会話のタネ!雑学トリビア

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黄金のマスクがあるかの如きポスターで客を騙すツタンカーメン展に非を認めさせる

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ツタンカーメン展のポスターは写真1である。誰が見たって、館内には写真2のような黄金のマスクが展示されていると思う。ツタンカーメンといえばこの黄金のマスクだし、だからこそのツタンカーメン展だろうと。京で開催中の「ツタンカーメン展」が大人気だ。ツタンカーメンの財宝などを展示した催し物で、来場者数は延べ100万人以上にのぼるそうだ。しかしこの展覧会、ちょっとした物議を醸し出している。
ところが実際は館内のどこにもないのだ。あるのは写真1(黄金のマスクとは微妙に違う)の小っぽけなミニチュアだ。なもんだから出口付近で「思ってたのと違うじゃん!」と、がっくりする人間が続出しているらしい。主催者側の言い分はおそらくこうだ。ポスターの写真は確かに黄金のマスクに似ているけど、ただ似てるだけです。
館内にはポスターと同じ顔の小さな像があったでしょ?あれがある以上、ウソをついたことにはなりませんよ。
黄金のマスクがあると思ったのは客の勝手な早トチリですからね――。厳密にはウソでも詐欺でもないけれど、わざと誤解させるようなポスターを作っておきながら、この理屈はちょっとどうなのよ。これがそうなの?地味すぎだろ!
10月。平日の夕方。会場の上野美術館に向かうと、入り口に例のでかいポスターが貼られていた。さっそく会場に入ろうと、チケット(2700円)を買って入場ゲートへ。
20分待ちという看板を持ったスタッフが声をかけてきた。
「今日はかなりマシな方ですよ。週末は2時間待ちがザラなんで」
そんなに待って目当てのものがないとなると、お客が怒るのもムリはない。チケットもけっこういい値段だし。20分後、ようやく中に入った。会場はかなり混雑していた。どの展示物にも人だかりができており、みながボクも私もとのぞき込んでいる。
一応、一つずつチェックしていく。展示物には別に興味ないけど、ポスター写真のブツとやらがどいうものかは確認してみたい。 進んでいくと、ひときわ人だかりができてる展示物ブースがあった。
んっ?ポスターと同じ顔をした小さな人形だ。もしかしてこれがそうなの?地味すぎだろ!(写真3)まもなく出口にやってきた。
「ねえねえもうお終い?」
「…そうっぽいよね」 
そばにいたカップル客が首をひねっている。いかにも騙されたという顔つきだ。彼らばかりじゃない。出口にやってくる人たちは、誰もが納得のいかないような顔をしている。そりゃそうだ、黄金の仮面なんてどこにもなかったのだから。
「制服ババアが出てきたらどうですか?」
会場を出たところに、男のスタッフがいた。インカムで他のスタッフに指示を出しているので、単なるバイトではなく、主催者側の正式メンバーだろう。俺は持参した紙(写真4)をカバンから取り出し、ゆっくりと近づいた。
「さぁ、どうしようかな」
スタッフに聞こえるボリュームで独り言を繰り返す。
「でも、このヘルスってアレだしなあ」
スタッフがチラっとこちらを見て、目があった。
「ねえ、おにーさん、ちょっと聞いてくれる?」
「…はあ?」オレ、これからヘルスに行こうと思うんだけど?」
「あ、そうなんですか…」
「店のホームページをプリントアウトしてきたから見てよ」
紙を差し出す。サイト紹介に載っているのは、セーラー服の女の子だ。
「良さそうでしょ?」
「はぁ」
「ほらこのコ、女子高生みたいですよ」
「はははっ」
「オニーさんも、行ってみたいと思うでしょ」
「そうですね」 
こいつはアホかと鼻で笑われてる感じだが、無視はされない。
「でも、ぼくは前に一回行って知ってるんですけど、この店、実はダメなんですよ。何がダメかわかります?」
「いやぁ」
「実際は、制服を着たオバサンが出てくるんです」
「はははっ」
「ダマシですよ、最悪ですよ。オニーさんもそう思いませんか?」「はははっ」
「オニーさん、この店行きたいと言ったでしょ?でも制服ババアが出てきたらどうですか?騙されたと思いますよね?」
「そうですね」
「悪質だと思いますよね」「そうですね」 
ふふふ、こっちの狙いにまだ気づいていないのか。鈍感なヤツだな。だから、そちらのポスターも悪質なんですさてここからが本番だ。オレはおもむろにツタンカーメン展のポスターを取り出した。
「ということは、これも同じですよね?」
「はい?」
「ぼくはこのポスターを見て、黄金のマスクを想像したんですけど…」
男の表情が急に堅くなった。ふふっ、きっちり追い詰めてやるぞ。
「セーラー服の写真を見て女子高生が来ると思うのも、このポスターを見て黄金のマスクがあると思うのも、同じ早トチリですよね」
「・・・・・・」
「でも、先ほど、その早トチリはお客は悪くない、悪いのは、そんな広告を出しているほうだという結論が出ましたよね」
「……」
「女子高生っぽい写真を載せて、制服ババアが出てくる風俗店は悪質だと、あなたも同意しましたよね?」
「……」
「だから、そちらのポスターも悪質なんです。非を認めてくださいね、いいですか?」
「…はい」
よし。認めさせたぞ。オレの大勝利だ。ツタンカーメン展よ、正義の味方マー君をナメるんじゃないぞ!