会話のタネ!雑学トリビア

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突然のリストラ解雇勧告された時の対処法

私が20年近く勤めた会社から突然の解雇予告を受けたのは、昨年3月のことだ。何の前ブレもなかったはずだ。上司に問いただしたところ

「会社のアレだから仕方ないよ」と、完全に逃げ腰。これではラチがあかないとばかりにすぐさま人事部長に掛け合った。
「解雇って本当ですか」

「会社の状況を鑑みると、このままではベースアップどころか給料の未払いが生じかねないんだ。君は優秀な人材だから、このまま会社に残すのは忍びない。新天地を探してガンバってもらいたいという親心だよ」

口調こそ優しいが、要は体のいい《肩たたき》だ。ニュースではリストラの嵐が吹き荒れているときくが、まさか自分の身に降りかかってくるとは。家のローンは20年近く残っているし、高校生の子供もいる。目のが真っ暗になるとは、まさにこのことだ。

それにしても、なぜ私がリストラの対象にされなければならないのだろう。

印刷会社ながら自分なりに業績は残してきたつもりだ。特殊印刷の技術にかけては大手の職人と比べても引けをとらない自負もある。それがなぜ…。

納得できないまま、ともかくリストラに関する情報を集め始めてみたものの、勧告を撤回させる秘策など見つからない。それどころか、私のように会社都合で解雇の場谷、通常、退職金プラス当座の生活資金として幾ばくかの保証金が支給されるのだが、現状ではそれさえ満足に出ないことまでわかった。ガックリである。
集めた資料の中には『こうして私はリストラに打ち勝った」などという思わず力の入る雑誌記事も見つかったが、いずれも焦点は保証金の額。世間は、それ相当の金をもらえばリストラもやむなしという認識のようだ。
それでも手がないことはない。例えば、会社内外の労働組合や裁判所を介せば、一方的に解雇された社員が会社側と交渉することは可能で、実際、某零細企業の社員が労働者支援団体「東京ユニオン」の力を借り、1人アタマ200万ずつの保証金を勝ち取った例もあるという。
また、勤務した会社を解雇された男性が、地元の共産党議員に泣きつき、結果、個人的な和解金として600万もらったという話も聞いた。だが、果たしてそれで《勝ち》と言えるのだろうか。
印刷のスペシャリストとして20年間働いてきた私だ。
仕事に愛着もあればプライドも持っている。地元で特殊印刷までやるところは他にない。会社を辞めるということはすなわち職を替えることに他ならないのだ。
「今さらオレが他の仕事なんかできるわけないだる」
悪友のタジマを呼び出して愚痴ると、ヤシはそんな会社に居座ってもいいことない、と断言する。聞けば、大手損保に勤める友だちが、リストラ対象から返り咲いたはいいが、1日中、ポスティング用のチラシ折りをさせられているそうだ。
「昼メシ休みの1時間以外、狭苦しい部屋から外に出られないらしいよ。もし出たら与えられた職務を放棄したって職務怠慢に問われる。屍理屈もいいとこだけど、何度かやればそれで懲戒解雇の理由になっちゃうってんだからおかしな話だろ。オレならそんな会社、こっちから辞めてやるよ」
そうかもしれない。リストラが取り消されたところで、上に晩まれながら仕事をするのも気分が悪いだろう。私は解雇勧告を受けようと決心した。

「やっと覚悟を決めたか。じゃ、心当たりのとこは当たってみるから大船に乗った気で待ってるよ。ところで、リストラ要員はおまえの他に何人いるんだ」
「えつ・・・」
退社を決め、顔の広いタジマに再就職先を頼んでいる途中で、気がついた。そういえば私以外に解雇勧告を受けたという話を聞いたことがない。
翌日、同期の連中に尋ねると、

「そんな辞令聞いたことないよ。おまえだけじゃないの。ほら、例の一件でずいぶんにらまれてたからさ」

とのこと。念のため人事に確かめると、会社を辞めさせられるのは私だけだった。
となれば、同期に指摘されるまでもなく心当たりはある。以前、会社が特殊印刷の質を落としてでもコストを下げろと言ってきたとき、先頭を切って反対したのが私だ。一応、会社側が引く形で話は収まったが、上は根に持っていたらしい。
半年も前のことじゃないか。ずいぶん陰険だな。このままスンナリ辞めてたまるか。
ムラムラと闘志が湧いてきた。恥をさらすようだが、我が社は典型的な同族会社で、役員たちは社長の親類縁者ばかり。仕事もせず遊び歩いてる人間が腐るほどいる。
あんなヤツらがのうのうと会社に残り、私が解雇されるのはあまりも理不尽だ。ヤシらの弱みを探り出してリストラを撤回させることはできないものか。私は、以前、仕事で知りあった興信所に事情を話してみることにした。
「わかりました。こういう場合、手っ取り早いのはスキャンダルなんですよ。女性関係にだらしない人物に焦点を絞りましょう」
一笑に付されるかと思いきや、実に親身だ。何でも最近は、私のようなリストラがらみの依頼が結構多いそうだ。相談の結果、女遊びのウワサが耐えない常務と、女性社員がこっそり《セクハラマン》と呼ぶ人事部長の2人に対し素行調査を行うことになった。
「全力を尽くしますがウマクいくとは限りません。それでもいいんですね」
念を押され、一瞬ひるんだ。なけなしの退職金を注ぎ込んだ挙げ句、何も出てこない可能性もある。
(私はとんでもない間違いをやらかそうとしているのだろうか)
いや、違う。例え路頭に迷うハメになろうとも意地を捨てたら終わりだ。
「お願いします」
私はしっかりとした口調で答えた。解雇勧告を受けて1週間後のことだ。
解雇の日まで3週間。その間に調査結果が出なければ、ロクな蓄えもないまま新しい仕事を探さなければならない。私はとりあえず勧告を保留したまま以前どおり出勤し続けた。
むろん、行ってもやるべき仕事はない。会社側が手を回し、すべての担当から私を外していた。それまでが残業残業の忙しさだっただけに、終業時間と同時に退社する毎日はひとしお虚しさが募る。帰宅して、興信所へ電話を入れるのが日課になった。
「今日は2人ともまっすぐ自宅に帰りましたよ」
「そうですか」
空振りが続き、やはり何も出ないかとあきらめかけた5日目の深夜、待望の連絡が携帯に入った。
「人事部長がポロを出しましたよ。相手は部下のOLです」
出先から市内のシティホテルに直行する部長を追いかけた調査員が、若い女性と一緒に食事をする部長をキャッチしたという。聞けば、そのままホテルの部屋にチェックインし、2時間後、出てきた2人を別々に尾行した結果、女性が同じ人事部の部下であることをつきとめたらしい。やった。これで人事部長を道連れにできる。タイミングを見計らって証拠を突きつけてやろうと構えていると、部長は翌週も別の部署のOLとラブホテルにしけこんだとか。
自分の1人娘と変わらぬ年齢の部下に次々手を出すとは、とんでもないオヤジだが、常務も負けてはいなかった。元秘書に子供を産ませ、毎週、別宅に通っていることが発覚。おまけに、その母子に支払っている月月の養育費は、なんと会社の交際費から横流ししていたのだ。
「これだけ証拠が揃ったんですから、1千万単位の保証金は取れると思います」
調査マンが、証拠写真付きの報告書を手渡しながら言う。
やっぱ金をもらって辞めるしかないのか。とっくに会社に見切りをつけたはずなのに、切り札の証拠を手にして私はまた迷っていた。
解雇5日前、出勤するとすぐさま常務と人事部長を呼び出した。会議室で2人と向き合う。よし、ここが正念場だ。
「ご心配をおかけしました。会社の意向に従います」
保証金交渉でも始めると思ったのか、かしこまっていた2人が私のことばを聞いた途端、露骨に顔をほころばせた。すかさず付け加える。
「ただし、あなたがたも私と一緒に辞めてもらいます」
瞬間、人事部長のほほが引きつった。
「なにを言い出すんだ。うちらにはこれまで会社に貢献した実績があるんだ。きみと一緒にしないでくれたまえ」
「確かに実績はあるかもしれません。しかし、あなたがたは会社の名誉を汚すようなこともしてらつしやいますね」
「何を血迷ってるんだ、浜崎くん」
あくまで強気な態度を崩さない人事部長に、私は興信所の調査報告書を差し出
した。
「失礼と思いましたが、妙なウワサを耳にしたのであなた方のことを調べさせてもらいました。部長、あなたは部下2人とホテルに行きましたね。いい大人が詞2時間もホテルの部屋にいて何もなかったってことはないでしょう。それに常務。元秘書に子供を産ませただけでなく、あなたは会社の金を横領してますね」
「oooo」
「●●●●」
報告書を見つめたまま固まってしまった常務と人事部長を残し会議室を出る。
と、急転直下、事態は急変を告げた。その日の午後、いきなり社長室に呼ばれ、直々に謝罪のことばを受けたのだ。
「常務たちが見苦しいことをしたようだ。許してやってほしい。できる限りのことをするからきみの希望を言ってくれ」
そこで改めて私は考えた。多額の退職金と保証金をもらったところで、会社を辞めるのは本意ではない。確執は残るかもしれないが、社に残りたいと伝えた。
「わかった」
社長は領くと即刻、解雇を撤回特殊印刷部を新設。
解雇されそうになったら、会社側が公にされては困る弱みを見つけるのが一番だ。