会話のタネ!雑学トリビア

裏モノJAPAN監修・会話のネタに雑学や豆知識や無駄な知識を集めました

牛丼を全部食べ切るまでトイレに行くのは禁止です

飲食店選びで大事なのは味、店の雰囲気はもちろんですが、やはりボリュームが重要なポイントであります。最近ではコンビニなんかでも一口パスタだの一口おにぎりだのと
いうわけのわからない小食ブームが蔓延しており、馬鹿なOLならいざ知らず、我々九州男児にはどう考えてもボリュームが足りないメニューが多いように思われます。
しかしそんな中、ボリューム勝負にこだわるあまり客と戦争になりかけている牛丼屋が都内の某私立大学付近にあると聞き、大食漢の友人E君を同行させ早速潜入してまいりました。 
到着したのは12時半過ぎ、ちょうどランチタイムということもあり学生街はどの飲食店も賑わっており、中には行列を作っている店もあるようです。それらの隅に一軒の古めかしい店がひっそりと佇んでおりました。真っ赤な看板は他の店よりも目立ってはいましたが、行列ができるほどではないようで店の前はいたって静かです。ドアは半分開いてましたが店内が薄暗いせいか中を確認することはできなかったので、そのまま恐る恐るドアを開き入店しました。 
既に客は3組ほどおり、やはりどれも学生のようです。夫婦で営んでいるらしく奥の厨房には夫らしきマスター、注文を聞き回って接客しているのがその奥さんのようでした。手前の席にE君と着席し、メニューを拝見。聞いていた通り牛丼がメインで、並盛り、中盛り、大盛りとあり、他にはカレー牛丼なるものも記されてました。壁には
「カレー牛丼でーす」という文字とカレー牛丼の説明をした絵が貼ってありましたが、左側に牛丼、右側にカレーと真っ二つに分かれて丼に注がれている奇怪な絵だったため、ちょっと気になったので自分はカレー牛丼の並盛りを注文し、大食漢のE君は牛丼の大盛りを注文しました。 
奥さんが我々の注文を奥に告げると厨房の方から「大丈夫か〜」という声がしました。最初は誰に言ってるのか分からず、何のことだろうと思っていると周りの学生たちが一同にこちらを見ていることに気づきました。振り向くと厨房からマスターがこちらを睨み付けるように凝視していたので思わずその場で起立してしまいました。
「なんでしょうか?」と小さく震える声でマスターに尋ねるとマスターは「大盛り、大丈夫かって」と怪訝そうな顔を浮かべて言いました。自分は慌ててE君の方を振り返るとE君も突然のことに驚きを隠せないようで「だ、だ、大丈夫だ」と志村けんのようなトーンで返答し、マスターは眉をひそめたまま無言で奥へと消えていきました。周りの学生たちもその不穏な空気を察したのか、こちらを見て何やらヒソヒソと話しています。そこから2、3分、牛丼なので時間もさほど掛からず、奥さんがまずはカレー牛丼を持ってきて自分の目の前に置きました。まあ、壁に貼ってる奇怪な絵とは異なり普通に牛丼にカレーがかかっているだけでしたが、並盛りの割にボリュームはかなりのものです。おそらく吉野家の特盛かそれ以上はあるような印象です。そうなるとE君が頼んだ牛丼大盛りはどれほどなのかと期待しながら待っていると奥さんがお盆に乗った牛丼をゆっくりと運んできました。白ご飯が見えないほど牛丼が山盛りにされており、既にいくつかの牛肉がお盆に落ちてしまっています。想像以上のボリュームのせいか、さすがの大食漢のE君も牛丼を前にしばし固まってしまい、上擦った声で「旨そうだな」と呟くのが精一杯の様子。しかしそこはさすが大食漢、このボリュームを完食するには勢いが大事だと悟ったのか、顎が外れるほど大口を開けてモリモリと食べ始めました。
そこから約20分。3分の2を食べた辺りでついにE君の箸が一ミリも動かなくなり、ロダンの考える人のポーズを取ったまま微動だにしなくなってしまいました。心配になり小声で「いけそうか」と尋ねるとE君は小声で「もう駄目かもわからんね」とだけ呟き、コップの水を飲み干しました。先ほどから水は既に4、5杯は飲んでおり、その都度すぐに奥さんがやってきて水を注いでくれるのですが、どうやらこちらの食の進み具合を観察している様子。
とりあえず時間を置けばまた食べられると考え、そこから20分ほど無駄話をしながら、胃の回復を待ちました。そしてE君が「ちょっと小便行ってくるわ」と席を立った時に事件は起きました。 
E君が奥のトイレに向かうと奥さんが慌ててトイレの前に立ち塞がり、なんと「あの牛丼を全部食べ切るまでトイレに行くのは禁止です」と告げてきたのです。「いや、普通に小便したいだけなんだけど」とE君が懇願するも奥さんは腕組みしたままトイレの前から動きません。結局トイレに行かせて貰えなかったE君が股間を押さえて席に戻ってきたので、ちょうどこちらはカレー牛丼を食い終わったこともあり「完食するの手伝うわ」と言い、E君の丼を手に取り牛丼を一口、口に入れたその時でした。奥さんが今度はこちらにやってきて
「もうトイレ行って大丈夫ですよ」と急に言ってきたのです。「え?どういうこと?」と尋ねると「もうペナルティが発生しましたので」とのこと。
「ペナルティってなんですか?」とさらに聞くと「牛丼を食べるのを他人が協力したら
ペナルティが300円発生しますんで」と壁を指さしました。壁には確かにそのペナルティの旨を記した小さな紙が貼られていましたが、そんなことは注文の時点で言ってくれないと気づかないし、少なくともトイレに行こうとして立ち塞がった時点で説明してくれても良かったはずです。唖然とする我々に「もうトイレ行っていいですよ」と笑顔の奥さん。すると今度はマスターが「最近はトイレで吐いて完食しようとする奴が増えたからトイレ禁止にしたんだよ」とよく分からない追加の説明をしてきました。完食したらタダになるわけでも賞金が出るわけでもないのに一体なにと戦ってるのか。客が牛丼の大盛りを完食するのが嬉しいのか、悔しいのかよく分かりません。店を一歩出るとE君は股間の前後を手で押さえながら公衆トイレへと突進していきました。