会話のタネ!雑学トリビア

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地方競馬の八百長レースで1千万儲けた男

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何度やられても懲りす、3年間で30万は負けたか。どこにそんな金があったのか我ながら不思議でならない。それでも、大学に入るころより、おぽろげながら馬券のスタイルが壁立され、ソコソコ勝ちの味を覚えるようになった。軸が堅いと確信を持ったレースのみ枠で総流し。稚拙な方法だが、大負けも大勝ちもない分、楽しめたものだ。

大学を2年で中退した後は、外車の販売会社へ。高校の先輩が勤めていた都内の大手並行輸入屋に就職した。車というのは一般的にディーラー価格とよばれる定価がある。そこから割り引いて販売するのが並行のメリットだった。ところが時代がバブルに突入すると外車を取り巻く環境は一変した。並行輸入車の需要が高まり、一気にプレミアがつき始めたのだ。この機にオレは暖簾分けのような体裁で独立、都内で外車販売店の経営に乗り出す。取り扱ったのはベンツなら560sEL、フエラーリならテスタロッサなど。儲けは1台数百万から1千万に達し、しかも飛ぶように売れた。気がつけば、独立わずか1年チョイで通帳には1億円以上の金額が記される。金も女も手に入れた。あとオレが欲しかったものは、高校のときから憧れていたJRA(中央競馬)の馬主株だった。

憧れの馬主資格を得たもののランクは最低4流オーナー
営業がてら資格を持つ不動産屋連中に話を聞くと、馬主になるには以下3つの条件が必要らしい。

①預貯金が1億円以上の

②年収3千万

③不動産の所有これをクリアした後、親族に前科者がいないかとか、禁治産者じゃないかなど細かく調査される。が、重要なのはそこからで、実はこの基准事パスしてもすぐには馬を持てない。

どういうことかと尋ねると、中央競馬では厩舎の馬房数(馬の部屋)に限界があり、調教師にコネでもなければスンナリ入厩とはいかないそうなのだ。
さっそく、客の1人で馬主資格を持ったK氏に相談してみる。

「オレもそろそろ馬主になりたいと思って。何かいい方法ない?」

「そうか。先生(調教師)になら口は利けるけど。資格自体はどうにもならないなあ」「……」

やはり通常の手続きを踏むしかないのか。落胆するオレにK氏が言う。

「社台を利用してみればいいんじゃないか」社台とは競馬会で最大手のグループである。4つの牧場の他にトレーニングセンターや種牡馬施設を有し、JRAに対する影響力もハンパじゃない。昭和55年、日本で初めて共同馬主のシステムを作ったのもここだ。「共同馬主でまず、実績を作るんだよ。で、彼らに相談するといいんじゃないかな。JRAの審査は厳しいけど自分1人だけでやるより、間に入ってもらえば若干ラクになるからさ」

即行で資料を請求し、入会。間もなくオレは担当者と親しくなり、審査協力の快諾を得た。
が、それでJRAの基準自体が緩くなるほど甘くはない。1億円の預貯金と年収3千万はクリアしたものの、「1億円程度の固定資産所有」という壁にぶち当たったのである。オレは先のK氏宅を訪れた。

「審査用の不動産なんとかならないかなあ」

「しょうがない。名義を貸してやるから、それで登録しなよ」

K氏の好意で相場価格2億円の物件を1年間、名義だけ貸してもらう。保証金込みで謝礼3千万と高くついたが、背に腹は代えられない。こうしてオレは平成2年秋、一頭の馬を買い、晴れてJRA馬主の一員となった。栄えある馬主席で下界の馬券ファンを見下ろす優越感。オレはついに、夢を実現させたのだ。

しかし馬主には暗黙の了解ともいうべき階級があった。それは、酒や女、その他生活費などを除き、純粋に馬道楽にかけられる小遣いの金額でランク付けされている。常に数10頭の馬を所有し、10億単位の金を動かせる人が1流だとすれば5億前後が2流、5千万円程度が3流という具合である。

オレが馬に使えるカネは、どう見繕っても2千万。要は最下級の4流馬王だったのだ。実際、トップ連中のハデな遊び方を目の当たりにすると、声も出ない。中でもインパクトがあったのは1レース毎に枠番で軸を決定すると、そこから100万ずつ総流しする某有名馬主。この人の場合、予想の一切をお抱えの専門家に任せていたから驚きだ。そんなこと、どう転んでもオレにはマネできない。
「しばらく草に行くぞ。儲けさせてやる」
大半が言葉すらかけてくれないトップ連中の中、1人だけオレと伸良く接してくれた馬主がいた。キャリア10年10数頭の馬を所有するT氏だ。何でもバブルのずっと以前に某私鉄の開発で大金を手にしたらしく、話の端々から聞こえる総資産は少なく見積もっても100億以上。現在は高級住宅街にビルや賃貸マンション、土地を所有しているらしい。オレはどういうわけか、このオッサンに気に入られた。屋敷で酒を飲んだり、競馬帰りにパチンコ屋へ連れて行かれたり。ハデな遊びじゃないが、ことあるごとにオレを誘ってくれ、またオレもそれによく付き合った。

「面白いことをやろうと思ってるんだ。よかったら今夜、ウチに来ないか」

T氏がそんな電話をかけてきたのは、知り合って半年後のある日のことだ。何だろ、ス面白いことって。オレは意味がわからないまま、オッサンを訪ねた。

「しばらく草(地方競馬)に行くぞ。儲けさせてやる」

「えっ。オレ地方は買わないんで、よくわからないですよ」

「検討なんかする必要ない。オレの言う馬券を一早えばいい」「はあ」

「いいから聞けよ」

オッサンは普段は見られない真剣な顔つきになり説明し始めた。実は彼は、JRAだけでなく優良血統馬を何頭か地方競馬の厩舎に入れていたのだが、その中の1頭・Yを使ってお遊びしようと言うのだ。

「それってうまり、…イカサマってことですか」

「ウへへ。1度ハマったら、やめられないぜー」

マジか。本当に八百長が存在するなんて、ウソだろ。例えばJRAでは係員があらゆる角度から騎手の動きを追っており、不審があればすぐに問いただされる。まず、イカサマなんて不可能だ。これが地方なら、たしかにマスコミや監視の目も格段にレベルは落ちる。そのため、人気馬をわざと負けさせるくらいなら可能だろう。が、果たして厩舎や騎手が納得するだろうか。

「なんだ、そんなことか。オレが何年競馬をやっていると思う?調教師も騎手も納得ずくに決まってるだろ」

「でも、どうやってやるんすか」

「人気薄で勝たせるのは難しいが、人気馬を負けさせるのは簡単だろ。手綱を引っ張ればいいだけのことなんだからな」

やはりそうか。引っ張るとは手綱を絞ることで、馬を走らせないようにする一種のテクニックだ。それを1番人気になるであろうYに用い、わざと負けさせようというのだ。実はこのY、デビュー前に義務付けられている能力試験(通称、能試)で好成績を出していた。血統のいい馬が試走でも走ったんだから、人気になるのは明らかだった

「そんで、他馬の単勝馬券を買おうって作戦ですか。そんなにウマクいきますかね」「成功するに決まってんだろう。で、最後は、人気の下がりきったところで、Yに勝ってもらえばいいんだから」

なんだかシックリこないが、オレはとりあえず半信半疑のまま領いておいた。
圧倒的1番人気のYがスタートで出遅れたー
レース当日、オレはT氏とともに南関東、某競馬場の馬主席にいた。中山や東京は織稔敷きだが、やはり地方は汚い。タバコの吸殻まで落ちている。

「さて、何レースだったかな」オッサンに先導され、テーブル席へ。オレが用意した金は100万円。10万ずつの束を財布から取り出した。それにしても、自分が所有する本命馬を負けさせて、他馬で儲けるなんてかなりの悪趣味だ。

が、金持ちとは案外そんなものかもしれない。はした金が増えるより、ゲームを楽しみたいのだろう。オッサンがセカンドバックから100万円をポイッと取り出し、学生風情の兄ちゃんに渡した。案の定、Yのデビュー戦は11頭立て人気一本かぶりの単勝110円だった。他馬は軒並み10倍を超えているから、どれが1着にきても儲かる。
ファンファーレが鳴り、ゲート入りが始まった。初戦という馬ばかりあって、なかなかスムーズにいかない。Yは大外8枠だった。

「さあ、これからだ」興奮するオッサンを横目に、オレはまだ疑いを持っていた。が、まもなくそれは信じられない驚きに変わる。ドンッゲートが開き一斉に飛び出す新馬たちの中、Yがいきなり出遅れたのだ一

マジでやりやがったー・中央と違い、地方は先行有利の馬場で直線が非常に短い。新馬にとって2馬身の出遅れは大ダメージである。先頭が3コーナーを回り直線へ進入するころ、ようやくYのエンジンがかかり始めた。やはり良血馬だけあって、騎手の動きに対する反応はすばらしい。果たして、Yは勝ち馬から3馬身差の4着に終わった。
一生懸命追い込んだが届かず。次に期待のできる走りだったVファンにはおそらくそう見えたに違いない。

「ひひ。これだからやめられんわい」配当は15倍。Y以外の10頭に10万ずつ均等に張っていたから、払い戻しは150万、差し引き50万円の儲けである。

「負け方が不自然だと疑われませんかねえ」

「あん?お前もまだそんなこと言ってるのか。競馬に、絶対はないだろうが」

オッサンが言うと迫力が違う。責任は全部、馬になすりつければよいのだ。

「全部が全部そうじゃないけど、草はこうやって小遣い稼ぎする連中も多いんだぞ」

オレの八百長レース初体験はこうして終わった。
新人ジョッキー&休み明け。ワザと人気を下げて…
2週間後。オッサンに誘われ再び競馬場に出向く。狙いはもちろんYのレースである。
前走は論外。マジメに走れば力は一枚上

当日の競馬新聞のYの成績欄の下には調教師のこんなコメントが出ていた。これもオッサンが言わせたのか。単勝オッズは案の定1・5倍のド本命に推されていた。が、結果は3着。善戦するが勝ちきれないというような印象を与えているので、特に不審がる連中も見られない。まったく調教師もそろって役者である。

ただし今回は、馬券的には旨味がなかった。的中させた単勝の配当が低すぎて、トリガミ(回収額が投資額を下回る)になってしまった。どうやらこの八百長も100%ではないようである。もちろんT氏はまったく堪えておらず「次、次」と口から泡を飛ばしている。そして、その言葉を裏付けるかのようにYは次の3走目、人気を二分したもう一頭に勝ちを譲ったのである。100万円の儲け。こんなことってありかー4走目も100万ほど儲けさせてもらった後の5走目。Yに対する世間の評判は「良血のダメ馬」ということで定着しかけていた。

「今度のレースは××(関東のトップクラスのジョッキー)に乗せようと思ってるんだ」「あ、そろそろ勝たせるんですね」

「何言ってんだょ。勝負気配を匂わせ人気をあげておいて、再び引っ張らせるんだっつの」

「えっ」

トップクラスのジョッキーまでもが加担するなんて。ウソだろ。が、結果はオッサンの言うとおり。オレの懐に再び100万近い金が転がり込んできたのだ。6走目。オッサンはいょいょ仕上げにかかる。思惑通り、Yの人気は急下落している。そして、さらに次のような仕掛けを加えたら、疑う者は1人もいない。

①2カ月の休み明け(一般的に、走らない可能性が高いと言われている)の若手ジョッキーを乗せた(へタだと思われている)果たして、Yの人気は地に堕ちた。締め切り5分前の単勝オッズは約30倍である。オッサンは単勝の投票数、枠連の投票数を集計し電卓をひたすら叩いた。早い時点で大量の金を入れるとオッズが不自然になってしまう。それを防ぐため、ギリギリまで待って購入したのだ。

結果、Yは楽勝で1着入線を果たす。怪しまれることはない。普通に見れば、走るべき馬が眠りから醒め、やっと結果を出したということなのだ。オレはこのレースで、Yの単勝に30万と枠連を70万流していた。最終的に単勝オッズは15倍まで下がり、枠連と合わせて差し引き600万の浮き。これまでの6走をトータルすれば、Yー頭で1千万円近く儲けたことになる。笑いがとまらないとはまさにこのことだ。

★それから2年後本業のクルマ屋が倒産し、間もなくオレは馬主資格を失った。それと同時にT氏とも疎遠になっていく。今はオーナー連中とは一切付き合いのない、単なるイチ競馬ファンである。八百長レースで儲けるなどと言葉にすれば、笑い飛ばされるに違いない。が、あの強烈な体験は、紛れもない事実なのだ。