会話のタネ!雑学トリビア

裏モノJAPAN監修・会話のネタに雑学や豆知識や無駄な知識を集めました

競輪場には当たり車券が落ちている・地見屋って仕事

俺が働いていた地元の清掃会社には、競輪場の廃棄物処理業務というものがあった。集められた大量の廃棄車券は、専用のゴミ袋で管理して焼却処分する決まりだが、持ち回りの当番になるたび、俺はゴミ袋の中で小分けにされた袋1つ(約2千枚)をこっそり盗み、自宅に持ち帰っていた。言うまでもなく目的は、間違って誰かが捨ててしまった当たり車券だ。初めて車券を盗んだとき、新聞のレース結果を見ながら一枚一枚確認してみると、4万円分もの当たり車券を発見した。2度目も3度目も数千円、そして4度目には信じがたいことに6万1千円の配当が付いた(61万円相当)大穴の当たり車券を見つけた。俺は競輪場に捨てられた車券は宝の山だと確信した。その直後、会社の人間関係が元で清掃会社を辞めた俺は、日雇い仕事で生計を立てつつ、ヒマな週末には競輪場に行き、捨て車券を拾うようになっていた。
誰に断って券拾ってんだ!
その日も、当たり車券目当てに地元の競輪場に足を運んでみると、すでに場内のいたるところに大量の車券が捨てられていた。自動換金機の近くが特に多いようだ。だが床に落ちた券を拾う動作は、ほかの客の痛い視線を浴びるばかりか係員に注意されてしまう。なるべく目立たぬよう周囲の目を盗みながら拾わないと駄目だ。と、そのとき、背後から見知らぬ爺さんが話しかけてきた。
「どうだい?  当たり券拾えてる?」
「え?いえいえ、なかなかないもんですね〜」
「そりゃそうだよー。はっはっは。じゃ頑張ってな〜」
爺さんも俺と同じ考えで券を拾ってんのかな。すると今度は作業服姿の若い兄ちゃんが近づいてきた。「おい、オマエ。何やってんだ?」「は?」
「誰に断って券拾ってんだって聞いてんだよ!」
誰にも断ってないけど、なんでオマエに文句言われなきゃならねえんだ?
「ゴミ拾ってるだけだろ?誰に断わる必要があるんだよ」
「このボケが。ちょっと来い」
鬼のような形相になった兄ちゃんに腕を掴まれ、グイグイとトイレの方向に引っ張られていく。するといつの間にやら集まってきたのか、さらに2人の男も加わり、トイレ脇の物陰でボコボコにされてしまった。何で?俺なにか悪いことしましたっけ?   体中の激痛をこらえて正座して謝る俺の前に、最初に声をかけてきた爺さんが現れた。
「兄ちゃん、オマエ知らんのだろうから教えといてやるけどな、日本の公営ギャンブル場はどこでも券を拾って集めてる人がおるの。地見屋(ジミヤ)って言って、仕事でや
ってんだから邪魔されちゃ困るのよ」
「はあ…」爺さんによれば、地見屋の大元はヤクザが仕切っているらしく、彼らの許可なく券を拾うのは非常に危険な行為らしい。
「でも、アンタが金がなくて困ってんなら、元締め紹介してやるぞ。明日、9時半に競輪場の駐車場に来ればいいよ」正直、殴られてむかついたものの、小遣いは欲しいしそ
んな仕事が存在すること自体に興味もある。俺は地見屋のバイトをすることに決めた。
当たり車券は1割を上納  爺さんに言われた通り、朝9時半に競輪場の駐車場に向かうと、1台のワゴン車の周りに小汚い格好の男たちが10人ほどたむろしていた。昨日の爺さんがいる。あいつらだ。
「おおアンタか。昨日は悪いことしたな。彼が元締めだから、挨拶しておいて」
ワゴン車の中にいた首の短い強面の男に簡単な挨拶を済ませ、爺さんに仕事を説明してもらう。 この競輪場は彼を筆頭に数人のエリア長がいて、それぞれ3人から10人程度の地見屋を束ねているらしい。チームはコース周りやスタンド、自動換金機付近などのエリアごとに別れ、捨てられた券を拾い集めていく。天候に左右されず、高い金額の車券が落ちている換金機周辺はベテランたちのエリア。俺のような新人は屋外のコース周りを担当する決まりらしい。ノルマはなく、もしも当たり馬券が見つかった場合は、エリア長に報告し、配当金の1割を上納する決まり。猫ババがバレたら二度と拾えなくなるので誰もズルはしないという。「じゃそろそろ時間だから行こうか」
爺さんから入場券を受け取りいざ場内へ。午前中は捨て車券がほとんど落ちてないのでやることはない。飯を食ったり適当にレースの予想をしたり、ダラダラ過ごしているだけだ。ただし、なるべく無駄な車券を拾わないようにするためにもレース結果だけはキッチリと押さえ、新聞などにメモっておかねばならない。昼過ぎになると、ようやく担当エリアに移動して活動開始だ。 すでに自分で何度かやったことがあるのでコツはわかっているつもりだが、地面に落ちた券を拾う動作は思った以上に目立つものだ。なので拾うタイミングはレース中がベスト。客がレースに釘付けになるのでそのうちに拾い集め、ゴールしたら作業を中止する。券の集め方はチームごとに任されていて、俺のチームはまとめて拾い上げてポケットに突っ込んでおき、ある程度まとまったらレース後のヒマな時間帯に当たりかハズレかチェックする。基本的に当たり車券が見つかった場合は換金せずにその券をエリア長に渡すのがルールだが、チームによっては拾った本人が換金する場合もあるようだ。 爺さんによると、束で捨てられた車券の中によく当たりが混じってるとのことだが、コース周りのエリアにはなかなか落ちてない。やはりベテランたちのいる換金機の近くが美味しいんだろう。「どうだ?当たりは出たか?」「まだ駄目ですね」「今日は荒れたレースがないから厳しいかもしれんなー」丸1日拾い続けたが、結局当たり車券は一枚も見つけることができなかった。閉門後、駐車場に戻ると、元締めの男が萎びたコロッケ弁当と紙パック酒を地見屋のオッサンたちに配っていた。俺はパック酒だけをもらってトボトボ帰るしかなかった。やっぱりこんな仕事、ホームレスのオッサンじゃないとワリに合わないと思う。