会話のタネ!雑学トリビア

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高額バイト発売前の薬を試す治験は安全で儲かるのか

発売前の薬を試す『新薬臨床試験ボランティア』、通称「治験」

高額バイトとしてつとに有名だが、本当にラクして儲かる仕事なのだろうか。
臨床試験という名の人間モルモット
僕たちが毎日、何気なく使用している医薬品は、市販前に様々な実験を行い厳しい基準をクリアしている。中でも重要視されるのが薬効性と人体への安全性確認で、動物実験(安全量の5-10倍を投与して副作用チェック)はもちろん、実際に人間へ投与する臨床試験も必要不可欠。

治験ボランティアとは、この臨床試験のモルモット役に他ならない。ただ、臨床試験と言ってもいくつかの段階かあり、健康な成人男子(18才~30代半ば。女性は生殖機能への影響を考え不可)が被験者となりうるのは第1相試験と呼ばれる最初の実験のみ。

とりあえず、実態を知るには自分で体験するのがいちばんと、僕は情報を探し回った。しかしこれか、なかなか見つかりない。インターネットで「治験」と打ち込み検索すると7千件以上がヒツトするものの、第2、第3、相試験の被験者募集ばかり。(第2、第3は症状を持つ患者のみ可)

健康な成人男子の募集はどこにも見当たらない。掲示板には治験バイトを紹介してくださいとの書き込みだけが目立つ。その辺りの事情を、ある医薬業界の者はこう話してくれた。

「新聞や雑誌広告で治験ボランティアの求人か解禁になったんだけど、対象は第1相試験のみ。第1相試験に関しては、表向き製薬会社が自分とこの社員を使って行うことになってて表には出ないんだ。もちろん、一般のバイトがやってるのは公然の秘密なんだけど、どうやって人を集め、その結果どんな副作用が出たかはギョー力イでもトップシークレットだよ」

体験者によると、治験仕事にありつくには、こまめにネットや求人誌を探すしか手はないらしい。稀にアルバイト情報誌「F」や、求人情報サイト「P」、医薬雑誌などに募集広告か出るのだそうだ。

僕の知人K氏は、個人情報誌で「一緒に医療ボランティアしませんか」という広告を見つけ応募したという。「そいつ、ー人につきいくらって紹介料をもらってたらしいよ。大っぴらに求人できないから、製薬会社も困ってるんだって」

治験は製薬メー力ーから委託された専門クリニックが一手に行っており、たいていは紹介制。大学や専門学校生をクチコミで集めたり、ー人3千円程度の紹介料を払って友人を勧誘させている。よって、手っ取り早いのは体験者を探して紹介してもらうことだが、治験を行ってる病院さえわかれば直接交渉でも断られることはほとんどないそうだ。
投薬1錠、採血4回。2泊3日で8万3千円
K氏に病院を紹介してもらった僕はさっそく間い合わせの電話を入れた。新薬と言うし、まったく新しい成分で作られた薬をイメージしだちだが、実際にはそんなケースばごく稀で、貼り薬だったのを塗リ薬にしたもの、周知の成分を配合し直して新しい効果を得るもの、胃薬で使っていたのを血圧の薬に適応したものなど、既存のクスリから作られた新しい効能のクスひがほとんどらしい。
中には、別の会社から発売されている薬品をそっくり真似した商品を市販するための(通称「ゾ口品」)データ採取もわるとか。

「いまだったらこれがいいんじゃないの」

受け付けのオバサンにすすめられるまま、2泊3日/2週間(通常、同じ曜日に2回検査)の血圧調整剤に挑戦することにした。血圧なら副作用が出ても致命的な症状など考えにくそうだ。

入院の前に病院で事前検診(尿検査と採血、体温・身長・体重・血圧・脈拍・心電図の測定)を受診。あくまで"健康な成人"が治験対象なので、この検査に合格しなければ治験は受けられない(交通費として数千円は支給される)。これにパスすればいよいよ本番だ

●18時・病院に集合。これから行う治験に関しての説明を受ける。配布された説明書に『予測される副作用』などと書かれてあってトキッとするが、他の参加者は無表情だ。自らの意思で参加する旨のサインをする。

●19時・タ食。

●23時・消灯。投薬は翌朝とのこと。タ食を食べた後は自由時間で、テレビを見たり漫画を読んで過ごす。

2日日日

●7時・起床。すぐに尿を採り、体温・脈拍・心電図の測定後、小指大の試験管3本分を採血。

●9時・医師の触診を受け、異常がなかったので力プセル錠を1つ水と一緒に飲む。風邪をひくなどして体調を崩した場合は、即刻、帰宅を命じられ、代わりに「補欠」という形で入院していた人間が薬を投与されるそうだ。しかし、この段階で帰宅することになっても参加費としていくらかはもらえるらしい。

●10時・試験管1本分採血。

●11時・採血。

●12時・採血。

●13時・採血、食事。

●19時・食事。

●23時・消灯。食事はー日2回で、採血時以外は消灯まで何をしていても自由

●7時・起床。2日目と同じく尿験査から採血・触診まで受け異常がなければ朝食を食べて10時ぐらいに退院。次の週も同じ日程を消化し、終了時に、’ボランティア料“、8万3千円を受け取った。
病院を抜け出して力ラオケで遊ぶ
治験は予想以上に楽勝だった。入院直前の飲酒禁。さらに入院中は激しい運動、他の薬品投与、喫煙、飲酒の禁止などいくつか制約はあるものの、それ以外は何をしてても自由。ただ寝ているだけで金がもらえる。

拘束時間の長さに比例して高額の報酬か得られるという単純なものではなく、貼り薬→塗り薬→飲み薬と作用が全身に及ぶにつれ、さらに、まったくの新薬かどうかによって異なるらしい。

逆を言えば、時給12千円の範囲内の薬であれば、そう深刻な副作用は予想できないといっことだろう。また、病院によっては管理がずさんで、タバコ吸い放題なんてとこもあるらしい。同室になったベテランボランティアは言う。

「オレなんか、家が近いから消灯後に病院を抜け出して家で寝てたこともあるよ。朝、検診に間に合えばわかんないじゃん。力ラオケボックスで夜通し遊んでも酒さえ飲まなければ見て見ぬ振りしてくれるし」
副作用の危険も無視はできないが…僕は幸いにして異常は出なかったが、市販前の薬を試す以上、なんらかの副作用も覚悟して臨まねばならない。関係者によると、動物実験・第一相試験の段階で副作用が見つかり開発からドロップ・アウトする薬は、市販されている薬のおよそ10倍を予想されるそうだ。

これすなわち、治験を行った薬の9割以上について、薬効性の問題か、副作用が検知されるということである。塗り薬や貼り薬などなら、せいぜい湿布を貼った部分が赤くなる程度で済むだろうが、飲み薬は血管を通じて体中に作用が及ぶ。

入院時の説明で、「予想される副作用」と、万一、副作用が出た場合には病院側がケアする旨をレクチャーされるが、もし一生モノの副作用でも出たらシャレにならない。