賃貸住宅を出るとき、もっとも気になるのが敷金。入居時にあずけた十数万からの大金のうち、いったいいくら戻ってくるのか。結構楽しみなもんですが、予想をはるかに下回る金額しか返却されないのが実状のようです。
それでも大半の人は、何年も住めばあちこち傷みだすし、それを修復するのに敷金が使われるのも仕方ないか、そうあきらめることでしょう。しかし、以前不動産会社に勤めていたボクから言えば、その考えはあますぎです。
そもそも、アパートやマンションなどが解約された際のリフォームは、家主が負担するものと民法第606条にハッキリ定められています(日光や結露など自然現象や日常生活上やむを得ず起きる破損、消耗という条件付き)。
つまり、当たり前のようにリフォーム代を請求してくる大家や不動産屋に店子の敷金を押さえる権利はこれっぽっちもないのです。納得がいかなければ、すぐに法的手段に訴えましよう。分があるのはこちら側。勝てないはずがありません。裁判なんて面倒くさいという人は少額訴訟という手があります。
これは金額が30万以下での金銭トラブルに適用される簡易裁判のことで、最大のメリットは弁護士の必要もなく、当事者と裁判官のみで執り行われる点。費用も収入印紙代の3千円くらいしかかかりません。実際ボクと彼女は、この少額訴訟のおかけで敷金をほぼ全額取り戻したことがあるのです。その経緯をお話しましょう。
彼女が2DKのアパートに入居した際、収めた敷金は15万円。4年間住んでいたものの、部屋を破損したこともなく、まあ少々の汚れを考慮に入れても最低10万は返ってくるだろう、彼女は当初そう期待していました。しかし、家主から返金されたのは、わずか3万7千円と少々。これはいくらなんでもおかしいと、彼女はボクに相談を持ちかけてきたのです。念のため、事前に部屋の仲介をしてくれた不動産屋に間い合わせてみたという彼女の話はちょっと信じられないものでした。なんでも、家主である〇〇建設は壁紙や備品の取り替えと称して敷金を返却しないばかりか、そのカネで建物の屋根などを修理している質の悪い会社で、敷金はまず返ってこないだろう、とのこと。
早い話が泣き寝入りしろと言っているのです。まったく冗談。ではありません。そこで、郵送されてきた明細書をもう一度見直してみると、壁や天井のクロスを始め、畳、換気扇の取り替えなどにかかった費用が計12万。明らかにぼったくりです。ボクはすぐさま、彼女に
「請求された金額は不当であり、残額約12万円の返還を求める。それができない場合は法的手段に訴える」
といった趣旨の内容証明を送らせました。しかし、返事は一向に届きません。ナメられているのでしょう。ボクはついに訴訟を起こす決意を固めました。さっそく簡易裁判所に出向き、彼女の代理人になるための委任状、訴状、訴状の詳細を示した書類の3点、また証拠として、彼女が部屋を出るときボクが撮影したビデオテープを提出。これで準備完了です。
数日後、これを受けて、〇〇建設の書いた答弁書、陳述書が裁判所からFAXで送られてきました。内容は、敷金全額の払い戻しには承服しかねるが、部屋のリフォーム代を全額請求したことは誤りであった、ついては両者で折半をしたいというもの。どこまでフザけているのでしようか。ボクが〇〇建設のナメた言い分を突っ返したのは言うまでもありません。
家主のA社が10万払うことで和解
2週間後、ボクと〇〇建設の社長の代理人、M氏が出頭し裁判か始まりました。
「横浜ひとみの訴状によると被告〇八建設は…。代理人、これで間違いはありませんね」「はい」
「この訴状に対して被告〇〇建設の代理人、なにか異議甲し立てはありますか」
「あ、私どもとしましては・・」M氏は彼女の部屋の汚れや破損は日常生活によるそれではないと主張。その証拠として、彼女と同時期に引っ越した隣人のリフォーム代金の請求書を提出しました。その請求額はわずか3万円です。つまり、M氏は部屋を修復する必要がなければちゃんと敷金を返却している、だからこっちが不当な請求をしたわけではない、というのです。
部屋が汚かったという異議は認められるものの、それが日常生活で発生する通常の汚れではないとする指摘には納得できません。隣部屋と比較されても彼女の入居期間が4年なのに対し、相手はわずか2年。汚れ具合が違うのは当然です。
彼女が喫煙していたことが部屋を汚した原因という相手の主張についても
「タバコの汚れで壁紙を替えるはそちらの義務でしょうが」
と押しの一手で乗り切りました。ここまできたら弱気は禁物です。
「ではこの件を判決しますか、それとも和解にしますか」
一通り答弁が終わったところでそう尋ねる裁判官に「和解でお願いします」とM氏。しかし、ボクが応じるワケもありません。不当な請求をしてきた〇(建設を徹底的にへコましたかったのです。
「では、個別に話し合います。まず、浜田さんから」
いったんM氏が退出した後、裁判官は、
判決を出せば原告の勝ちなのだが、被告が力ネの支払いを拒否した場合、手続きが面倒になる、ここらで和解したらどうだー
とボクを説得してきました。こちらの主張は12万円の返環なので、それに近い金額を〇〇建設から取れれば和解で結構。後はM氏が折半をあきらめてボクの要求に応じるかです。果たしてM氏は、裁判官との長い話し合いのすえ、これを承諾。額は2万少ないもののの、〇〇建設が10万を払うことで終結したのです。
結局、ー週間後に力ネは無事振り込まれたのですが、この支払いに際してM氏が見せたセコサをボクは今も忘れません。ふり込み手数料は込みにしていただけませんか
もう、頼むかり死んでくれ。