ってられっか。どうにかしてオレも選定業者をやれないだろうか。坂下に会って以来、オレの頭はそのことで一杯になった。コンビニ労働者がナニをホザいとるのだ、とバカにするなかれ。実はオレにはーつの目算があった。

地元、関東は0県にある私立A校。そこに30数年来の大親友、浅田が教頭をしているのだ。ヤツに相談すれば何か道が開けるかもしれない。さっそく連絡してみたところ、ビックリ仰天。なんと浅田自身が、選定業者を決める責任者だというではないか。おお、メチャクチャついてる。ひょっとしてコレ、とてつもない話に化けるかも。

「というわけでさ、オレなんか入り込む余地はないかな。なあ、力貸してくれよ」

「うーん。協力するのは全然構わないんだけど・、そうウマくいくかなあ」

「いや、もちろん報酬は払う。オレが受け取るマージンの4割。これでどうだ?」

「ばか、当然だろ。オレがいなきゃナイ話なんだから。そうじゃなくて…」

浅田の心配はこうだ。現時点でA校と取引している旅行代理店、建設会社、体育用具店は当校の理事長の息がかかっており、新しい業者と契約を結ぶことは不可能に近いという。他の業者はともかく、旅行代理店が抑えられないのは痛い。修学旅行は何千万も動くビッグビジネス。仮にマージンがー割でもウン百万である。

問題はまだあった。基本的に文房具などの備品系や建築・設備関係の業者は見積もり次第で、割と変更は簡単だが、制服メーカーとなると話は別。わざわざ学校のために制服の生産ラインを立ち上げたメー力ーを容易に切れるハズがないというのだ。

「そうか。やっばりダメか」

「うーん。いやでも、今取引している制服メー力ーは縫製が甘くて、破れるんだよ。毎年必ず生徒からクレームのあるところなんだ。だからそこを突けば、もしかして替えられるかもしれない、かなあ」

「ちなみにドコだよ、ソレ」「ミ●コ口ンのデザイン、制作・販売は『5』デバート、おまけに価格は15万だよ」

・・そんなフランド力に対抗できるモンがどこにあるんだよ、オレに。浅田は、少なくとも同デザインのモノを12万で提供できれば、可能性ゼロではないと言うが・・・。
「とにかく、やるなら早く動けよ。新しい制服メーカーを入れるなら、半年以内に手を打たないと、来年の入学式に間に合わないからさ」
「あ、ああ。そうか」
情けない.協力要請した相手に、いつの間にやら尻を叩かれているとは。

3日後、オレは業者集めの営業を開始した。洋服の青山で買った安スーツを着用、用意した名刺をたずさえて、各業者を訪ねまくる。
「…というわけで、今度そのような会社を作るんです。で、ぜひウチに参加していただけないかと思いまして」
期待はしていなかった。いきなり訪ねてきて、大口の取引先を紹介してやるとほざくオヤジを誰が相手にするってんだ。が、その卑屈な予想は良い方に外れた。
この不況下、安定した顧客がつくことはかなり魅力的らしい。売上の1割からキックバックをもらう条件をつけてもニッコリである。結果、約3週間で、文具・備品、建設会社、空調設備会社、などの業者と実にあっけなく商談が成立した。
さて残るは、制服メーカー探し。とにかくこれだけは、他の業者のように単に料金を安く抑えるだけではダメだ。加えて、縫製がしっかりでき、かつ約加力月先の入学式までに納品できる技術がなくてはならない。我ながら、ムチャクチャな要求だと溜息が出るが、ここをクリアしないことには夢の生活は手に入らないのだ。
だが、そんな都合のいい業者が容易に見つかるわけがない。地元、○県は言うに及ばず、関東圏内の制服問屋、工場などを片っ端から訪問するも、変人扱いされるだけ。門前払いが関の山だった。
そんな厳しい状況の中、オレは染物会社マイム(仮名)に行き当たり、商談の末、見事
社長と固い握手を交わす。決め手は、打診した数多くの業者の中で、原価をもっとも安く抑えることが可能だったこと、そこの社長から多大なる好意を頂いたことの2点だ。
しかも社長さん、この時点で、A校の選定業者として送り込めるかどうか確約できないのに、制服の生産ラインを来月中までに準備すると言い放つ。
「本当にいいんですか。お宅を選定業者にできない可能性も十分あるんですよ」
「はは、この景気でしょ。お恥ずかしい話、いま相当ヤバイんですよ。で、内輪で色々相談したんですが、ここはいっちょ草野さんのコネに賭けてみようと。どうせこのままなら倒産するだけですから」
さて、コマが揃えば、次はいよいよ会社を設立しなければならない。学校側や、税務署へ体裁を繕うには不可欠だ。オレは会計事務所へ出向き、必死でかき集めた予算50万円で休眠会社の買取りを依頼した。ちなみにこれは、例の坂本ジジィに袖の下を渡し、教えてもらった知恵である。