会話のタネ!雑学トリビア

裏モノJAPAN監修・会話のネタに雑学や豆知識や無駄な知識を集めました

隣の奥さんが気になってしょうがない

月に入ってすぐのこと。晩酌に付き合う真由美が妙な提案をしてきた。
「そうだ、こないだお隣の奥さんと話してたんだけどね」
「お隣?」
お隣には越してきて間もない笹川家が住んでいる。ダンナと真由美の浮気疑惑はもちろん残っているわけで、真由美の口から彼らの話題が出るのは久しぶりだ。
「今度どっちかの家で飲み会やろうって言ったら、向こうも乗り気でさ。週末にウチでってことになったんだけど大丈夫?」
「いきなりだなぁ。夫婦で来るの?」
「そう。お子さんも連れてくるって」
 …どういう魂胆なのだろう。奥さんと子供だけならまだしも、関係があると疑われてるダンナまで呼ぶだなんて。潔白をアピールするつもりなのだろうか。そんな考えだとしたら甘ちゃんという他ない。いくら関係がなさそうなフリをしていても、オトコとオンナ、しかも体を重ねた者同士にはなんらかの雰囲気が出てしまうものだ。よし、その作戦にあえて乗ってやろう。真実をこの目で見極めてやろうじゃないか。
いやらしい目つきのダンナぎこちない真由美
ピンポーン。
日曜日の夕方にチャイムが鳴った。子供たちの声に遅れて挨拶が聞こえてくる。
「おじゃまします。ワイン持ってきたよー」
「どうぞ、入って」
「あ、ダンナさんだ。お邪魔しますね」
「こんばんは」
最後に例のダンナの姿が現われた。ノコノコとよくやってこれたもんだ。
「全員で来ちゃってすいませんね」
「いえいえ。入ってください」
一家を出迎えた真由美がチラっとこちらを見る。宣戦布告か。お互いに持ちよったツマミをテーブルに並べ、飲み会はスタートした。ぎこちないのはオレだけで、子供たちはおもちゃで遊び、大人はご近所話で盛りあがっている。
「笹川さんのダンナさん、今日は休みなんですか?」
「そう、久しぶりに一日オフです」
「この人、休みの日はずーっと寝てるから、ほとんど寝起きに近いんだよね」
「ウチもそうだよ。ねぇ?」
「ん? ああ、まあね」
真由美と笹川ダンナの様子を伺うオレは、会話に集中できないでいた。なかなか目の合わない二人を見ていると、逆に怪しく思えてくるのだ。しばらく酒を交わすうちに、いよいよ不思議な光景を目にしてしまった。真由美が近所の公園話を奥さんとしているとき、ダンナが真由美の顔をチラ見し、それに気づいた真由美もダンナをチラっと見て、その後にオレに視線をやったのだ。怪しい、怪しすぎるぞ。ヤツは口下手なのか会話にあまり参加していない。だがその後もチラ見は続いている。イヤらしい目つきだ。心なしか、真由美もぎこちない雰囲気だし。
…もうこれではっきりした。オレの目はフシアナじゃない。ヤツらにはオレの予想しているような関係があるのだろう。
熱い視線とボディタッチ
二人の監視を続けながらも、オレの酒のピッチはあがっていく。もはややけくそに近い状態だ。そんなとき、向こうの奥さんが声をかけてきた。
「夏美ちゃんのパパ、お酒強いんですね」
「いやあ、そんなことはないんですけど、ついつい」
「ワタシもお酒好きなんですけど、子供がいるとなかなか飲めないから、今日はすごく楽しいんですよ」
地味な格好の奥さんだが、オレの目をじっと見ながら話をしてくる。顔も赤らんでなかなか色っぽいぞ。
「たまにはいいんじゃないですか?隣だからすぐ帰れるし」
「そうですよね」
その後、テレビの歌番組を見ながら真由美が話題をふってきた。
「最近CDとか買わないからよくわかんないなぁ。どんなの聴いてます?」
「アタシもあんまり知らないんだよね。『マイア・ヒラサワ』は好きなんだけど、知ってる?」
「マイア?うーん、知らないなぁ」
 え?マイアだって?
「あのスウェーデン出身の人ですよね?」
「そうそう!旦那さん知ってるんですか?」
「オレも結構スキなんですよ。iPodに入れてるし」
「ウソー。知ってる人がいると思わなかった」
オレと奥さんがマイアの話題で盛りあがるなか、他の二人はキョトンとしている。なんか楽しいなぁ。
「友達にマイアの知り合いがいるから、今度会わせてあげますよ」「えー!! ホントですか?」「ごめん、ウソです」
「もうー、建部さんったら〜」
そう言って奥さんはオレの手をポンと叩いた。やべ、ドキドキするぞ。熱い視線といいボディタッチといい、勘違いしちゃいそうだ。
「ねえ、なんか変なメールしてない?」
飲み会は2時間ほどで終わり、笹川家がぞろぞろと508号室を後にした。オレはといえば、真由美の浮気疑惑なんかどこかにいってしまい、頭の中は奥さんのことばかりだ。翌日の夜、眠る真由美の枕元に、携帯電話を見つけた。こいつ、奥さんのメアド知ってるはずだよな。どれどれ、あった、これだ。こっそり写し取り、メールを送ってみる。
〝先日はありがとうございました。タテベヒロシです。マイアのCD買ったんで、良かったら貸しますよ〞
30分ほどで返事がきた。〝ホントですか? 嬉しいなぁ〞
〝今晩にでも、ポストに入れておきますよ〞
いきなり積極的に出ても成功はない。ここは仲良くなることからはじめるべきだ。会社帰りにCDを買って笹川家のポストに入れると、翌日奥さんからメールが届いた。
〝CD聴きました。やっぱりいいですね。本当ありがとうございます〞
〝いえいえ。他にもあるからまた貸しますよ〞
〝マイア好きがお隣さんなんて、私幸せものですね(笑)〞
ああ、なんだか秘密のやりとりをしてるみたいですごく楽しい。もう誘っちゃおうかな。飲みに行こうってのもアレだし、お茶くらいならいいでしょ。
〝そうだ、あさって仕事が早く終わるんですけど、よかったら駅前のカフェ行きません?マイアの話、もっとしたいし〞
返事はなかった。焦りすぎたか?返事がこないままモンモンと日々を過ごしていたオレに、真由美が目を細めて切りだした。
「ねえ、なんか変なメールしてない?」「え?」
「隣の奥さんとメールしてるでしょ。なんでアドレス知ってるの?」
イヤな汗が首元を流れていく。奥さんチクりやがったのか…。
「音楽の話したかっただけだよ。アドレスはオマエのケータイにあったのを見て」
「ふーん。それってわざわざカフェでしなきゃいけない話なんだ」
「そんなことはないけど…」
真由美の追及は1時間続き、オレは汗だくで風呂に向かった。ちくしょー、お前もダンナとよろしくやってるくせに。